第38話(累計 第84話) 最終決戦:ラウンド3 レダとラザーリ。
「どうしてジャマをするの、レダぁ!」
ラウドを焼こうとしたプロトの攻撃を妨害した金色の機械鳥。
「プロトお姉さま、わたしは貴方を止めます! そして、ラザーリ様と一緒に生きていきますわ」
機械鳥からレダさんの声が聞こえた。
……アカネさん、間に合ったんだ! これでなんとかなるよ。
僕は、昨晩の事を思い出した。
◆ ◇ ◆ ◇
「トシ坊。あともう少しで組み込みが終わりそうなんだ。けど、ユニット起動が上手くいきそうもない。良かったら、リリちゃんかエヴァちゃんをこっちに回してくれないかい?」
明朝には師匠との決戦が始まりそうな深夜。
マザーさんのところに出張して、新型兵器の組み上げをしていたアカネさんから連絡が入った。
「貰った魔力炉だけど、ラザーリさんとレダちゃんが使うように認証されているんだ。これを再度認証すしなおすには、リリちゃんかエヴァちゃんで無いと無理ってマザーさんが言うんだよ。大変な状況だとは思うけど、なんとかならない?」
僕らは撃破した神話級ギガス「デーヴェーンドラ」から魔力炉と制御中枢部を摘出、それを新装備に使う事にした。
しかし、アカネさんとマザーさんが説明するには、神話級な魔力炉は初期起動時にユーザー認証をしており、それがラザーリさんとレダさんだった。
これをリセットするには、レダさんと同じ認証レベルを持つノルニルシリーズ、つまりリリかエヴァさんが再起動をする必要があるらしい。
「そうですか。どうしましょう、エヴァさん。明日は師匠と戦うはず。そこでコ・パイロットが一人になるのは少し不安です」
改修後のヴィロー、各部制御がかなり難しくなっている。
通常の偵察任務くらいであればリリと僕で十分動かせるが、全力運転での戦闘はかなり厳しい。
今は「暴れん坊」を色んな手段で抑え込んでいるに近い。
「でも、師匠さんと勝負するのに策は欲しいですわよね。しょうがないわ、わたしが行きましょう」
「ごめんなさい、エヴァおねーちゃん。もっとわたしが頑張って一人でヴィローを扱えれば良かったんだけど」
【それをいうなら私自身が悪いです。本来、制御AIがしなくちゃならない部分を姫様方にお願いしていますから】
エヴァさん、リリ、ヴィローがお互いに自分がなんとかしなきゃと言い合うが、それをいうならメインパイロットの僕が操作で手一杯になっているのも悪い。
……僕に魔法制御能力がもう少しあれば、慣性制御とかの部分を肩代わりできるんだけど。
本来、ギガスの制御は頭部AIと操縦士の魔法制御にて行う。
ただ、ヴィローのような神話級だと、その圧倒的なパワーを御するのにコ・パイロットを必要とするという訳だ。
……と言って、ラザーリさんみたいに壊れたくはないし。
僕は話を横で聞いているレダさんと、彼女の膝枕で寝ているラザーリさんをちらりと見た。
「分かった。じゃあ、エヴァちゃん、お願い……」
アカネさんが了承しようとした瞬間、ある女性が声を上げた。
「すいません、わたしがエヴァちゃんの代わりになれませんか? 元より、あの魔力炉認証はわたしのものですし」
「え、レダさん。貴方にはラザーリさんを守る使命があるのではないですか? 今、ラザーリさんから離れては……」
僕は、エヴァさんの代わりにマザーさんの元に向かうと真剣な顔で話すレダさんを押しとどめる。
彼女にとって大事なのはラザーリさんであり、自らの姉妹。
マザーさんの元に向かい、新兵器を起動するということは、ラザーリさんの元を一時離れることであり、姉妹に対し敵対するということだから。
「いえ、トシ様。わたしが出向かなければ、トシ様はリリちゃんと二人で戦う事になります。それでは万全な状態でお師匠様と戦う事は難しいでしょう。そうなれば、お師匠様や彼女の機体に乗っているだろう我が姉妹を殺してでも止める選択肢を選ぶことになるでしょう」
確かに師匠とはヴィローの能力を全開で戦わないと、師匠を殺さずに止めるのは不可能だ。
ラウドの街やひいてはリリを守る為、僕は最後の選択。
師匠を殺してでも止める事を選ばなければならない。
「でしたら、エヴァちゃんはトシ様のところに残り、わたしが向かえば全力でトシ様は戦えます。そうすれば、お師匠さまや我が姉妹を殺さずに止められ、そしてラウドの街で待っているラザーリ様を守れるでしょう?」
少し寂し気な笑みを浮かべながら、僕に説明してくるレダさん。
確かに彼女の提案した選択を行う事で、僕は師匠を殺さずに勝つことが可能になる。
「分かりました。では、レダさん。宜しくお願いします」
「はい。お任せを。移動は早い方がいいですわよね」
「ああ、そこは任せておけや、レダちゃん。オヤジ、それにトシ坊。俺が今からパトラムでマザーさんのとこまで、送るぜ」
「では、その任をレオン。お前に任そう。レダちゃん、ラザーリ殿の身柄はワシが全力で守るぞ。トシ殿、これで良いな」
「はい、伯爵様」
レダさんの提案で事態は大きく動く。
新兵器を師匠、そしておそらく近いタイミングで攻めてくるであろうプロトに対しぶつけられれば勝利も間違いない。
……アカネさんの提案通りのモノが出来たのなら、何も怖くないからね。神話級な反応炉が五つの同期起動なんて、想像も絶するパワーだろうし。
「ラザーリ様。わたし、少しお側を離れますの。すぐに帰ってきますから伯爵様のいう事を聞いて、待っててくださいますか?」
眠っていたラザーリさんを起こして慈母の顔で説くレダさん。
しかし、ラザーリさんは予想外の言葉を放った。
「ママ……。ぼ、僕。ママと一緒に行くよ。僕、何かしなきゃって思うんだ。夢で見たの、僕が沢山の人をイジメてたんだ。このままだったら、僕はダメで悪い人のままじゃないかって。だから、お願い、レダ。僕も一緒に行くよ」
今までの幼げな表情から男の顔をしたラザーリさん。
その目には、それまでになかった力が満ちていた。
「は、はい! ラザーリ様。わたし、レダは貴方様とずっと一緒です。共に罪を償っていきましょう!」
泣きながらラザーリさんを抱くレダさん。
その姿を見て、僕は涙ぐんでしまった。
「おにーちゃん。レダおねーちゃん、良かったね」
「そうだね」
僕は、そっと寄り添ってきたリリの肩を優しく抱いた。
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