第45話(累計 第91話) プロト視点:終焉の刻。
「ままぁ。何があったの? みんな、怖いお顔で、すっごく忙しそうなの」
「プロトちゃん。大丈夫だから、今はおへやで待っててね」
播種宇宙移民船団、最後の日。
まだ幼なかったわたくしは、周囲の様子がおかしいのを母親代わりに育ててくれていた女性に聞いた。
しかし、彼女。
ママはわたしに慌てている様子を一切見せずに、わたしに自分の部屋で待っている様に笑顔で語りかけてくれた。
……あの時、わたくしに今の力があれば、ママは助けられたのに……。
わたくしは、新世代の母。
ノルニルシリーズの初号、プロトタイプとして遺伝子を一から組み立てられ、宇宙船の人工子宮で生み出された。
その後も、定期的に外に出されてママとお話をしていたが、基本は人工子宮。
培養カプセルの中で眠っていた。
……宇宙船の乗組員も交代で人工冬眠をして、必要以上に加齢するのを防いでいたわ。
「うん。わかったの。ままぁ、ひとりで怖いから早くお部屋にきてぇ?」
「ええ。可愛いプロトちゃん」
母親役の女性は、怖がるわたくしの頭を優しく撫でてくれた後、急ぎ足で離れていった。
地球を離れて、人類種の種を宇宙に広げていく播種移民宇宙船団。
恒星間は重力・次元魔法による超光速航行。
恒星系内は重力場推進を使い移動する。
後から知ったのだが、この時に船団は長旅の末にようやく発見した人類が住めそうな惑星。
後の「オデッセア」を発見して、船団の上層部の意見は二分していたそうだ。
「ままぁ。まだなのかなぁ」
わたくしは、外が見える窓から外を見る。
星空の中、茶色な球が見える。
その球の周囲には、沢山の「魚」、宇宙船が群れていた。
「あ! お船が光ったの!?」
窓の外、一つに群れていた船たちが二つに別れていく。
そして二つの群れ同士で光をぶつけ合いだした。
「あ。お船が……」
一つの宇宙船が爆発を起こす。
そして破片が茶色な球、惑星オデッセアに落ちていった。
「こ、怖いよぉ。まま。ママ―」
わたくしは怖くなり、部屋を飛び出した。
そしてママを探しに、いつも内緒で入って叱られていた宇宙船の指揮所へと向かった。
「どうして、こんな事で戦うの? やめましょう」
「もう遅い! 我々は最早待てない。地球からの通信が途絶えて、もう数百年。いつになったら、大地の上で住めるのだ? もう、船の中でずっといるのは嫌だ!」
「でも、あの星のテラフォーミングはまだ途中。もっと水を増やさないと生存が厳しいです。磁場は十分ありますが、砂漠惑星です。氷隕石を極地に落として……」
わたしが指揮所に入ると、ママと男の人。
確か、船長が言い争っていた。
わたしは怖くなり、急いで机の陰に隠れた。
……あの人、嫌いだったわ。わたくしの事を、怖い眼で見てたもの。
「そこから、また大気が落ち着くまで何年かかるんだ!? もう、嫌なんだ。すぐそこに足を付ける大地があるんだぞ? こんな好条件の惑星。もう一生、宇宙をさ迷っても見つけられない!」
「船長、分かりました。ですが、地球人同士で戦ってまで意見を押し通す必要はないのです。こんな事で、せっかくここまで来た命が失われては……」
「そんなの。オマエが可愛がっているガキに、もう一度生み直してもらえばいいのさ。あの人形は、そういう目的で我々が作ったのだから。なんなら、もう少し育った後にオレが抱いてやってもいい。人形とはいえ、凄い美人になるだろからな」
わたくしは、イヤらしい表情でママにそう言い放つ船長に驚き、隠れていた机の上の物を落としてしまった。
「え、プロトちゃん!?」
「人形が、こんなところに来たのか! ここはオマエのようなガキが来るところではない。サッサと培養カプセルに戻り、とっとと寝てろ!」
船長から酷い言葉を受けたわたくしは、恐怖で泣いてしまった。
「う、うわぁぁん」
「プロトちゃん。こんな酷い人のところに居ちゃダメ。貴方はお部屋に返りましょう。さあ、わたしと一緒に寝ましょうね」
泣き叫ぶわたくしを優しく抱いてくれたママ。
しかし、船長はママがわたくしと一緒に指揮所を去ろうとしたのに対し、突然声を荒げた!
「オマエ! さては、ノルニルを独り占めする気だな。前から怪しかった。今からあの星に逃げて、自分達だけで楽園を作るに違いない!!」
「そんなわけないわ! それに、わたしはこの子を生贄にしてまで星に行きたくない。プロトちゃんに酷い事を言わないで!」
詳しい事は、この時に分からなかったが、船長とママが言い争うのが怖かった。
わたくしを抱きしめてくれていたママの手が震えていたのを今も覚えている。
「黙れ! このクソババァがぁ。オマエの事は前から気に食わなかったんだ! オマエは地球に居るころから、俺の邪魔ばかりしtやがって。この船でも船長の俺よりも副官のオマエの方が人気あるのが許せなかったんだ! ああ、ここで逃がしはしない。ノルニルのガキをおいて行け。さもないと撃つぞ!」
船長は拳銃を抜きはらい、銃口をママに向けた。
「やめて! こんな場所で撃って制御系を壊したらどうなるの? それに、間違ってプロトちゃんに当たったら!」
「黙れ! おい、他の奴らも動くな! 動くと撃つぞ。俺にノルニルのガキを渡せ、ババァ。俺はガキと一緒に惑星に降りるぞ」
「きゃぁぁ! ままぁ」
わたくしは悲鳴を上げた。
悲鳴を受けて一瞬、船長の銃口がママやわたくしから外れる。
「やめなさい!」
「ちきしょう、どけぇ。撃つぞ」
ママが船長に飛びつく。
そして二人はもみ合い、しばらくの後パンと軽い音がした。
「はぁはぁ。このジャマなババァがぁ」
船長は煙がまだ出ていた銃を震える手で握る。
ママは床に倒れたまま。
ママの身体の下から赤い液体が流れ出てきた。
「ママぁぁぁ!」
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