62.ドラゴンさんは冒険者ギルドにいく
「ここですね」
「おお、ぽいのう」
我とスピアの前に立つ剣と盾が描かれた看板が掲げられた建物。それこそが目的地である冒険者ギルドじゃ。
「やっと着きましたね」
「そうじゃな」
ゲンナリとした様子でスピアが告げた言葉に割れも同意する。というのも冒険者ギルドにたどり着くまでにすでに五度もトラブルに見舞われておるわけじゃしな。
それも四件がスピア狙いのナンパであり、残りの一件は我をモンスターと勘違いして攻撃してきた冒険者であった。
「スピアはモテモテじゃったな」
「ご主人は狩れば高く売れると思われたんでしょうね」
「まあ、我の着ぐるみは可愛いからの!」
「そんな爪から血をしたらせながら言われても可愛さなんてありませんよ」
スピアを狙ってナンパを仕掛けてきた連中はスピアに無視をされるといきなり怒り出して襲いかかって来るようなバカな連中じゃったがスピアに軽々と伸されておった。更にはスピアに手足を折られて道の端に転がされとった。
そして我を襲おうとした奴らはというと我を襲おうと武器を構えた瞬間にデスベアーの爪で腕を切り刻んでおいた。
おかげで道は血の海じゃったがな。
可愛いって罪じゃよね!
「私への被害というよりご主人のは過剰防衛です」
「と言っても気づいたら手が動いたんじゃ。我は悪くない」
武器を構えられた瞬間になんか勝手に手が動いたみたいな感じがあったんじゃが……
じゃが、考えてみてほしい。手が動いた結果は腕がなくなっただけじゃ。我が拳を振るえば命がなくなってたと思うんじゃよ。つまり、結果だけで見ればバカを我は助けた事になると!じゃが流石に腕が無いと困るかと思って新しく出来た魔剣の実験をさせてもらったがな。
「周りはドン引きでしたが」
「見解の相違じゃな」
これ以上話しても相互理解は無理じゃな。
そう判断した我はさっさと冒険者ギルドとやらに入る事にした。
「なんじゃ、思ったより綺麗じゃな」
中に入った我の感想はそれじゃ。
異世界の漫画ではもっと荒くれ者共が昼から酒を飲んだり、小汚い感じで描かれたりしていたんじゃが、思ったより清潔じゃ。
じゃが、なんかやたらとガタイの良いのが視界の隅でナイフを舐めてたりするんじゃがあれは冒険者なのか? パッとみ街のチンピラみたいにしか見えんのじゃが…… というかナイフって美味しいんじゃろうか?
「漫画で見たようなクエストボードみたいなやつはないんじゃな」
「ご主人、漫画と現実を一緒にしないでください」
なんか酷い言われようじゃ。流石に空想と現実を混同などせんがクエストボードはあれば楽そうなんじゃがな。
それよりもじゃ、この冒険者ギルドに入った瞬間から街を歩いていた時よりも更に注目されているような気がする。ただ、さっきまで感じていたようなイヤラシイ感じの視線にプラスして値踏みをするような感じじゃな。まあ、いやらしい感じのほうが比率的には高そうじゃがな。
「とりあえず受付に行きましょう。冒険者の登録をしてしまった方が話も聞きやすいはずです」
「そうじゃな」
スピアに頷くと受付らしいカウンターへと向かう。
我等が歩くと周りの連中の視線もそれを追うように動いとる。露骨じゃなぁ。
「冒険者ギルドへようこそ。ご依頼でしょうか?」
受付までいくとメガネを掛けた受付嬢らしい人が和かな、じゃがなぜか引き攣ったような笑みを浮かべながら尋ねてきた。
「いや、冒険者登録がしたいんじゃが?」
「クマさんがですか?」
我が話を切り出した事に受付嬢は怪訝な表情を浮かべよる。あ、我の見た目がクマじゃからバカにしとるな。
「我とこやつじゃ」
「えーと、冒険者は怪我とかしちゃう職業だよ。もう少し大きくなってからでもいいんじゃないかな?」
まるで幼子を諭すような言い方じゃな。あ、これは着ぐるみに入っている子供と思われとるな⁉︎
そして次に後ろに控えるスピアへと視線を向けとる。なんとかしろと言わんばかりじゃ。
いや、見た目はクマで身長は低いんじゃが中身はドラゴンなのに。並のモンスターならワンパンなのに……
なんかショックじゃ。
「ご主人と私の登録をお願いします。こう見えてご主人は強いので」
「そうじゃぞ! 我は強いんじゃぞ!」
「わ、わかりました。では登録料を銅貨五枚になります」
「銅貨?」
冒険者になるのに登録料なんかいるのか。
しかし、銅貨五枚。今我が持ってるのってDPしかないんじゃが……
さすがにDPでは払えんじゃろうしな。
「ツケとか無理かのう?」
「ツケですか⁉︎それはちょっと困ります」
よく考えたらなんも実績がないのにツケなんかできるわけないわな。
じゃが、我のお財布に入ってるのは魔界ネットワークで買い物をした時のレシートばかりじゃし……
「あ、下着とかで代用は……」
「できるわけないでしょ⁉︎ しかも何で下着⁉︎」
出来ぬのか、マルコシアスならいけるような気がしたんじゃが冒険者ギルドでは無理みたいじゃな。
「ならばご主人、以前狩ったモンスターの素材を買い取ってもらいその買取額から引いて貰えばいいのでは?」
「なるほど、それは名案じゃな。それでもいいのか?」
「え、ええ」
ダンジョンで死んだモンスターの奴でも問題ないんじゃろ。とりあえずは雑魚のモンスターでいいな。
異空間へと手を伸ばし中に入っていた死体を一つ取り出し、カウンターへと放り出す。
途端、取り出した物がカウンターへ乗った瞬間、カウンターが取り出したモンスターの重みに耐えきれなかったのか悲鳴を上げるように音を立てながら潰れおった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「な、なんだありゃ⁉︎」
「ゴブリンか⁉︎ いや、それにしてもデカすぎる!」
受付嬢が悲鳴をあげて腰を抜かし、周りの冒険者からも悲鳴のような声が上がる。
うるさい奴らじゃのう。
「ただのキングゴブリンじゃろが。何をそんなに驚くんじゃ?」
ダンジョンにワラワラとおる奴の一匹じゃろ。基本的にダンジョン内のモンスター数の調整はしとらん。冒険者にやってもらっているからのう。じゃが、あまりに数が増えるとタマの奴に数を有る程度まで減らして貰っとる。この死体は我が実験でぶっ殺した時のじゃな。傷一つなく死んどるし。
「キングゴブリンですよ⁉︎ 一匹いれば街くらいは簡単に滅ぼすような存在なんですよ⁉︎ こんなのどこにいたんですか⁉︎」
「え、森じゃが?」
受付嬢が腰を抜かしながら叫んどる。
え、こいつそんなレベルの奴じゃったのか? いや、よく思い返してみればキングゴブリンは冒険者の前には姿を現してなかった気がするのう。姿を見せてもジェネラルゴブリンとかじゃったか?
「ばかご主人。いきなりあんなものを出して…… トラブルに巻き込まれたいのですが?」
「だってこんな騒ぎになるとは思わなかったんじゃ」
すでにさっきまでのこちらを値踏みするような視線は感じない。それ以前に冒険者ギルド内がとんでもない混乱に見舞われているようじゃし。
「キングゴブリンが森にだと」
「以前、スケルトンやゴブリンが大量発生した時の残党が進化したのか」
「ダンジョンから出てきたのかもしれないぞ」
なんか色々と言っとる。正確にはダンジョン内でぶっ殺されたわけじゃがな。
じゃが、ダンジョンに戻ったら数が増えすぎた時に山に放したゴブリン共がどうなったか確認しといた方がいいかもしれん。本当にキングゴブリンが発生していたら人間共にしたら笑い話ではないみたいじゃしな。
「で、冒険者登録の話なんじゃが……」
「この混乱を生み出した元凶が話をぶった斬って話を戻しますか⁉︎」
「ばかご主人、空気読んで」
「いや、だって我の目的は冒険者登録じゃし……」
「ここでゴネれば更に時間を取られる事になりそうです」
「それはいやじゃな」
じゃが、我が要望を言わずに静かに言われた質問に答えた結果、キングゴブリンについての質問を延々とされる羽目になったのじゃった。




