第8話(累計 第54話) 伯爵様との食事会にて。
「はふはふ、はむはむ。う! うぅぅ」
「ナオミちゃん。慌てて食べなくても、ご飯は逃げないわ。ああ、酷い目にずっと遭っていたのね。こんなにやせ細って、可哀そうに」
慌てて口に食べ物を突っ込み、喉につまりそうになった僕の妹、ナオミ。
アカネさんは、急いで彼女の背中を叩き、水を飲ませている。
もう救出後、一週間ほど立つが毎日がこの調子。
帰還後、リリやエヴァさんによる入念な入浴洗浄・治癒にて、ボロボロだったナオミの肌や髪は年齢相応の綺麗なものにはなってはいる。
それでも、まだやせ細っており標準体型には程遠い。
実年齢は十三歳程のはずだが、せいぜい十一歳程度。
リリよりも更に華奢な体形だ。
なお、奴隷契約の魔道具。
ナオミの首に嵌っていた鉛色の首輪は、仕打ちに怒っていたリリがバカ魔力で解呪した。
……リリよりは身長も高いけど、それでも成長が遅れてるな。僕と離れて以降、大変だったんだね。まだ、僕は師匠とかに大事にしてもらったから、運が良かったんだ。
「ああ。慌てないでもいいぞ、ナオミちゃん。君の為なら、いくらでも御馳走を準備しよう。しかし、カレリアの惨状はひどいものだな、トシ殿」
「はい、伯爵様。野盗の人達も街中はひどい状況だと言ってましたが、まさか子供だけしかいないとは想像もしませんでした」
僕たちはラウドまで帰還後、ひと息ついたので報告会を兼ねて伯爵様の屋敷で食事を頂いている。
長年探していた生き別れの妹、ナオミを共和国派閥のカレリアで発見した僕。
奴隷として扱われてたのに我慢できずに彼女をヴィローで強奪。
そのままヴィローは空を飛び、パトラムと合体。
あっという間にラウドまで帰って来た。
……空力バリアを張って飛んだから、音速の倍は出てたかも。だってもう離れたくないし、邪魔はされたくなかったから急いで帰って来たんだ。
「俺は公館の中を色々見てみたが、指導者層、党員とかいう奴ら以外は全部子供ばかりだったよ」
【私、遠方までドローンを極秘裏に飛ばしてみましたが、郊外の農場では大人が子供兵に監視されながら強制労働をしていたのを撮影しています】
「みんな酷いの! アルおじちゃん。これ、なんとかならないかしら?」
「リリちゃん、今はご飯中。少し落ち着きましょうね。わたしも我慢ならないですけれど、違う国に口出しするのは内政干渉。もう少し証拠を掴んでから共和国上層部に訴えるのが良いわ。ね、伯爵様」
カレリア、今は共和国とは協力体制はとっているが、独立国扱いとなっている。
いくら異常な政治体制を行い、圧政を行って国民をイジメていても他国が勝手に口出しは出来ない。
なんらかの「錦の御旗」がないと、介入は不可能だ。
……といって軍事介入して政権を奪うのも、少々違う気もするよ。
「うむ、エヴァちゃん。悲しい事ではあるが、ワシは直接動くことは出来ない。ラウドは貴族連合から離れ、共和国側と条約を結んではいるが、共和国の構成国でもないからのぉ」
「ですが、動くことは出来なくても、情報は流せます。伯爵様、まだ貴族連合にコネはありますよね。僕も共和国には少々コネがあります」
「トシ。悪い顔になってっぞ。いくら妹ちゃんが酷い目にあっていたとしても、手段は選ぼうな」
レオンさん、僕が怒っているから酷い事をしそうだと思っているらしい。
……ナオミが酷い目にあっているのを見ちゃっているから、怒ってるのは確かかな。
「大丈夫です。共和国だけじゃなくて貴族連合にも情報を流すだけです。さて、周囲の警備兵はギガスを持っていますが本国内は子供兵ばかりで、自動車すら運転できません。この情報を貴族連合が知ったらどうしますか?」
「いつになくイジワルね、トシ。そんなの襲いに来るに決まってるわ。武力がない街は守れないの。野盗にですら襲われかねないわ」
僕の意図を呼んでくれるエヴァさん。
こういう「悪い考え」はリリには難しいだろう。
「ふぅふぅ。お腹いっぱいなの」
「良かったね、ナオミちゃん」
当のリリ。
ナオミの口元が汚れているのを拭ってくれている。
「もちろん、貴族連合がカレリアを現実に襲ってくるなら、その軍は僕が倒します。カレリアに住む子供たちが犠牲になるのは嫌ですから。僕なら、実際に襲うよりは共和国に対しての政治的宣伝に使いますね。オタクの国内でウチよりも国民を酷いめに合わせているのは、どうしてかと」
「貴族の横暴から民を守る為に立ち上がったのが共和国だが、その共和国所属な都市がとんでもない事をしていたら、外聞は悪いな。なるほど、それで共和国上層部を動かすという事かな、トシ殿」
「ええ、伯爵様。現在、カレリアが酷いことをしていても、共和国が知らんぷりなのは、裏に何か理由がありそうですから」
工員少年が言っていたように、奴隷商とも懇意な付き合いがあるのを奴隷制廃止をしている共和国が放置しているのも気になる。
「ナオミ。思い出すのは苦しい事かもしれないけれど、僕と別れて以降の事を伯爵様にも話してくれないか?」
「いいよ、お兄ちゃん。伯爵様には一杯助けてもらったし。そういえば、わたしもお兄ちゃんに聞きたいことがあるの」
満腹になり、リリやエヴァさんに可愛がられているナオミ。
僕は、これまでの事を詳しく話してもらえるよう頼んでみた。
……僕も、ざっとしか聞いていなんだ。迂闊に聞いてトラウマを刺激しても嫌だし。で、ナオミ。一体、僕に何を聞きたいんだろうか?
「一体、誰がお兄ちゃんの彼女さんなの? お兄ちゃんの周り、素敵なお姉さんばかりいるのが、最初から気になってたの。可愛いリリちゃん? ツンデレお姉さんのエヴァさん? もしかして、歳上魅力満載のアカネお姉さん?」
「ぐ! い、一体、何を思って、この場でそんな事を聞くのかなぁ……。は、ははは……」
「だって、全員が居る場所で聞かなきゃ、不公平でしょ? オンナノコはそういうの気にするんだよ? お兄ちゃん、もっと女性心理を勉強しなきゃ」
ナオミの「一撃」で食堂は騒然としだした。
「そんなの、リリに決まってるの! ね、トシおにーちゃん」
「わ、わたしは行く先が無くなったのをトシとリリちゃんに拾ってもらったから……。で、でもトシは嫌いじゃないわ」
「へー。妹ちゃんから見たら、トシ坊はアタシをそんな風に見てるように感じるんだ。面白いわね」
……えー。これ、どうやったら落ち着くのぉ! 地雷しか埋まってないぞー、これ。
結局、このまま誰がどうとかで話題沸騰し、ナオミから過去の話が語られたのは、一時間後だった、まる。
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