73 未来へ
会見からしばらくして、私はナラタさんのいる街に移り住み、そこで魔法治療院を開院した。
開院から1年後には薬剤師資格も取り、ウィルド・ダムの伝統薬を処方するようになった。
まだまだナラタさんに教えてもらうことは多くてグチグチ言われたが、それでこそナラタさんだ。
開院当初は石を投げ込まれたり、病院に落書きされたり、そんな調子なので閑古鳥が鳴いて散々だったが、今ではそういうこともなくなった。
ゴシップ紙に被害を訴えた人からの接触は結局なかった。
どこまでが本当のことだったのか分からずじまいだけど、あの人たちも救われているといい。
ただ、事件が証拠不十分だったとしても警察に訴えていれば、レイチェル・ジョーンズは正当な裁きを受けることもあったのではないかと思うと残念だ。
レイチェル・ジョーンズが裁きを受けることはもう二度とないのだから。
アーサーさんとはいわゆる遠距離恋愛を経て8年後に結婚した。
会見で言ったとおり私は王室に入らず、治療院を続けている。
結婚してからはアーサーさんもこちらに移り住み、公務の時には王都や他国にも出かけていく。
私も必要に応じてパートナーとして参加する。
今度もウィルド・ダムの国王と各村の代表らと交流パーティがあるのだ。
こういう時にウィルド・ダム語が使える私は便利に使ってもらっている。
◇
車で向かった先はウィルド・ダムの国境の街。
(懐かしい……。あの頃より高い建物が増えた気がする)
車は検問を通過し、迎賓館の前で車を降りた。
建物の前にはすでに国王陛下や村の代表の方々が立っていてお出迎えいただいていた。
私がアーサーさんに続き車を降りた時__
『ナオーー!!』
『先生ーー!!』
『ナオ先生ー!!!』
名前を呼ばれた。
声のした方を振り返ると、そこにはマルティンさんと、10代半ばくらいに見える子達。
もしかして__
私は護衛を振り切って走った。
『マルティンさん! みんな!!』
『おうナオ、久しぶり! 結婚おめでとう! 手紙では言うたけどな。改めて』
『ありがとう。わざわざ来てくれたの?』
『わざわざってほどでもないわ。ここに家あるんやし』
とは言っても、行商でこの街にいる時間はあまりないはず。私の訪問に合わせてこの街にいてくれたのは分かってる。
『本当にありがとう。会えて嬉しい』
ぎゅっと抱きしめた。
あぁ懐かしいふわふわ毛皮の感触。
離れがたい気持ちを抑えて姿勢を戻し、マルティンさんの隣にいた若者達に向かい合った。
『スキラさん』
『はい』
『スナフくん』
『はーい』
『リーヴくん』
『はい』
『カーグさん』
『うぃっすー』
『ウェルナさん』
『はい!』
『ハウさん』
『はい』
『オドくん』
『っはい』
『イサナさん』
『はーい』
『エイドくん』
『はあい』
『ジェスくん』
『なんか恥ずかしいな……はい』
『みんな元気そうで、先生嬉しいです』
みんなと別れてから9年。今年で16歳になるはずだ。
誰ひとり欠けることなく生きていてくれて、会いに来てくれて、嬉しくて涙が出る。
『先生泣かないでよ!』
しっかり者のスキラさんがハンカチを出してくれた。
『オレたち、ここらの街で暮らしてるやつらも多いんだ。で、先生が来るって話を聞いたから、じゃあみんなで集まろうかって』
とスナフくんが説明してくれた。
『その言い方じゃ同窓会ついでみたいじゃない!』
その鋭いツッコミはウェルナさん。
『みんな元気にやってるよ。僕は靴職人の見習い』
オドくんもすっかり私の背丈を超えている。
『私は大学で天文の勉強がしたいから高校に行ってる』
その進路はとてもカーグさんらしい。
『私は今年結婚したよ』
大人っぽかったハウさんは彼女らしく着実に歩んでいるようだ。
『私は家業の手伝い』
イサナさんは変わらずおしゃれな服を着ている。
『僕は学校の先生になったよ』
それは真面目なリーヴくんらしい。
『ボクはカニス村のグエンさんと一緒になんでも屋さんをやってるよ』
おっとりしたエイドくんとグエンさんはいいコンビかもしれない。
『先生、結婚おめでとう!』
代表して花束を渡してくれたのはジェスくん。
花束は同じ種類のもので作られていて、色はバリエーションに富んでいる。
『これって……シャラの花……?』
『そうよ! 先生、結局シャラの花畑を見れないで行ってしまったんでしょう?』
心遣いが嬉しい。
その立派な成長が嬉しい。
先生として関わったのは短い時間だったのに、覚えていてくれて、結婚を祝いに来てくれて嬉しい。
この世界に生まれ変わったこと、ウィルド・ダムに行ったこと、これまでの11年間が全部全部報われた気がした。
(あぁ……この子たちや、その子供達のために私がしてあげられることをしたい)
「ナオさん。いきなり走り出してどうしたのですか? この方達はお知り合いでしょうか?」
「えぇ。とてもお世話になった方と元教え子が結婚祝いで駆けつけてくれて。それでね、アーサーさん。私、人生の目標を見つけてしまいました」
「お聞きしても?」
「ジルタニアとウィルド・ダムの架け橋になりたいです」
二国の関係が末長く良好で、両国民が手を取り合って生きる世界を作りたい。
この子達やその子供達が幸せに暮らせるように。
それはジルタニア王国第2王子のパートナーだからこそできる。
「素晴らしいですね。私も協力は惜しみません」
「頑張りましょう! 日本ではこういう時こう言うんです。『エイエイオー!』」
-終-
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