第58話(累計 第104話) 星が降り、燃え尽きそうな茜色の空。
「トシ様、もう限界高度ですわ。このまま破片、隕石と軌道を一致させたままじゃ、ヴァハーナでも空力負荷で分解しかねない!」
既にラーフの破片は、落下方向を空力加熱で真っ赤にして惑星への落下軌道を取っている。
僕らは破片に限りなく接近して、熱分解光線砲を撃っているが、思ったほど効果は出ていない。
……ヴァハーナの翼端なんかは、空力加熱を始めていてかなり不味いんだ。ガスや破片も、もろ被りの位置だし。
これまでの攻撃で、元は500メートルを超えていた破片も、なんとか200メートルくらいまで砕けている。
しかし今も、全天周モニターの全面部いっぱいになって各部からガスとデブリを激しくまき散らす。
微細なデブリは流れ星になって燃え尽き、ガスは彗星の尾となってたなびく。
そして巨大な惑星オデッセアの地表に向かって落ちていた。
……沢山の星が惑星に降り注いでいるよ。まだ小さいから、全部流れ星になって消えていく。これ、こんな状況じゃなきゃ綺麗だって思うよね。
「でも、このまま落ちたら、地上に大きな被害が!」
「トシ、じゃあどうするの? これ以上の攻撃はこの距離からじゃ無理だわ」
既に破片を沢山浴びてヴァハーナの重力場シールドも限界が近い。
「じゃあ! プロトさん、ヴァハーナ部分を任せます。ヴィロー、サブアーム展開射出。目標、彗星ラーフの最大破片」
【御意。直接乗り込んで接近戦ですね】
「待って、トシ様!」
「しょうがないわ、プロト姉さま。こうなったトシは誰も止められないの。慣性制御、全開。いきますわ。相対速度、合わせ!」
「そうなの。おにーちゃん、魔力炉のコントロールは任せてね」
プロトさんの答えを待たずに、僕はヴィローの四本あるサブアームを射出、破片の表面に深く突き刺した。
「よし、かかった! ヴィロー、ドッキング解除。ワイヤー巻き取り」
【御意】
慌てるプロトさんを尻目に、ドッキングを解除したヴィロー。
そのまま、激しくガスが噴き出る氷の大地に降り立った。
「アイゼン、可動して足場確保。サブアーム、氷の大地内で全開射撃。主腕はブレードで地面を切り裂くぞ! ついでに熱分解光線砲も撃て!」
「慣性制御、全開。トシ、足場はまかせて!」
「おにーちゃん、いっくよー!」
【御意。このまま限界まで頑張ります】
エヴァさんがいうところの断熱圧縮による空力加熱で、巨大破片から見上げる空は、茜色に焼けている。
そんな空の上にヴァハーナは浮かび、必死にデブリを避けながら僕らが取りついた破片を追尾していた。
……星が降って、燃え尽きそうな空。すごく綺麗だなぁ
「おにーちゃん。空、とっても綺麗だね」
「そうだね、リリ」
「うふふ、まったく呑気でロマンチックな事。さあ、破壊行動しますわよ、リリちゃん、トシ!」
「こちらは、無理してでも追尾しますわよ。綺麗な空ですが、プロトは絶対に妹たちを守りますの!」
誰もが綺麗と思いつつも、僕らは破壊作業を続行する。
「え! サブアーム、機能に不具合発生。攻撃不可能。トシ、食い込み過ぎて内部から腕が抜けなくなりましたわ」
「しょうがない、エヴァさん。遠隔操作でサブアームを自爆させてください」
地面深くに撃ち込んでいたサブアーム。
内部から攻撃を行っていたが、オーバーヒートとこれまでの負担で機能停止。
抜けなくなったので、自爆コードを送る。
「腕の自爆でヒビが大きくなったの。おにーちゃん、もう少し」
「ああ、リリ。うぉぉぉ!」
内部に食い込んだ腕の爆破。
更にこれまでの攻撃で、脆くなった巨大破片は、どんどん砕けていく。
……それでも、まだ100メートル以上はあるじゃないか!
既に砲身が焼きあがり、熱分解光線砲は使用不可能。
残る最後の攻撃として、僕は高周波ブレードを氷の大地に撃ち込んでいった。
「トシ様。もう、限界です。お早く、離脱を!」
「プロトさん。でも、あと少し」
「トシ、足場が砕けます!」
「きゃー!」
攻撃や空力負荷により、亀裂が広がって大きく砕ける氷の大地。
アイゼンによりヴィローの足を固定していた部分も、それに巻き込まれ砕け、ヴィローは茜色の空に放り出された。
「まだ、まだぁぁ! ヴィロー。『黒洞・爆縮』を使うぞ!」
「トシ! こんな不安定な状況で使ったら、バランスを崩して空力で分解しちゃうわ」
「おにーちゃん。わたし、やるの! ヴィロー、お願い」
【御意。各慣性制御、重力コントロール、重力場シールドを一時停止。全てを弾頭に集約開始。発射までカウント15、14……」
これまで使用していた重力場シールドや慣性制御を切ったため、一気に空気の壁とマイナス加速度がヴィローを襲う。
「スラスター全開、姿勢制御……。追いつかないわ!?」
ヴィローの機体がくるくる回転を始め、各部に強大な過負荷と加熱が襲い来る。
構造強化魔法にも限界があり、いつ機体がバラバラになってもおかしくない。
これでは発射方向も定められないし、その前に砕け散るのも時間の問題。
「くぅ。やっぱり、無理だったのかぁ!?」
僕が諦めそうになった時、急にヴィローを襲う空気の壁が弱まる。
「まったく、お姉ちゃんがしっかりしないと困りますわ。トシ様。一旦、ヴァハーナの影、重力場シールド内に隠れてくださいませ。限界まで遮蔽しますわ」
なんと、プロトさんが無理をしてヴァハーナをヴィローの前に被せてくれていた。
おかげで空力加熱やデブリからヴィローが守られる。
「トシ、姿勢制御出来たわ」
「おにーちゃん、魔力炉も全開運転だいじょーぶ」
【カウント継続。五、四、三……」
「プロトさん!」
「はい!」
僕の指示でヴィローの前、射線からどいてくれるヴァハーナ。
ヴィローの両腕の間。
そこに生まれた紫電を放つ漆黒な球体。
彗星から吹きだしたガスや惑星高層の空気が激しく吸い込まれ、球体の周囲に輝く輪が形成されていた。
球体の上下から、激しく加熱されてプラズマ化したガスが噴き出す。
【二、一、どうぞ!】
「いけぇぇ!」
僕は小さな、しかし、とても重い弾を放った。
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