55.ドラゴンさんは殴られる
履歴書の山から適当に選んだ二人をとりあえずは採用して人手にしようという事で選んだ二人を呼び出したわけなんじゃが…… わけなんじゃが!
「魔法使いのジョバンですじゃ」
いかにも熟練の魔法使いといった風格を放つジョバン。床につきそうな真っ白な髭にとんがり帽子に怪しげなローブ。なんか伝説の魔法使いとか言われても信じそうな見た目じゃよな。じゃが見た目だけで魔族なわけじゃが! まあ、魔力的には問題なさそうじゃし採用じゃな。
じゃが、問題は二人目の方なんじゃよな。
「オリビアの姉のフィンブルスよ!」
なんで姉様がおるんじゃ⁉︎
我はダンジョンのスタッフの履歴書から選んだはずじゃよな⁉︎
それがなんで姉様が⁉︎
いや、履歴書選んだ時に名前とかも確認したんじゃが絶対に姉様の名前ではなかったぞ!
偽装魔法でもつかったのか⁉︎
もう一人雇う予定のジョバンとも熟練の魔法使いとかいう雰囲気というか強者感を醸し出しとるんじゃが、横におる姉様の放つオーラのせいでとんでもなく雑魚に見えるんじゃよな。
ちなみに、ヘルガとタマの奴も同じ部屋におるわけなんじゃが、姉様の放っ威圧にビビって視線すら合わせん。
ヘルガの奴は我との付き合いも長いから姉様と顔を合わせたことは何度もあってたまに手合わせをしとるんじゃが、いつもボコボコにされとるからから苦手意識があるのかもしれん。
「なんで姉様がおるんじゃ!」
「愚問ね! 愚昧! フィンがどこにいても何も問題ないわ!」
姉様はダンジョンに不釣り合いな真紅のドレスに真紅の髪を靡かせるようにしながら不敵に笑う。
いや、説明になっとらんのじゃが……
絶対に暇つぶしで来たに決まっとる!
なにせ姉様は景色がいいからと言ってその国を滅ぼして自分のダンジョンを作るようなドラゴンじゃ。自分が楽しければそれでいいような方じゃ。深い理由があるわけないのじゃ!
「強いていうなら楽しそうだったからよ!」
「じゃよね!」
姉様は快楽主義者じゃからね。楽しい事に関してはめちゃくちゃ鼻が効くからのう。大方、ここに来た理由というのもなんか楽しそう! とかそういう理由なんじゃろうし。
「姉様にもダンジョンありますよね?」
「安定してるし退屈なのよ。魔界であんだけ広告やポスターが貼られてたら気になるじゃない」
しまった。広告が姉様の目に入るようことを全く考慮しとらんかった。
我みたいにインドア派のドラゴンじゃなくて姉様はアウトドア派のドラゴンじゃ。自分のダンジョンがあるにも関わらずふらふらと魔界も人間界も飛び回るわけじゃし、魔界で姉様の眼に留まる事を考えるべきじゃったか。
「姉様、我は遊んでいるわけじゃないんですが……」
「愚昧、フィンも遊んでいるわけではないわ」
姉様にも何か用事が?
おやつでも奪いに来たのかのう?
「全力で愚昧を弄ぶためよ!」
「最低じゃよな!」
おちょくりに来たのなら帰ってほしいんじゃが! おちょくられた拍子に我のダンジョンが壊されかねん!
「あの、ワシはどうすれば……」
「とりあえず、合格にしとく。ヘルガ、頼むぞ」
「わかりました」
ヘルガはホッとしたような表情を浮かべながらジョバンの奴を引き摺るようにして部屋を後にした。ついでにタマの奴も気配を消しながら部屋から逃げ出しとる。
つまり、部屋には姉様と我のみというわけじゃな。
く、我はジョバンの奴の能力に期待していたというのに!
「さあ愚昧!」
二人っきりになった瞬間に姉様は我の方に向き直りばっと手を広げてきた。
なんじゃ?
「なんです姉様?」
「姉の胸に飛び込んでくるものでしょう?」
顔を若干赤ながら手を広げる姉様。これはあれじゃ! 飛び込んだら締め上げられるやつじゃな!
そして姉様の胸は我よりも年上にも関わらず我と同じくらいにストーンなんじゃよ。飛び込んだらきっと我の顔が痛い。
「どこに飛び込む胸が……がふぅ!」
事実を述べたらいきなり顔面を殴られたんじゃが⁉︎
相変わらず手が早いのじゃ。気が短いという意味でも、繰り出される拳が速すぎて見えないという意味でも。
「ぶっとばすわよ」
「殴ってから言わないでほしいのじゃ」
拳を繰り出した姿勢で立つ姉様に我は殴られた顔をさすり、涙目で答えるのじゃった。




