第1話 トシとリリとヴィロー。
乾ききった砂漠の世界オデッセア。
そんな場所でも、人々は必死に生きている。
魔法という不思議な力を使い、無から水を生み出して。
そんな貴重な水を奪い合う者たち。
少ない食料を分け合い助け合う者たち。
多くの人々が乾いた大地の上で、今日も「したたか」に生きている。
この物語はオデッセアに革命を起こし、人々に水と平和をもたらした勇者。
そして彼を助けた少女、彼らが駆る機械巨人の伝説である!
◆ ◇ ◆ ◇
「ヴィロー、緊急回避! 直ちに戦闘出力へ。リリ、ちゃんとヘルメット、シートベルト確認! あと、偵察ドローンも射出して」
【御意!】
「うん、おにーちゃん」
全身鎧の騎士がそのまま大きくなった様に見える身長九メートルほどの機械巨人、ギガスを駆り広大な砂漠を旅する僕ら。
その途上の街道で、僕らは巨大なモンスター、砂蟲の巣に接触してしまった。
僕はヘルメットを被りなおしながら、指示を二人に飛ばす。
「おにーちゃん! 四時の方角、距離200。蟲さんが三匹来てるよ。十一時の方角からも二匹、距離300!」
「くぅ、挟まれたか。ヴィロー! しょうがないから、一旦飛行するぞ。スラスター吹かせー!」
背後の少し高い位置にあるコ・パイロット席から聞こえる義妹リリの管制指示を聞き、僕は機体のスロットルを全開にした。
【飛翔します。お二人とも、加速度にご注意を!】
コクピット内に、硬い感じがする男性の声が響く。
それは、この機体ヴィロー自身の声だ。
ヴィローは、世にも珍しい知性のあるギガスである。
グンという衝撃を感じた後。
今度は、ふわふわとした浮遊感を僕は感じた。
目の前の全方向が見えるモニターには雲がほとん無い青い空が上半分、そして半分から下には地平線まで広大な砂漠が映し出される。
ヴィローは身長の二十倍以上、天高くまで脚力によるジャンプと背部、腰部や脚部の機動スラスターを吹かして飛翔した。
「蟲さん、全部で五匹。どれも、ヴィローよりも大きいよぉ」
リリが言う様に下方の砂漠では、ヴィローの身長の数倍はある長くて沢山の硬そうな毛に覆われた蛇。
いや、大ミミズが砂の海から飛び出し、獲物の僕らを探してのたうち回っている。
「このまま逃げの一手ってのも出来るけど、アイツらに街道沿いで暴れられたら商人キャラバンの人たちが困るよね。ヴィロー、リリ。僕らで、こいつらを退治するよ」
【了解、マスター】
「可哀そうだけど、しょうがないよね」
砂除けと太陽光避けにまとったマントをなびかせ、滑空しながら地面へと落ちてゆくヴィロー。
僕は、「彼」に敵の殲滅命令を出した。
「ヴィロー。補助腕、全展開! 六臂モードへ移行。魔力弾、乱れ打ち!」
【御意、マスター】
ヴィローは背中に収納されていた隠し補助腕、二対四本を展開する。
六本腕それぞれ掌に、瑠璃色のプラズマ光弾を形成。
全天モニターに表示されるターゲットを、僕はヘルメット内のHMDにて「まばたき」でマルチロック。
「全弾、ロックオンできたよ。おにーちゃん、今!」
「シュート!」
僕は、光弾を地上で這いまわる砂蟲に叩きつけた。
「三匹の撃破を確認。残り二匹だよ、おにーちゃん」
着弾による砂煙と紫色の鮮血が、砂漠に飛び散る。
傷ついた砂蟲の奇声が砂の戦場に響き渡った。
「ヴィロー、着地時の隙を狙われない様に。着地前からスラスター吹かして、ホバーモードへ移行するよ!」
【了解】
どんどん地上が近づく中、ヴィローは加熱空気をスラスターより下向きに吹かし落下速度を落とす。
【着地します。ご注意を】
「くぅぅ!」
そしてふわりと着地したのと同時に、ヴィローは脚部スラスターを利用したホバーによる高速機動を開始した。
案の定、着地を狙っていた砂蟲はヴィローが着地した砂地に開口した巨大な顎を叩きつける。
僕は歯を食いしばって、激しく変動するGに耐えた。
……シートベルトしてても、結構キツイ!
「抜刀! 切り裂け、ヴィロー」
【御意、マスター】
白銀の魔法金属装甲を金色なマナの光で輝かせながら、マントをなびかせて高速ホバー移動。
宝冠を被った修羅の顔を持ち、背中にまばゆい円光を掲げる六臂の異形なギガス、ヴィローチャナ。
その名は遥か彼方、宇宙の向こうの世界の神話。
最強の戦闘神、阿修羅王から名付けられたとヴィロー本人が言っていた。
着地を狙ってきた砂蟲の横を通過する際。
ヴィローの両腰、可動スラスター上部に接合されている鞘から赤熱・振動する片刃剣、いや刀が二本抜かれる。
「いけえぇ、二刀両断!」
そして紅の軌跡を二つ描いて、ヴィローは自分の動体よりも太い砂蟲の腹を真っ二つに切断した。
「残り、一匹! 一時の方向、距離80。おにーちゃん、ヴィロー。がんばれー!」
高機動による加速度に揺られながらも、リリは的確に指示を飛ばしてくれる。
「このまま勝負をつける。ヴィローチャナ! 必殺、十文字斬り!」
鎌首をあげる砂蟲に対し、突撃するヴィロー。
両手に持つ刀が「X」の真紅の軌跡を描く。
砂蟲の腹にも同じ「X」の傷が刻み込まれ、そこから砂蟲はバラバラになった。
「ふぅぅ。リリ、周囲に動体反応や魔法反応は?」
僕は大きく息を吐きながらも、視線を倒した砂蟲から外さない。
……残心は忘れない。前も倒したはずのモンスターに逆襲されたからね。
「……。今のところ、周囲1000以内に大きな反応無いよー」
【私の方も、敵らしき存在を感知できない。マスター、もう大丈夫だ】
「はぁぁ。じゃあ、モードを通常に移行。ドローンも回収。二人ともお疲れさまでしたぁ」
僕は深呼吸をしてヘルメットを脱ぎ、水筒から一口水を飲みつつ備え付けのタオルで汗まみれの顔を拭った。
コクピット内空調からの涼しい風が、とても気持ちいい。
「おにーちゃん、ヴィロー。お疲れさまでした。蟲さんのご遺体、どうするの? このまま放置しておく?」
後部座席に振り返れば、ヘルメットを脱いだニコニコ顔のリリが居た。
まるで月の灯りが糸になって降りてきたかのようなプラチナブロンドのボブヘアー。
最上級の雪花石膏にも見える透き通って瑞々しい肌。
先がとがった長耳。
王冠の上で燦然と輝く宝石如き瑠璃色の大きな瞳は、長いまつ毛に飾られている。
小さいながらも整った鼻筋、淡く桜色に色づいた唇。
手足はすらりと伸び、くびれは薄いながらも女性らしい曲線を描き始めた身体。
可憐で華奢、どこか月の夜に舞う妖精の様な娘。
十二歳くらいに見える超絶美少女。
それがリリ。
僕にとっては、大事な大事な二人目の義妹。
「放置してアンデット化しても嫌だから、焼いておこうか。ヴィロー。着火魔法を拡大お願い」
【分かりました。では、魔法をお使いください、マスター】
僕は野営必須魔法、着火を唱える。
人間が使えば、焚火を起こす程度の火花。
しかし、ギガスによって増幅されれば、それは巨大な火球にもなる。
僕の魔法で、ボワっと砂蟲の遺体が燃え上がる。
砂漠の上なので他に可燃物は無い。
遺体が燃え尽きれば、野火が燃え広がる心配をしなくても良いだろう。
「じゃあ、先に行こうか。早く支援部隊との合流点に行って、次の街に入るまでに整備と偽装しなきゃね」
【本当に偽装しなきゃダメですか、マスター? 私、重くて動きにくいのは嫌なんですが?】
「正体、バレたら大変だもん。我慢してね、ヴィロー。動きは、おにーちゃんが頑張るよ」
僕らは砂蟲が燃え尽きるのを見届け、街道に戻る。
次に向かうは、闘技場の街ラウド。
僕らの新たなミッションの開始だ。
今回はファンタジーロボ作品です。
同じ題名の短編からの続きとなっております。
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