15.ドラゴンさんは掻き回す
「マスター」
「なんだ? 我はいま非常に忙しいんだが?」
騒がしい足音を上げながら我の部屋に入ってきたヘルガに振り返ることなく我は答える。
今我は目の前にある鍋をひたすらに掻き回しているのじゃからな。
以前追い立てた生き物が僅かにだがダンジョン内に迷い込んできたのでゴブリン共に襲われる前に回収できた。たまには良いものを食いたいからのう。
DPは欲望のポイントであるわけだからその生き物の亡骸自体は残るわけだからそれを料理にして有効活用しているわけだ。無論、死体をDPに変換する事もできるんじゃが我は肉が食いたいのじゃ。ちなみにゴブリンなどのモンスターは死ぬと死体がしばらく残るが少しするとダンジョンに吸収されて魔石とドロップ品を残すらしい。
そんなわけで丸二日、鍋をかき混ぜている状態である。
「いえ、マスター。これはマスターにしか解決できない問題です」
「そんなこといってまた我を働かす気だろ? そうはいかないんじゃからな!」
我がお玉を持ちながら振り返るとそれを突きつけるようにしてヘルガに告げる。
今の我は灰汁取りに忙しいのだからな!
「はぁ、まあいいですけど自分で言い訳してくださいよ? あとDPは私が管理しますから余計なことはしないでくださいね」
「我が余計なことなどするわけないだろう! …… まて、言い訳とはなんじゃ?」
なんとなく嫌な予感がしたから尋ねる。
「ええ、断るなら自分でしてくださいね。私は仕事に戻りますので」
ヘルガは持っていた手紙らしき物を放り投げると踵を返して我の部屋から出ていった。
投じられた手紙は距離的に届くようなものではなかったがヘルガが風魔法に乗せたのか落下することなくユラユラと揺れながら我の元まで届いた。
「この手紙、ダン連のものか」
やたらと高価そうな便箋を摘みながら見ていると便箋に見慣れたダンジョン連絡協会。通称ダン連。のマークが記されているのが目に入る。そして同時に眉をひそめる。
「ダン連からの依頼に良い思い出はないからのう」
しかし、断れば依頼内容によるがペナルティを課せられることもあるからたちが悪い。さらにいうならばこちらには借金があるから絶対に足元を見られる気がしてならん。
ため息をつきながら手にしていたお玉を置き便箋の封を開け折りたたまれていた手紙を開く。が、
「相変わらず人族の手紙は文字が小さすぎて読めん」
もう少しドラゴンに配慮して大きな紙に書いて欲しいものであるがそれは贅沢というものだろうか? 今の我は人型だから読めるがドラゴンの体の時なら読めんからのぅ。
考えても仕方がないので手紙を持つ手へと魔力を込める。
すると我の持っていた手紙から書かれていた文字が離れ、宙に大きくなった文字列となった。これで見やすくなるというものだ。
「なになに? 勇者抹殺案内のお知らせ?」
なんのことだ?
全くわからん。というか物騒なものじゃのう。
ダンジョンマスターと魔王の天敵ともいえる存在の抹殺案内とは恐ろしいものじゃな。
いや、勇者の奴らも魔王の数よりも増えとるからのう。
特にすることもなく暇なくせに勇者の奴らは勝手に増えるものだから面倒なものじゃ。
そして受け取った手紙の内容は要約すると今年も勇者が増えました。頑張って間引きましょう♩ というものだな。さらに下の方には勇者達が通るであろうルートまで記載されている。どうやら我のダンジョンの近くも通るようだから便箋が届いたようだな。
「ヘルガぁぁぁぁぁ!」
我が大きく息を吸い込み部下の名前を叫ぶ。あまりの声の大きさのせいか部屋どころかダンジョン全体が震えているようだ。
そんな声をに応えるように姿を見せたのはヘルガではなく爆音を上げ、壁を砕いた黄金に輝く剣だ。しかも凄まじい速度で飛び、更には刀身から魔力がほとばしっとるし、切っ先がこちらを向いておるだと⁉︎
体を捻るようにして躱すが舞い上がった我の髪の一部が黄金の剣に触れると一部を切り取っていった。
そんな我の髪の一部を切り取った黄金の剣はというと壁へと突き刺さり、その衝撃で壁が陥没。しかもとんでもない轟音を上げとるし。相変わらず我の部下はツッコミも容赦がない。
「マスター、大声を出すのはやめてください」
怒ったような口調で扉から姿を現したヘルガが手招きするような仕草を見せると壁に突き刺さっていた黄金の剣が自然と動き彼女の手に収まる。
「いや。だからと言って竜殺しの剣を投げつけてくるのもどうかと思うんじゃが……」
「何か?」
ヘルガが手元で竜殺しの剣を回転さす。それだけで剣から放たれた魔力が我の部屋の中を吹き荒れる、部屋のあちこちに傷を作り出していく。ついでに我が灰汁取りをしていた鍋すら切り裂き中のスープかぶちまけられた。
床に広がる水たまりを僅かに見た後にヘルガを睨むようにするとそっぽを向きやがった。
「我の二日が……」
「わざとじゃないんです」
そんな声も聞こえずに我はうなだれるのだった。




