11.使い魔さんは矯正する
こちらに向かい悲鳴をあげながら飛んできたヘルガを体を動かし躱す。するとヘルガは我の顔の横を飛んで行ったわけなんだがその際に眼が合い、信じられない! と言わんばかりの顔を我の方へと向けていた。
いや、お主は無駄に丈夫だし当たると痛いからな。避けるのは当然の判断というべきじゃろう。
通り過ぎたヘルガは轟音を上げながら壁へとぶつかりめりこんだ。壁にはくっきりと人型とわかる程の穴が空いているのを見るとかなりの力でふまっ飛ばされてきたようだ。
そしてそのぶっ飛ばしたであろう本人の方へと視線を向け確認すると斧槍を振り切った姿勢のまま固まるクマ型のモンスター、鎧クマの姿があった。
鎧クマと言えばモンスターの中でも中位に位置するものだがどうもこの鎧クマは普通の鎧クマと違うようじゃな。
普通の鎧クマは普通の鉄の鎧を着こみ、命令されたことだけを行うものなんじゃが、ヘルガの召喚した鎧クマは鎧の隙間から黒い靄みたいなものが出ておる。
「ふむ 、調べるとあの鎧クマは変異種か。あやつも運がいいと言うべきか悪いいうべきか迷うとこじゃのう」
普通の鎧クマは命令するればその通りに動くといった感じじゃ。
じゃというのに今、目の前にいる鎧クマはというと明らかに意思のようなものを感じる。
斧槍を両手で 握りしめるとこちらに向かい、我の部屋の床を破砕しながら突進してきよる。少しは人の物ということを考慮してほしい戦い方じゃな。
こちらに来ると考えた我は人間状態じゃが背中から翼を出し広げ挑戦を受ける気満々である。なぜなら我は史上最強の種であるドラゴン!逃げるという選択肢はたまにしかない!
そんな我の考えを読み取ったのかのように鎧クマは我へ向かい斧槍を振り下ろす! わけでもなくそのまま我のか脇をすり抜けるように駆け抜け。
「へ? ひぎゃぁぁぁ! なんでこっちにくるの!」
壁から脱出したらしいヘルガへと襲い掛かった。
しかし、腐ってもダンジョンマスターである我の部下であるヘルガである。慌てながらも壁から飛び出し振り下ろされた斧槍の一撃を辛うじて躱す。斧槍が振り下ろされた壁は魔力の爆発が起きたかのように破壊され巨大な穴が出来上がる。転がりながら躱したヘルガはその勢いを使い立ち上がると手にドラゴン殺しの剣を召喚し、怒りの炎を瞳に灯しながら構える。
「私が召喚したのに私のいうことを聞かないとかどんだけの不良品ですか!」
「矯正です!」とか言いながらドラゴン殺しの剣を振り上げ鎧クマへと切り掛かって行きやがった。それを心なしか嬉々として受けようとする鎧クマ。
二人の武器が振るわれるたびに我の部屋の備品が破壊され、吹き飛んでいく。
さすがに貴重な残りの人形にドラゴンの力に物言わせた結界をはっているんだがヘルガの剣が結界に触れるたびに薄氷を踏み抜いたが如く容易く割れる。さすがはドラゴン殺しの剣。ドラゴンと名のつくものは全て殺し尽くしてくれるらしい。なんたるチート武器。あと時々ヘルガの剣から放たれる余波が我の体に当たって結構痛い。
その都度貼り直してはいるがあいつら二人は問答無用で暴れまくるからキリがない。
「こんのぉぉぉぉぉ!」
「くまくまくまくまくま!」
どちらも雄叫びを上げながら武器を振り回す様はさながら決戦のような感じではあるが、やるならTPOをわきまえてやってほしいものだ。
ぶつかり、離れ、またぶつかる。
ぶつかり合うたびに響いていた轟音にも耳が慣れ始めたその頃、ヘルガの斬撃を鎧クマが獣のような動きで(いや、クマじゃから獣なんじゃが)躱した瞬間、我、そして怒りに顔を真っ赤にしていたヘルガでさえも一瞬にして顔を青くする。
「ヘルガ! 止めよ!」
「む、むりです!」
おそらくは全力で振り下ろしたであろうその斬撃はこの部屋唯一の出口である扉に吸い込まれるように放たれ、そしてバターを切るが如くあっさりと切り刻まれた。
ゆっくりとコマ送りのようにして倒れ込んでいく扉を見送り、音を立てて扉が倒れたその先には瞳を爛々と輝かしている緑の小人たちの姿があり、
「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
トラウマを思い出したのか顔を引きつらせながら絶叫したヘルガに呼応するようにしてゴブリン達が我の私室へと飛び込んできた。