第11話(累計 第57話) 迫る危機。
「それは気になりますね、伯爵様。では、僕らも偵察に出ましょうか?」
「そうしてくれるとワシも助かる。貴族連合どころか共和国側からも不穏な雰囲気が聞こえるからのぉ」
僕と伯爵様が、各方面にカレリアの情報を流して一週間ほど。
共和国内ではカレリア擁護派と査察すべきという派閥が論争を繰り返している。
また、貴族連合からは僕の予想通りのプロパガンダへの使用だけでなく、討伐軍を動かしているらしいという情報が入った。
……更にカレリア周辺を警備していた兵士さん達も続々、ラウドへ逃げてきているんだ。ヴィローの力を見て怖くなって、こちら側に付くようになったみたい。
投降、亡命してきた兵士さん達。
伯爵様に彼らの家族保護を訴えてくるのだが、家族は全員カレリア内。
僕らにカレリアへ攻め込み、家族を救ってくれと言っている。
……そりゃ、ヴィローなら簡単にカレリアを制圧出来るとは思うけど、犠牲者が必ず出ちゃう。その上、失われた政治・行政機関を復活させないと、ただただ難民を生み出すだけだし。
「ワシらがカレリアへ攻め込んで侵略するのは簡単じゃ。だが、その後の事を考えれば、今でも自領の発達維持の管理に共和国の力を借りているワシらが出来る事でもあるまいて」
「ええ。その事がなければ、僕はとっととナオミをイヤらしい眼で見たヤツなんてヴィローで踏みつぶしてます! 如何にソフトランディングさせるか。現行のカレリア民主労働党と同じ失敗は繰り返せませんし」
僕と伯爵様、執務室にて二人で今後の方針を話し合っている。
エヴァさんは、ちゃんと僕らの話を聞いてくれている。
だが、リリは話が難しいのか、ナオミを抱っこして二人、ソファの上でふざけ合っている。
そんな様子を、僕も伯爵様も微笑ましく見守っている。
「伯爵様、トシ。まだお二人に話していない事があります。もしかすると、カレリアには更に裏があるかもしれません」
そんな時、エヴァさんが真剣な顔で話し出した。
「わたしがレオン様と一緒にカレリアの中央委員長、ラザーリ・イグレシアス様と面会した際、とある反応を感じたのです。リリちゃん、貴方は感じなかったの? あの場所にわたし達以外の『同型』、ノルニルシリーズが居たのを?」
「うーん、あんまり覚えていないけど、エヴァおねーちゃんの事はいつもより感じた気はするの。あん! くすぐったいよぉ、ナオミちゃん」
「リリちゃんだって、変なところ触っちゃイヤん!」
ナオミとの「百合」の花が咲きそうな雰囲気を醸し出しながら、エヴァさんからの問いかけに答えるリリ。
若い男性である僕にとっては目に猛毒だ。
……何故に女の子同士のイチャイチャは見ててドキドキするんだろう?
「ま、まあ。アホ娘のリリちゃんが気が付かないのはしょうがないですわね。わたしとターゲットはリリちゃんから同じ方向にいたのですから。そこで問題なのは、そのターゲット。わたし達と同じ存在が、あの場所に居た事ですわ」
「それは考えすぎじゃないかい、エヴァさん。あそこでは子供の買い付けが行われていた。珍しい子供という事でエヴァさんの『妹』がカレリアに売られていてもおかしくないよ。そして公館にてメイドにでも……」
……エヴァさんの他にリリの姉妹が苦労しているのなら保護はしたいけど。
「トシ殿。それはおかしくはないか? 確かにリリちゃんやエヴァちゃんは見目麗しい美少女。じゃが、外見は普通の人間と大きく違い目立ちすぎる。メイドで外部の人間の目に触れさせることはあり得まい。まして、『力』があるのなら、それを何ら方の形で振るうとは思わんか?」
「あ、そうですね。伯爵様。天然アホ娘なリリは善意で暴走してましたし、エヴァさんも影ながらではありますが力を使ってます。ならば、それをカレリアが利用しない事はあり得ないですね。ましては公館内に居たとすれば……」
「あーん。またリリの事。アホっていうのぉ。ナオミちゃん、酷いよねぇ」
「リリちゃんがアホなのは、わたしも思うよ。でもね、アホ可愛いリリちゃんは大好き。お兄ちゃんの彼女なら、いつかわたしのお義姉ちゃんになるんだね」
まだまだ、いちゃついているリリとナオミは放置するとして。
カレリアにリリと同型少女が存在するのなら、それが敵に回った時の恐ろしさは考えたくもない。
エヴァさんの時も苦悩をしたし、殺す様な事は絶対にしたくない。
……リリの姉妹が敵に回るのは、もう勘弁してほしいけど……。
「という事じゃから、トシ殿には申し訳ないが、定期的に偵察に飛んでくれると助かる。空を飛べるヴィロー殿がいれば、状況が分かりやすいからな」
「了解しました。では、さっそく明日の朝にカレリア方面へ飛んでみます。リリ、ナオミと遊んでいないで準備頼むよ。エヴァさん、今回もお願いしますね」
「りょーかい。あん! ナオミちゃん、そこはダメェ」
「だってぇ。リリちゃんも、お尻を揉んじゃいやん!」
「はぁ。ホント、わたしがしっかりしないと。トシ、もう少し緊張感を持ってね」
僕は、ナオミやリリが幸せそうに遊んでいるのを喜ぶが、そこをエヴァさんに指摘される。
確かに、このところは長年の願いだったナオミと無事再開でき、油断しているかもしれない。
「はい、気を引き締めます、エヴァさん。僕の命も、もう僕だけの物でも無いですし」
僕には、家族や仲間がどんどん増えた。
それは復讐鬼として一人、貴族の首を刈っていた頃からは考えられないくらい、幸せな事。
だからこそ、この幸せを守る。
そして、出来ればこの幸せをみんなへ広げてみたい。
そう僕は思った。
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