第32話(累計 第78話) リリ視点:可哀そうな妹たち。
「じゃあ、おにーちゃん。向こうに行ってくるね」
「くれぐれも気を付けるんだぞ。まだ、完全に安全になった訳じゃないし」
「貴方、自分の身体は大事にしなさいよ。トシも貴方も自分の事はすぐに放り出しちゃうから」
おにーちゃん達、口が酸っぱくなるほどにわたしに注意をしてくれる。
その心配そうな顔を見て、わたしが大事にされているのを今更ながら実感してしまう。
【リリ姫様。本当にお気をつけてくださいませ】
「うん、ヴィロー。ひょいっと!」
わたしは、膝をついてくれたヴィローの手足を踏み台にして地面に飛び降りる。
視線を感じてそちらに顔を向けてみると、優しそうな女性が私に笑みを向けて立っていた。
顔半分が機械に覆われている長身の女性。
……あの人が師匠さんなんだ。おにーちゃんが大好きなのが分かっちゃうくらい綺麗な人だなぁ。
おにーちゃんとの会話から、おにーちゃんを愛してくれた人、多分おにーちゃんが「初めて」結ばれた女性。
嫉妬心が浮かばないでもないが、大好きなおにーちゃんを守ってくれた上に深く愛してくれた人。
感謝はすれど、恨みなど浮かぶはずもない。
……わたしだって、男女の睦事くらいは知っているんだもん。わたしの「初めて」は、おにーちゃんにあげるんだ!
「師匠さん、始めまして。わたしはリリです。おにーちゃんの事、ありがとうございました」
「え、ええ。こちらこそ、ありがと。リリちゃん」
わたしは、ペコリと頭を下げて師匠さんに挨拶と感謝をした。
師匠さん、一瞬不思議そうな顔をしていたけれど、笑みと感謝の言葉を返してくれた。
……やっぱり素敵な人なの! わたしも好きになりそう。
わたしはウキウキ足で、もう一か所の現場。
白い巨体が擱座している場所に向かった。
「早く出てこい。さもないと潰すぞ!」
「誰が出ていくかぁ! ノルニルの乙女たちよ、私を守るんだぁ!」
そこでは、沢山の騎士さん達が破壊されたギガスを取り巻いている。
伯爵様、アルおじちゃんもギガスに握らせた電磁騎馬槍を尚も開かないコクピットに向けているが、困った感じだ。
「アルおじちゃん。それに騎士のおにーちゃん達。わたしが、なんとかしようか?」
「すまんのぉ、リリちゃん。向こうは大丈夫なのかい?」
「だいじょーぶだと思うよ。師匠さんは、今更暴れたりする人じゃないの。だって、師匠さんはおにーちゃんの大好きで尊敬する人なんだもん。二人で話し合いたいこともあるに決まっているの!」
わたしは、アルおじちゃんに次回打開の提案をしてみる。
おじちゃんは、ギガスの頭部を師匠さんとヴィローを降りたおにーちゃんの方に向けて心配そうな声を出すが、大丈夫に決まっている。
……わたしが横から口出ししない方がいい気がするの。エヴァおねーちゃんも居るから心配ないし。
おにーちゃんの横には、腕を横から掴んで絶対に離さないって感じのエヴァおねーちゃんがいる。
師匠さんの横にも、わたしやエヴァおねーちゃんに似た姿の子。
わたしの姉妹が心配そうな顔で師匠さんの手を握っていた。
……みーんな、大好きな人の事が心配なの。わたしも心配だけど、今は「あの子」達を助けなきゃ!
わたしは、騎士のおにーさん達に連れられて壊れたギガスの横まで近づく。
「リリ姫様、お手数をかけて申し訳ありません」
「気にしないで良いよ、おにーちゃん。確か、アカネおねーちゃんやヴィローに教えてもらったんだよね。大抵、この辺りに外部からコクピットを開閉するレバーが隠してあるって。うーん……あ、あった!」
装甲の隙間を触ってみると、一か所小さく区分けされていた部分を見つけた。
そこに指を突っ込んでみると、パカンと装甲が開く。
中には説明書きがあるレバーがあった。
「今から、強制的にコクピットを開きます。おにーちゃん達、気を付けて!」
「御意」
「こ、こら! 勝手に開けるな。乙女たちよ。わたしの盾となるんだ!」
勝手な事を言っている操縦士を無視し、わたしはレバーをぐいと押し込んだ。
……確か、操縦士さんはナオミちゃんや多くの女の子をいやらしくイジメていた人だよね。おしりぺんぺんしたいの!
バカンと大きく音を立てて開いたコクピットハッチ。
しかし、中からは誰かが飛び出てくる気配は無い。
「く、来るなぁ。来ると撃つぞぉ!」
「パブロ様、危ないです」
「きゃぁ」
パーンと乾いた音がして、何かが岩に当たる。
また、中から何人かの叫ぶ声がした。
「リリ姫様、危険なのでおさがり下さいませ。中の者は銃器を持っているようです」
「今の声、女の子の声も聞こえたの。そこに居るの、わたしの妹ちゃん達?」
「お、オマエが諸悪の根源、プロト姫や姉妹らノルニルを裏切ったリリかぁ! オマエのおかげで私は子供たちの楽園、カレニアを奪われたのだぁ」
……エッチな事がしたいだけの人に裏切者なんて言われたくないの!
「姫様、危ないです。お近づきになるのは!」
「わたし、堪忍袋の緒が切れたの! 妹ちゃん、ちょっと痛いけどゴメンね。雷の精霊さん、わたしの妹ちゃんをイジメる人を痺れさせて。<球電>!」
わたしは怒りに任せて、普通の人なら死ななないけど、ものすっごく痛い雷撃魔法をコクピット内に放り込んだ。
「ん、ぎゃぁぁ!」
「きゃ」
一瞬、暗いコクピット内が真っ白になって悲鳴が上がった。
「騎士のおにーちゃん。後はお願いします」
わたしは驚いた顔の騎士のおにーさんにペコリと頭を下げた。
◆ ◇ ◆ ◇
「もう大丈夫だよ、可愛い妹ちゃん。おねーちゃんが絶対に貴方たちを守るからね」
強制解放させられたコクピットハッチから少し頭髪が薄くなったデブのオジサンが騎士団によって引きずりだされていた。
まだ痺れているのか、唸る事しか出来ていない。
わたしは、一緒にコクピットから救い出された二人の少女に視線を向けた。
そこにはわたしよりも幼い子達がいた。
白い肌、華奢な体、栗色の髪、藍色の目も全員同じ。
私と同じく、やや尖った耳を各自していて双子の様によく似た顔をしている。
「怖いの? だいじょーぶだよ? 伯爵様は優しいおじちゃんで貴方たちを勝手に触ったりしないし、トシおにーちゃんも優しくしてくれるの。アカネおねーちゃんもナオミちゃん、エヴァおねーちゃんも一緒に遊んでくれるの。わたしも、可愛い妹を守るわ!」
震えながら乏しい表情にも恐怖を感じて、お互いに身を抱き合う少女。
わたしは、そんな彼女たちが可愛く思えて、思わず抱っこしてしまった。
「あ!」
「だいじょーぶ。わたし、おねーちゃんだから、絶対に守ってあげるよ」
思いっきりギューと抱きしめてみる。
高い体温と柔らかい身体を堪能するわたし。
……エヴァおねーちゃんと同じ、いい匂いもするの。
「ほ、ほんと?」
「もう痛い事はしないの?」
わたしがしばらく抱きしめていた後、二人はぽつりと呟く。
「うん、ぜーったいの絶対なの!」
「う、うわぁぁん」
「おねーちゃーん」
わたしの大丈夫の返事で、一気に泣き出してわたしに抱きつき返してくれた子たち。
その頭をゆっくりとわたしは撫でた。
「おにーちゃん、いつもこうやってわたしの頭を撫でてくれるの」
おにーちゃんがわたしに向けてくれる笑みの意味を、今更ながらわたしは分かった気がした。
……みーんな、こうやって幸せになれたら良いの!
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