第54話(累計 第100話) 僕たちは宇宙で愛を語る!
「トシ、だいぶ低重力に慣れたみたいですわね」
「そりゃ、コクピットの中で二日も過ごせばね、エヴァさん」
「リリ、ずーっと星空の中で泳いでいたいなぁ」
ヴァハーナを改修、追加ブースタを使って惑星を飛び出した僕ら。
更に加速して惑星オデッセアの低衛星軌道からどんどん高度を上げている。
目指すは月とのL4方向。
オデッセアに向かっている氷小惑星が目的地だ。
……ラウドでの説明から半年。そんなに早く僕らは宇宙に飛び出せたんだ。
母船AIが協力的になったことで、母船内にある巨大プラントが使用可能になった事が大きかった。
更に各地に埋まっていた宇宙船のAI、そこに繋がるプラントも使用可能になったのも早く宇宙へ飛び出せる事を可能とした。
……プロトさんや、多くのリリの妹たちが各地のプラント調整に活躍してくれたんだ。おかげで各地での暮らしが随分と楽になったみたいだね。
「次の加速はいつかな。プロトさん、そっちはどう?」
「今の軌道要素なら、あと五時間後に二百五十秒加速をしますわ。そして静止トランスファー軌道、更に遠地点が目的小惑星との推定接触地点に重なる楕円軌道を取ります」
今回のミッションに参加しているのは、僕、リリ、エヴァさん、そしてプロトさん。
プロトさんにブースターになるヴァハーナに乗ってもらい、ヴィロー側に僕らが乗る。
……男かつ普通の人間は僕だけなんだ。ヴィローをキーに使う以上、僕が乗らないといけなかったし、リリを一人で遠くに送り出すのは嫌だったしね。
「トシ。今のうちにトイレいってお風呂入って、ご飯食べて一休みしたらどう? 後ろの部屋使ってよ」
「うん。わたしたちはまだまだ大丈夫だから、先に休んできてね」
「うん、エヴァさん、リリ。じゃあ、少し休んでくるよ。」
僕はリリに手を振りながら、ヴィローのコクピット内を泳いでみる。
そしてコクピットの後ろに追加された細い通路を伝って行き、奥。
ヴァハーナ側に追加した休憩室に入った。
……ノルニルの子達は宇宙環境にもなじみやすいし、華奢な外見と違って、丈夫なんだよね。僕よりも食事量や睡眠時間少なくても大丈夫だし、加速度変化にも強いんだ。
僕は、無重力用のトイレに座る。
最初はトイレを使うのも恐々だったけれど、二日もすれば慣れる。
また、カプセル内でシャワーを浴びてタオルで拭う。
下着を着替えて、パンを食べつつ柔らかい容器に詰まった水を飲む。
後は、仮眠用のベットに身体を縛って、三時間のタイマーを入れた。
「さあ、起きたら本番だ」
僕は目を閉じた。
◆ ◇ ◆ ◇
「レーダーに氷小惑星が映りましたわ。現在の軌道を画面表示します。このままだと七年ほど軌道を周回したのちに、減速していって惑星に落ちるコースにいくでしょう」
プロトさんの説明で、モニター上に氷小惑星の軌道要素が表示される。
現在のヴィローの軌道は氷小惑星とすれ違うあたりを遠地点とする楕円軌道。
一旦、氷小惑星の背後に回り込んで、そこでアンカーワイヤーなどを使って減速しつつスイングバイ。
「背後をとったら、ありったけの攻撃をぶち込んで小惑星を加速させつつ、粉々に砕きますの」
「加速が大事なんですよね、プロトさん」
「ええ。小惑星が惑星に落ちるのは、惑星の重力にあらがえる第二脱出速度以下になるからですわ。前にいって減速させるのではなく、後ろから加速させて落ちなくさせますわ」
L4にある小惑星が安定軌道から惑星への落下コースに落ちたのは、母船AIが高度な重力制御魔法を長い時間かけて使ってきたから。
もう既に惑星への落下軌道に入っているものに対して、遠くからの重力制御をかけても遅い。
少しでも近くからぶち込んで、小惑星を砕き、サイズを減らしつつ加速させて、惑星への落下物を減らす。
これが今回のミッションだ。
……宇宙に今飛び出せるのがヴァハーナくらいしか無かったから、僕が宇宙に行くことになったのは、運命でもあるかな。
「おにーちゃん。大丈夫だよね? リリたち、上手く皆を守れるよね?」
「ああ。絶対に成功させて、みんなで幸せになろう。遅くなったけど、帰ったら結婚しよう」
僕は、ずっと思っていた言葉を口にした。
リリと僕が生きる時間が違うのは、既に飲み込んでいる。
プロトさんの説明では、おそらくリリは百年ほどかけて大人になり、後は死ぬまで大きく姿を変えない可能性が高い。
……プロトさん自身が成長するのに百年ほど必要だったらしいんだ。
「いいの、おにーちゃん? リリ、一緒におばーちゃんになって上げられないよ。おにーちゃんの方が先に居なくなるのは寂しいの」
リリも、自分がヒトとは生きる時間が違うのは知っていた様だ。
不安そうな顔で僕に問う。
「じゃあ、僕が死ぬまでリリは若いまま。お得な感じがするよ。僕は他でもない。リリと結婚したいんだ」
半分茶化す様に僕は答える。
リリと一緒にずっと暮らしたいと。
「いいの? 本当にリリで良いの、おにーちゃん」
「うん。リリだからいいんです! ずっと一緒に居てください」
僕は操縦席のベルトを離し、後部席まで無重力の中を泳ぐ。
そして、涙を一杯目元に貯め、目じりを赤くした小さなリリに飛び込んだ。
「はい! リリはトシおにーちゃんのお嫁さんになります。これからも、宜しくお願いします」
嬉し涙目なリリを僕はぎゅっと抱きしめた。
そして、キスで答えた。
「うん。僕の可愛いお嫁さん」
「あーあ。わたしの目の前でラブシーンしちゃって。頼むから作戦前にエッチなんかしないでね。無重力空間でのエッチは難しいって話だし」
僕とリリが視線に気が付くと、ニヤニヤ顔のエヴァさんがR18的な事を話し出した。
「え、エッチ? そういえば、わたし。どんなことをするのか、プロトおねーちゃんに少し教えてもらっただけなの。確か、男の子の『おしべ』を女の子の『めしべ』の中に入れて……」
「リリ、ストーっプ。さ、作戦が終わって地球に帰ってから、詳しい話をしよう。エヴァさん、女の子向けの性教育をお願いします」
「はいはい。トシも顔を真っ赤にして、まったく可愛いカップルだこと。あ、わたしは第二婦人枠でお願いね。3Pとかは、リリちゃんが慣れてから……」
「う、うわぁぁ。頼むから作戦前に変な話にしないでよー!」
【はぁ。毎度ながら緊張感がないですねぇ、我がマスターや姫君たちは】
そうこうしている内に作戦開始時間が近づいてきた。
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