5.ドラゴンさんは屈する
「まずはダンジョンに人を呼ぶところからです!」
やる気満々と言わんばかりのヘルガの奴がどこからか準備したのかホワイトボードの前に陣取りそれを叩く。
我はあのホワイトボードペンとかいうやつは苦手だ。すぐ壊れるし、なんか変な匂いがするし。
そんな我はというと人化を強制する人化の首輪をヘルガに付けられ、人化した状態で現在パンツ一枚という姿で正座である。世界広しと言えどもパンツ一枚で正座をしたドラゴンは我しかおるまい。
しかし、我一応は雌なんじゃが? なに?裸を見る趣味でもあるのか?
パンツ一枚に首輪とかなんの趣味なんじゃ。
「それで具体的には何をするんじゃ?」
「よくぞきいてくれましたバカマスター」
こいつ我のことをバカにしすぎじゃないだろうか?
まぁ、バカなのは否定はせんがな。
「マスターのお姉様のダンジョンとかを参考にしてみるというのはどうです?」
「姉様のダンジョンだとぅ」
ヘルガの案に温厚な我も少しばかり眉をひそめ機嫌が悪くなる。
姉様ダンジョンとはつまり我の二人いる姉のうちの一人であるフィンブルスのダンジョンを指すんじゃろうな。
フィンブルスは言うならば小言が得意な姉様で正論を突かれるとすぐにキレてすぐに暴力に訴えるという人間で言うところの貨幣サイズの心の大きさしか持っていない性格の悪いドラゴンだ。
そして姉様と呼ばないと怒る。
なにより姉様は人のおやつを横取りしまくる。
実家にいる時は我のおやつはほぼとられていたからのう。
我とは姉様は相容れない存在である。というか関わりたくない。いじめられるし!
「フィンブルス様のダンジョンは常に売り上げがトップクラスのダンジョンマスターです。隣の国のど真ん中にダンジョンを築いていますし、集客率も葉半端ないです。加えて妹であるマスターにはバカみたいに甘…… んん! 優しいのでダンジョン運営のノウハウを教えてもらえるかもしれません」
姉様が我に甘い?
どうしよう。ヘルガの奴は働きすぎで目がおかしくなったのじゃろうか? 有給が余ってるし休みをやるべきじゃろうな。
「ヘルガ、有給とるか? たまには魔界に帰って羽を伸ばしてきてもいいぞ?」
「私は疲れていません。ついでに言うならば今有給を取れば下手すれば次に来た時に職場がなくなっている可能性がありますし」
こいつ、この口の悪さ。全然疲れてなようじゃな。
「だが姉様の真似をするくらいなら我は破産してやるぞ!」
姉様に教えを請うというということはあの姉に負けたということになる。それだけは我慢ならん。そしてちまちまと笑いながら嫌味を言ってくるに違いない!
いや、実際に戦えば確実に負けるんじゃがな。
「変なところでこだわりますね」
「我のドラゴンとしてのプライドだな!」
「そんなみみっちいプライドよりも私の給料と精神の安定を図って欲しいところですが」
明らかにやれやれといった様子でヘルガの奴は深々とため息をつきよった。
……プライドは金では買えないのだ。
「となると正攻法で行くしかありません」
「うむ! つまりは王道だな」
王道!
その響きこそドラゴンたる我にふさわしいものじゃ!
襲ってきたものは返り討ち! ダンジョンの奥で待ち構えることこそが王道というものよ!
「ではマスターにしてもらうことですが」
「おう!」
「追い込み漁をしてもらいます」
「おう! まかせ…… なんじゃと?」
なんか聞きなれん単語が聞こえた気がしたから聞き返す。
「追い込み漁ですマスター」
「…… 追い込み漁ってここは山なんだが?」
漁って魚を捕まえることじゃろ?
山では魚は釣れんだろう。
はっはーん! ヘルガの奴、間違えてしまったがそれをいい直せずにいるわけだな。
ふふふ、かわゆい奴め。
「いえ、合っていますマスター。マスターにはこれから山を駆け回っていただき山の生き物をダンジョンへと誘導するように追い込んでいただきます。もしくはそのロリ美少女の容姿を使って人間を連れてくるのもありです」
「……我ダンジョンマスターよな? 我お前より偉いよな?」
しばらくの間硬直してしまったが我を取り戻した我は一応部下であるはずのヘルガへと尋ねる。
「はぁ、いいですかマスター。まず第一前提として私は剣を扱う事もできます基本的には魔法使い、後衛、頭脳担当です」
「そうじゃな」
今回聞かされた話でいかに我のダンジョンが危い状態かよくわかったからな。ヘルガから言われなかったら我気づかなかったし。
「対してマスターは脳筋…… いや、脳みそ筋肉…… バカですから」
「おい、せめてもう少しまともなのにいい直すんじゃ」
脳筋と脳みそ筋肉とバカって全部同じ意味じゃよな?
「そんなマスターには肉体労働がぴったりなわけです」
「……普通は部下がいくもんじゃないのかのう?」
そう、我はダンジョンマスター。
部下に指針を求めることはあってもそれに従うのはドラゴンとしての誇りが許さない。
「まだ売れてないフィギュアもありますがそれの手足をマスターの前でへし折ってもいいのですよ?」
「さあ! 働こうじゃないか! 労働最高ぅぅぅ!」
正座状態であった我であったがそれを聞いて力強く立ち上がる。
ドラゴンのプライド?
そんなもの我が愛するフィギアの前には関係ないのう!
そして外へ向かおうとして、転けた。
「あ、足が痺れた……」
「やはり脳筋でしたか」