第43話(累計 第89話) 戦い終わって。
「まったく貴方がたを見ていたら、人類に怒っていたのがバカバカしくなってしまいますわ」
「プロトお姉さまも、そう思いますのよね。わたしも天然アホ娘なリリちゃんにすっかり棘を抜かれてしましましたわ」
「それで良いんだよ、プロトおねーちゃん。エヴァおねーちゃんのばかぁ。リリ、アホなんかじゃないもん。ぷんぷん」
ラウドの領主公館。
その地下にある座敷牢。
そこに、ノルニルシリーズ長女にして世界で渦巻いていた陰謀の首謀者、プロト・ノルニルが収容されていた。
……座敷牢って言っても、清潔なシーツ付きのベット。3食きちんと配膳。小部屋にトイレとシャワー室完備。そこいらの宿屋よりは豪華なのは、中に居る人物の為なのか。それとも伯爵様の意地と見栄なのか? まあ、良いように受け取っておくのが良いかな。女の子が苦しむ姿はあんまり見たくないし。
「いったい、こんなボーヤの何処が良いのかしら? 二人、いや結局四人もノルニルの子を味方にしてしまうんですもの」
「そこは僕自身、不思議に思ってますね。一体、こんな中途半端で弱い僕のどこが良かったのか」
僕の顔をジロジロ見ながら不思議そうな顔のプロトさん。
超絶美人な女性がベットに座り、物憂げな表情で居る姿はまるで絵画の様。
辛辣な物言いも、実に様になっているのは、どういうものやら。
「わたしは、そうは思わないもん! おにーちゃんは、とっても優しくて強いの。だから、今は皆で笑って話し合えるんだから」
「まあ、確かにその通りではありますわね。トシがわたくしを倒しつつも、殺さなかった。だから今、わたくしはアホな妹の顔をゆっくり眺めていられるのですから。しかし、こんなアホになる遺伝子設計を誰が行ったのかしら? 他のノルニルシリーズにここまでの天然アホはいませんですのに?」
「あー。プロトおねーちゃんまで、リリをアホって言ったのぉ! トシおにーちゃん。リリ、アホじゃないもんね?」
すっかり姉妹漫才モードの二人。
エヴァさんも爆笑しているのは、実に良い眺め。
……美人姉妹がふざけ合って笑いあうのは、絵になるなぁ。
「リリは、普通のアホじゃ無いかな。無限大のお人好しで寂しがり屋さんのアホなのは確かだけど」
「あー!! おにーちゃんまで、リリばかにしたのぉ! モー怒ったぁ。今から、この部屋を薔薇の花でいっぱいにしてやるんだもん。薔薇さん、薔薇さん。わたしの声で大きく育ってくれないかしら?」
「ちょ。それは辞めて! 伯爵様が困るからぁ。あ、エヴァさんもプロトさんも笑っていないで、リリを止めてよぉ!」
座敷牢の中で赤い花を咲かせて、部屋を華やかにしている鉢植えの薔薇。
そこに真剣な顔で成長魔法を掛けようとしているリリ。
部屋の中は爆笑する女の子達の声でいっぱいになった。
……最初は、こんな風にプロトさんと笑いあえるなんて思わなかったよ。
僕は戦闘終了直後の事を思い出した。
◆ ◇ ◆ ◇
僕がプロトさんへ降伏勧告をした後、いつまでたっても返答が無かった。
しかし、ヴィローによれば魔力反応からして、プロトさんが生存しているのは確かだったため、十分ほど待った後に僕は行動した。
「すいません。お返事が無いようですので、強制的に連行します」
擱座したヴリトラのコクピットを強制解放。
そして連れ出されたプロトさん。
泣きつかれたのか、目元が真っ赤。
そして虚ろな瞳をしていた。
「もう、どうでもいい。早く殺しなさい。わたくしの思い通りにならず、孤独。生きていても何の意味も無いですわ……」
「そういう訳にも参りません。貴方には聞くべきことが沢山ありますし、生きて罪を償ってもらいます。死んで逃げるのは許しません。それ以上に、貴方が亡くなるとリリが悲しみます」
騎士の方々に拘束されて座らされているプロトさん。
その顔には、何の希望も見受けられない。
自らの願い。
人類の新たなる母となり、地球人類への復讐を遂げる事。
それが適わなくなったからだろう。
「そーなの、プロトおねーちゃん。わたし、おねーちゃんといっぱいお話したかったの。そして一緒に遊びたかったの」
「……リリ。どうして貴方はそこまで憎しみを持てないの? わたくし達がどうして生み出されたのか、知っているんでしょ? 勝手に生み出されて、宇宙に捨てられたことに怒りを覚えないの?」
真剣に話しかけるリリに対して問答をするプロトさん。
その問いは、僕自身も不思議に思っていた事。
リリは、何時いかなる時も憎しみを表さず、戦う時ですら笑顔だった。
怒っている時もあったが、大抵は個人に対するものではなく、理不尽な世の中に対して。
……まあ、おふざけでアホって言われた時は、僕に対してもぽかぽか殴って来たけどね。
「だって、ずっと嫌な事を考えていたら悲しいもん。せっかくなら楽しい事を考えて、楽しい事をしていたらいいと思うの。でね、自分が楽しさを皆にお裾分けしたいんだ。だって、悲しいとわたしも楽しくないんだもん」
「そうね。そこはわたしも分かるわ。リリちゃんと暮らす様になって、悩むってことは減った。というか、この天然アホ娘を見ていたら、悩んでいた自分が馬鹿らしくなったの。遠くの地球人のことなんて、もうどうでもいいわ、目の前の楽しさの方が大事よ」
「あー! エヴァおねーちゃん、ひどーい」
幸せのお裾分け。
自分だけが楽しいだけじゃなく、周囲も笑顔になればもっと楽しい。
……僕もリリと一緒に旅をすることで、悩むことが減ったね。
「楽しいのおすそ分け? そんな事にわたくしは負けたの?」
「ええ。貴方は一人で恨みを周囲にまき散らしました。だから、周囲から味方がいなくなったんです。一緒に居て楽しくないのですから」
僕はリリが勝った理由を今気が付いた。
孤独に戦うものが、仲間が多いものに勝てる筈が無いと。
【マスター。遺跡宇宙船部分を調査していたアカネ殿から連絡があります。アダム殿はご健在。全く問題ないとのことです】
そんな時、ヴィローが吉報を報告してくれた。
しばらくヴァハーナにて上空で偵察をしてくれていたアカネさん。
事態が落ち着いたのと、騎士団だけでは未知のテクノロジーにお手上げだったので、宇宙船の調査に入ってもらっていた。
「あ、アダム様が生きていらっしゃるの!」
【はい、プロト様。皆様のご協力にて、アダム様や貴方さまを害することないよう、私が戦った結果です。えっへん!】
自慢げに報告をするヴィローを前にプロトさんは泣き崩れた。
「アダム様が生きている。生きていらっしゃるのね」
「うん、プロトおねーちゃん。さっそく、楽しいことが増えたの。弟くんを一緒に可愛がろうね」
「ええ、ええ……」
うれし涙を零すプロトさんに、そっとリリが寄り添い、抱きしめた。
面白いと思われた方、なろうサイトでのブックマーク、画面下部の評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に)、感想、いいね、レビューなどで応援いただけると嬉しいです。




