第42話(累計 第88話) 最終決戦:ラウンド7 優しい勝利!
「今だぁ。グラビトン・サブアームパーンチ!」
油断からの隙を狙うために勝負に出た僕ら。
正面同士の戦闘から接近戦でトドメを狙って攻撃してきたプロトさんの読みを外した。
本来であればヴリトラの鋭い爪でヴィローは引き裂かれていたはずだった。
しかし、僕は攻撃を受ける前にヴィローをヴァハーナから緊急離脱。
ヴリトラの攻撃は空振りとなり、避ける暇もなくヴァハーナと激しく衝突した。
「う、上!?」
ヴァハーナと激突、もつれ絡まるヴリトラは上空を見上げる。
そこには、僕が駆るヴリトラが必殺技を繰り出したところだった。
「うわぁぁぁ!」
ヴリトラは重力場シールドを強くしたようだが、もう遅い。
ヴィローが射出した四本の副腕。
それらはお互いに手を握り合い、一個の巨大な拳となる。
そして、その拳は回転する重力場シールドを纏ってヴリトラへと向かった。
「そ、そんな馬鹿なぁぁ!」
一瞬、シールド同士がガリガリと拮抗した。
しかし、既に激突や数多くの攻撃でシールドが弱っていたヴリトラのそれは、パリンとガラスの様に砕け散る。
もはや防ぐ物のない巨大な拳は、あっけなくヴリトラの鎖骨部から上、頭部を粉砕、貫通した。
「やったぁ! あ、やったって言っていいよね、おにーちゃん?」
「リリちゃん。その発言は負けフラグだから、言わない方がいいわ。で、トシ。このままだったら墜落しますわよ?」
「あ、そうだったぁ。全パワー使い切っちゃった。ヴィロー、姿勢制御をお願い」
【御意。まったく困った皆様ですね。おそらくヴリトラは機能を停止したと思われます。御安心を】
僕らは、滑空しながらゆっくり地上へと向かう。
一面の朝の空。
そんな中、邪竜ヴリトラは頭部を失ったうえ、重戦闘機ヴァーハナから離れて地上、砂の海に落ちた。
「アカネさん、そちらは大丈夫ですか? かなり無理をさせてごめんなさい」
「モー。激しい機動をする際には、ある程度情報伝達をしてよねぇ。動くたびに死にそうになったわ。レオンくんなんて、気絶してるよ」
「トシ様。レダとラザーリ様は無事ですの。ありがとうございました。おかげでラザーリ様とまたお話できますわ」
「トシ殿。僕は貴方がたに酷い事をしてしまいました。今回の事程度で罪滅ぼしできたとは思えません」
途中からレオンさんの声が聞こえないと思ったら、マニューバーGに耐え切れず、気絶していたらしい。
映像ではレダさんから治癒魔法を受けている様だ。
……レダさん、良かったですね。ラザーリさんが正気に戻れたみたいで。
再びギガスからの魔力干渉を受けたラザーリさん。
今度はヴィローやリリ達による制御下での干渉だったため、障害を起こしていた精神や脳組織が回復した様だ。
「ラザーリさん。後の事は、ゆっくり考えましょう。もはや貴方一人の命でどうこう出来る問題ではないです。なので、皆で少しでもハッピーエンドになるよう努力しましょう。なに、レダさんはずっと貴方と一緒に歩んでくれますから」
「あ、ありがとうございます、トシ殿」
僕はラザーリさんを個人的には許した。
妹ナオミが受けた差別や仕打ち。
それは酷いものだったが、ナオミ本人は既に許している。
……後は社会的に、どう罪を償うか。カレリアの以前の領主は酷いヤツだったらしいし、ラザーリさんたちを指示したのは領民たち。ラザーリさん個人に全部の罪を背負わせるのも違うよね。
着地までの間、朝の日に照らされて、ところどころに出来た緑色なクレーターがキラキラと光る砂漠の海を全周天モニターごしに眺めていた僕。
個人の暴走が起こした悲劇、そして社会が暴走した革命や戦争。
「怖いよねぇ。一人の暴走が、こんな大変な事になるんだから」
「でも、それも終わりだよ。おにーちゃん、お疲れ様」
「そうね。トシ、よく頑張ったわ」
「ありがと。二人とも」
無事、着地したヴィロー。
しかし、左脚を膝から下が攻撃で失われているので立ったままでいられず、腰を付いた。
……武器に使った副腕も全損しちゃったんだ。
「トシ坊。こっちのセンサーでもヴリトラが完全沈黙しているって出てる。一応、上空で警戒飛行をしておくね」
「宜しくお願いします、アカネさん。さて、ヴィロー。もう少し動けるかな? 色々確認をしなきゃ」
【プロト様及びアダム様の身柄確認ですね。では、刀を杖代わりにして歩きましょう】
高周波を切った刀を杖にして立ち上がるヴィロー。
そのまま、砂地に半分身を埋まらせたヴリトラの元に向かう。
「宇宙船の方は、騎士団に任せよう。一応、警戒情報はヴィローから送っておいてね」
【御意、マスター。しかし、今回も無事に勝ちましたが、実にぎりぎりでした。もう少し楽な勝利になってほしいものですが】
「だってプロトおねーちゃんも師匠さんも強かったんだもん。それをおにーちゃんとヴィローは誰も殺さずに勝ったんだから、自慢しても良いよ」
「そうよねぇ。トシって殺す戦いよりも殺さない戦いをしている方が生き生きしているんだもの。普通と違うわ」
既に戦いも終わり、お互いに馬鹿話をしながら確認に向かう。
「殺さない戦い」での優しい勝利。
僕がリリと出会う事で出来た、奇跡みたいな物語。
「エヴァさん、ごめんなさい。ワイズマンさんの時は……」
「いいのよ、トシ。ワイズマン様は、もうダメだったの。そしてあの方が世界を壊すのをトシが止めてくれたから、今があるわ。ありがとう」
しかし、僕も何回も手を血に濡らした。
怒りのあまり殺した事もあれば、涙をこぼしながら命を奪った事もある。
「おにーちゃん。今は、プロトおねーちゃんを何とかしよう。もう悲しい事は終わりにしなきゃね」
「そうだね、リリ」
ようやく擱座したヴリトラの元に着いた僕ら。
ヴィロー越しに降伏勧告をした。
「プロトさん、生きてますか? ご無事なら返事をしてくださいませ。貴方の野望は僕らが止めました。もう、悲しい事は辞めにしましょう。投降なさってくれるのなら、命の保証は致します」
僕らは返答を待った。
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