第22話(累計 第68話) 危機一髪からの帰還。そして、敵はまさかの……。
「はぁぁ。もう空中戦は勘弁してほしいですぅ」
僕は机に突っ伏し、目の前にある茶を飲む余裕がない。
「話に聞いたが、大変だった様じゃな。リリちゃん、このお菓子を食べるが良いぞ」
「うん。ありがと、アルおじちゃん。リリ、すっごく怖かったの」
「リリちゃんに怪我が無くて良かったけれど、トシはもっと警戒をしなきゃダメよ」
「エヴァお姉ちゃん、あんまりお兄ちゃんを責めないで。皆、無事に帰って来たんだし。リリちゃん、お兄ちゃんを守ってくれてありがとう」
危機一髪の状況。
いきなりの空戦に巻き込まれた僕たちとヴィロー。
初手砲撃からミサイル、誘導攻撃端末。
そしてダメ押しの砲撃と、完全に殺しにくるシフト。
初めての本格的な空戦で、僕らは死にかけた。
……この世界で空戦なんて誰もしたこともないだろうね。あー、怖かった。
【敵は神話級、女性三神の一柱でありましょう。よくあの状態で逃げ延びられました。流石はマスターですね】
このままでは死ぬところまで追い詰められた僕。
ヴィローの腹部分解光線砲を微調整。
閃光拡散ビーム砲として、目くらましに使った。
敵の視線を切って、後は地上に降りて土埃と地形を利用して隠れた。
そしてエンジン出力を絞り切ってステルス。
敵が去った後もしばらく隠れていた。
……見えなくなった後も一時間くらいは、怖くて動けなかったよ。
そして今、伯爵様の公館でヘタレているのだ。
「怖かったっていうけど、それだけかしら。トシ、貴方一体何に恐怖していたの? いつもなら攻撃に移るはずなのに、逃げる一方。何かおかしいわ?」
「そーいえばそうだよね、エヴァおねーちゃん。おにーちゃんにいつもの余裕が無かったの」
【確かに逃げる優先で、こちらから攻める事が一切ありませんでした。今まで神話級機体と幾度も空中戦をしていましたのに、おかしいですね】
皆、僕が普通じゃないという感想。
言われてみれば、あの時強烈な悪寒を感じてから、逃げなきゃという考えで頭の中がいっぱいになった。
「急に悪寒がして、怖くなってしまったんだ。あの悪寒というか気配、どこかで感じた覚えがあるんだ。何処だったのかなぁ?」
……追い込んで射撃戦で倒す方法は、師匠に教えてもらったんだけれど。ん? あの気配? え? ま、まさか??
「おにーちゃん。どうしたの、顔真っ青だし、凄い汗なの?」
「まさか、いや。でも。あの人の最後は僕は見たはず。なのに?」
僕の脳内には、あり得ない考えが浮かぶ。
絶対、あの人が生きているはずがない。
だって、僕が最期を看取ったのだから。
「トシ? どうしたの? すっかり思考が乱れているわ。らしくないわよ? ゴメン、少し見せてもらうわよ?」
エヴァさんが僕の頭に手を触れる。
エヴァさんの暖かくて柔らかい手が触れた場所。
そこから何か暖かいものが広がり、心が落ち着いていく。
「接触読心の前に静心も掛けておいたわ。ふーん。今回の敵の戦術とか気配がトシの亡くなった師匠に似ているのね」
「……ありがと、エヴァさん。少し落ち着いたよ。そう、師匠。ギガス傭兵団の団長だったデイアーナ姉さんの戦い方、そっくりだったんだ。でも、姉さんは僕を庇って……」
デイアーナ・パドレス。
僕が雑用奴隷として買われた傭兵団の団長をなさっていた女傑。
顔や身体中、細かい傷だらけだったけれど、とにかく綺麗だった。
そして、僕を可愛がり、色んな事を教えてくれた、僕の「初めて」の人。
……僕の思考を読んだのなら、僕と師匠の関係までエヴァさんに見られちゃったのかな? だったら、少し恥ずかしいや。
「トシと師匠のパーソナルな関係については、今は良いわ。でも、彼女が敵になったらかなり手ごわそうね。砲撃戦で敵を追い込んで倒す。剣や近距離魔法を多様する今のギガス戦とは、かなり違うわ」
「そ、そうなんだ。ギガス用の大砲とか機関砲を上手く使いこなす人だったよ」
……あ、やっぱり見られちゃったか。リリやナオミにはナイショにしてくれて、ありがとう。
「いつもおにーちゃんが話してくれてた人だよね、師匠さんって」
「わたし、まだ教えてもらっていないの。お兄ちゃん、良かったら話してくれない?」
「ワシも聞きたいのぉ。トシ殿を今の姿に鍛え上げた女性。もちろん、無理にとは言わぬぞ。死に別れをしたと聞いておるし」
リリにナオミ、そして伯爵様も僕に師匠の事を聞きたがる。
そういえば、ナオミ以外には師匠の事を少し話したと僕は思い出した。
「では、良かったら聞いてください。師匠、デイアーナ・パドレスの話を」
僕は師匠との出会いから話し出した。
「あれは僕が両親と死に別れ、ナオミとも別の奴隷商に売られて後の話です。……」
◆ ◇ ◆ ◇
「歴戦の勇者にして凄腕のギガス乗りも愛する弟子相手だと戦いにくいのかしら?」
「プロト様。あまりアタシをイジメないでください。戦う以上は手加減はしません。それがトシ坊と別れる前に約束していた事ですから」
何処ともしれぬ暗い部屋。
情報モニターにのみ照らされた部屋で、ノルニルシリーズの長女プロトは、|幾つもの機械に繋がれた《サイボーグ化》三十路くらいの美女から報告を受けていた。
「そうなの。じゃあ、慣れない機体で仕留めきれなかった。そういう事にしてあげるわ、デイアーナ・パドレスさん」
長くてストレートの金髪をかき上げ、モニターの反射光で輝く碧眼。
プロトは、いたずらっぽい表情でディアーナを眺めた。
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