第60話(累計 第106話) 最終回 トシとリリ。そして伝説へ!
静かな夜。
パチパチと音を立てて燃える暖炉の側で、老人と孫らしき幼子らが今晩も談笑している。
「ひいお爺ちゃん! あの話の続き、また聞かせてよぉ。女神様と英雄様って結婚したんだよね?」
「お前は英雄様と女神様たちの話が好きじゃのぉ。では、今宵も話すかのぉ、世界を救った英雄様と女神様たちの話を……」
老人は、ひ孫にせがまれて伝説になった昔話を語り出す。
それはこの地、惑星オデッセアに古から伝わる英雄伝。
様々な冒険の末、人々を救い乾いた大地を潤し、平和をもたらした英雄達の伝説を。
◆ ◇ ◆ ◇
「どうして、こうなるのかなぁ」
「おにーちゃん、観念してね」
「そうよ、二人の超美人なお姫様をお嫁さんに同時に貰えるんですからね」
「お兄ちゃん、しっかりね。お姉ちゃんたち、とっても綺麗!」
「そうよね、ナオミちゃん。ナオミちゃんの結婚式の時は、わたくしも最大限、衣装やらお化粧やら奮発しますわ!」
今日は、僕とリリ、エヴァさんの結婚式。
惑星オデッセアの全人類を救った英雄として祭り上げられてしまった僕たち。
後は伯爵様のプロデュースで、この日が来るまで外交官として各国を引きずり回された。
……ヴィローやヴァハーナを連れての外遊。完全に師匠が言うところの砲艦外交。共和国でも貴族連合でも、僕らはすっかり怖がられてしまったんだ。
この乾いた星で人類が生きていくには、まだまだ脅威が多い。
そして助け合っていかなければ、再び惑星レベルの脅威が迫って来た時に破滅を迎えかねない。
今回の脅威の詳細、そして地球人類との再度の「出会い」の可能性、更には宇宙規模の危機がこの星を襲う可能性もある事を、僕らは各国に知らせた。
……母船のログに、地球からの超光速通信をここ数年に受けた記録があったんだ。残っていた宇宙船AI達をリンクさせて、今後の対応をしやすくするためにしていた時にリリが見つけたのは、大手柄。
地球が、どうして播種移民宇宙船団を宇宙に多数送ったのか。
そして何故に生命倫理に反して、魔法因子の付与や遺伝子改造までして、人類を宇宙に対応させようとしたのか。
はっきりしたことは、母船にすらデータは残っていない。
仮説ではあるが、地球に何か宇宙規模の危機が迫り、それから地球人類という種を生き残らせようとしたのではないか。
プロトさんは、そんな事を言っていた。
「わたくし達、ノルニルという人類の上位種を作ったうえで支配下に置いて生き残ろうとする生き汚さ。何か、特別な事情があるに決まってますわ。まあ、そういう悪あがき自身は、わたくし嫌いではないですけれど」
地球にまだ人類が残っているのか、また他の移民船団は無事なのか?
超空間通信とやらが送られてきたのだから、最近まで地球文明を引き継ぐ者が生きていたのは間違いない。
……そして、彼らが敵になる可能性も否定できないんだよね。人類って同種で争う性質があるしね。
「はぁ。まだまだ課題は多いけれど。僕、結婚なんてしていて良いのかなぁ?」
「おにーちゃん。今更何? 心配しなくても、おにーちゃんの事をわたし、最後まで看取ってあげるからね」
「ええ、わたしとリリちゃんが居ますから。トシには孫や曾孫に囲まれて幸せな最期をベットの上で送らせてあげますわ」
僕の左右に居るウェディングドレスを纏う美姫、二人。
彼女たちは、僕の両手をがっしりと両手で抑え込み、自らの柔らかき「頂き」を押し付ける。
そして、一生逃がさないと宣言してくれた。
「じゃあ、僕の一生。お願いします。リリ、エヴァ」
「うん、ダーリン」
「はい、貴方」
僕がリリと出会って始まった冒険物語。
最初は、両親や師匠の敵討ち、復讐だった。
しかし、いつの間にかリリの笑顔に心を癒され、人々の笑顔を守る戦いになった。
……僕が復讐を狙っていた貴族たち。後で知ったんだけど、ラザーリさんの奇襲で殆どが死んでいたんだ。唯一生き残った怨敵、ニコラ・オスマン伯爵も彗星ラーフ攻略戦前に領地内で革命が発生し、命からがらにラウドに逃亡してきたのは笑ってしまったんだ。
僕はオスマン伯爵の命を奪う事はしなかった。
彼に直接、僕の両親を殺した事を聞いたのだが、覚えていないといった。
そして、ただただ命乞いをする哀れな姿に、殺す気すら無くなった。
……後は伯爵様、アルテュール・ファルマン伯爵に任せたけど、さて。死んでも生きてても、ナオミを取り戻しリリを愛する僕には、もう関係ないから。
「じゃあ、式場に参りましょう、お二人」
「うん!」
「良しなに」
式場のドアを開く。
そこには多くの人々が笑顔で待ち構えていた。
みんな、幸せな顔だ。
「ありがとう、リリ。宜しくね、エヴァ」
まだまだ続く僕らの物語。
自分達が幸せになり、その幸せを世界に広げていく。
そして宇宙を幸せな世界にしたい。
リリやエヴァ、そして仲間達と一緒なら何でも出来そうだ。
そう、僕は思った。
◆ ◇ ◆ ◇
「その後、英雄さんと姫様はどうなったの?」
「幸せに暮らして、子だくさんになったそうじゃ。星が降って以降はオデッセアでも雨が沢山降る様になったのも、良かったのじゃ。その後も地球から来た星の船と対話を成功させて、今の宇宙連合の原型を作ったと聞くのじゃ。更に宇宙規模の危機、星の海を渡ってくる邪神も皆で協力して退治したと、ワシも教えてもらったのぉ」
「じゃあ、明日は邪神退治の話を教えてね、ひいお爺ちゃん! 僕もそんな優しい英雄さんになりたいな」
「坊やなら、なれさ。誰もが誰かの英雄なんだから。そう、『僕』も最初はそうだったからね」
トシは、膝の上の曾孫をそっと抱きしめ語る。
そんな様子を、今もなお若い姿のリリ、エヴァが微笑ましそうに眺めていた。
トシの人生という物語は、まもなく終焉を向かえる。
しかし、彼の血と思いは、受け継がれていく。
冒険の旅は、まだまだ終わらない。
(完結)
これにて、トシとリリの物語は一旦終わります。
長きにわたり、応援ありがとうございました。
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