第14話(累計 第60話) レダ視点:悲しき雷帝の暴走。
「レダ。ああ、レダぁ。ボクを見捨てないでぇ」
「ええ、わたしは絶対にラザーリ様を捨てたりしませんわ。貴方のお母様みたいに去ったりしませんし、お父様のように捨てたりしません」
薄暗い寝室。
今日もレダは、子供の様に泣くラザーリを抱きしめる。
彼が己の中のトラウマと戦っているのを感じて。
「ママぁ。レダはボクのママになってくれるよね?」
「ええ、もう一度産み直してあげますね。さあ、いらっしゃいませ」
このところ、ラザーリは毎日神話級ギガス「デーヴェーンドラ」で出撃しては、貴族連合の都市を空爆している。
自分たち、カレリアが奴隷を使った児童買春をしていると風評を流しているのに怒ったからだ。
「ママぁ。ボクね、世界を平和に変えたいんだ。その為には汚い大人達が邪魔。綺麗な子供たちだけの世界にしたいんだ」
「そうなのね、ラザーリ様。でもね。じゃあ、その子供たちを育てたり教え導くのは誰かしら? 正しい行いを学ぶには、正しい事を知る人が教えないとダメ。子供たちは何も知らないから清いけれど、逆にいえば何も知らないから、残酷でもあるの」
「だってぇ。だってぇ。世界には汚い大人しかいなんだよ。このカレリアにも人事委員長みたいなイヤな奴もいるし」
苦笑しつつも抱きしめながら、母親の様にラザーリに諭すレダ。
彼女の目線からでも、ラザーリがかつて受けたトラウマ、親に捨てられた事から来る「歪み」でおかしくなってきているのは分かる。
……プロトお姉様も、困ったお方。こんなに壊れた人を利用して世界の軍事バランスを壊そうとするなんて。
人類の超越者、ノルニルシリーズとして生まれたレダ04。
プロトによって遺跡宇宙船より発見され、彼女の元で何不自由なく育てられた。
彼女が育った「家」は清潔で、いつも暖かい日が差し込み、美味しいごはんを毎日食べられる快適な環境。
同じ家では、レダ自身と顔かたちはよく似ていて、同じ長い耳を持つが、肌や髪、目の色が違う女の子達が一緒に育っていた。
プロトによれば、全員が同じ血を継ぐ姉妹。
自分達は、ヒトよりも優れた能力を持つ「ノルニルシリーズ」だと、レダは教えて貰った。
「レダ04、貴方にミッションを与えます。この男性の元へ行き、彼を正しい道へと導くのです」
「はい、プロトお姉さま」
そんなある日、プロトから任務を与えられたレダ。
プロトは一枚の写真を提示し、そこに写った男の元へと行けと言われた。
彼女にとって、母でも姉でもあるプロトの命令は絶対。
何の疑問も無く、彼女は「家」を出た。
……最初は、外の世界が怖かったよね。お家と全然ちがうんですもの。
外の世界。
昼は熱砂、夜は凍り付く銀砂の海。
人々は皆、わずかな水や食料を奪い合い、愚かにも争う。
力を持つ大人達は、弱者。
女子供や老人を虐げ、様々なモノを奪う。
弱肉強食の世界を見て、ヒトに絶望を覚えた頃。
レダはターゲットの人物に出会った。
……ラザーリ様は、あの頃から崇高な思いを持たれていたわ。ただ、その始まりが歪んでいたから、今もそれで苦しまれているの。
「ボクはね、この世界に子供たちの楽園を作りたいんだ。汚い大人、貴族なんかは全部居なくなればイイ! だから、ボクは同じ思いの者達を集めて、民主労働党を作ったんだ」
ラザーリはレダに初めて会ったとき、自らが思う夢を語った。
その頃は、まだラザーリがカレリアの政権を奪った直ぐの頃。
ラザーリが率いる労働党が領主を打倒、関係者を全てギロチンへと送った直後。
それまで弾圧されていた民衆は、全てラザーリの話す希望に酔いしれた。
「く、くそう。どうしてボクの思い通りにならないんだぁ! プラントは止まるし、農作物も枯れる。子供たちだけじゃ、どうにもならないのかぁ」
「ラザーリ様。貴方の崇高な思いは理解します。ですが、高度な技術や知識は、教わらなければ学ぶことはできません。貴方が殺してしまった人々の中には、そんな知識人が居たはず。悲しい事ですが。無垢な子供だけでは生きていけないのです」
嘆き苦しむラザーリを抱きしめ、レダは慰めつつ間違いを説く。
「だって、だって! もう、取り返しは出来ないんだぁ! それに、汚い大人たちに媚びて頭を下げるのは、もう嫌だぁ。父さんや母さんみたいに、ボクはなりたくない!」
「でしたら、わたし共。ノルニルにお任せ願えないでしょうか? わたしと同じく歳を取らず永遠の少女たちからなる古代英知の伝承者がわたし達、ノルニルです。わたし共、いえ、わたしは絶対にラザーリ様を裏切りません」
「レダ、レダ! ああ、ママぁぁ!」
レダは、精神が壊れかけたラザーリに組織を宣伝する。
宣伝、組織のカレリアへの介入自体は、プロトから頼まれている仕事。
しかし、それ以上にレダは可哀そうなラザーリを見捨てる事が出来なかった。
……プロトお姉さまは、ここまでの事を読んで、わたしをラザーリ様のところに派遣したのかしら。だとしたら恐ろしいわ。全部がお姉さまの手の上なんて。
レダはぎゅっとラザーリを抱きしめる。
「はい。ラザーリ様。ママはここにずっと居ますからね」
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