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その悪役令嬢はなぜ死んだのか  作者: キシバマユ
一章 異世界転生(人生途中から)

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24/73

24 あの女性は一体何者だ(アーサー視点)

 脳挫傷、脳出血、内臓破裂、腹腔内出血、脊髄損傷__。

 治療魔法師の女性は患者たちの診断と治療を次々と行っていった。


 「殿下、両手を使って2人同時に治療魔法を行使するなんてことが可能なのですか……?」


 レイは信じられないものを見るような声で私に聞いた。


 「ないね。聞いたこともない。彼女はどこの病院の医師だろう?」

 「私はは何も伺っておりません。なにぶん車内での治療でもあのように非常な集中をしていらっしゃいましたから。とても声など掛けられませんでした」

 「そうか」


 確かに近寄るのも躊躇われるほど神経を使って治療しているのがはたからでも分かる。

 そして気がかりなのはもう一つ。


 「もういつ魔力が尽きてもおかしくないのではないかな?」

 「はい。車内での治療を合わせると30人近く治療をしていらっしゃいます。いつお倒れになってもおかしくはないかと」

 「だけど、止められないね……」


 顔から汗が滲み出てポタポタと地面に落ちていく。

 鬼気迫るものを感じて我々はただ見ていることしかできない。


 (魔力が尽きても死ぬことはない。彼女のやりたいようにしていただこう)


 私はそう腹を決めて、土手を上がり救助隊の様子を見に戻った。




 3両目から進入を試みていた救助隊は瓦礫を排除し、無事2両目に入れたことが見てとれた。


 「私も2両目の救助を手伝ってまいります。動かす時に注意の必要な怪我人がいるので」

 「分かった」


 この件が襲撃などではなく事故だというのはすでに判明している。だから護衛がいなくなっても問題はない。それに軍人でもあるから自分の身くらいは守れる。

 警察は無事な乗客らの避難誘導をしていた。近くの街に案内するのだ。列車が再開するのはいつになるか分からない。乗客らは街に宿泊して再開を待つか、バスでどこかの街に移動するかしかない。

 この大事故も少しずつ収束に向かっていた。


 (地元警察には事故の原因を徹底的に追究してもらわねば)


 このようなことは二度とあってはならない。

 今回は奇跡のような魔法を使うあの女性が乗っていたから多くの命が救われたが、それがなければどれだけ被害が拡大していたことか。


 (あの女性には勲章を授与されるべきだな。陛下に進言しよう)


 「殿下、事故発生時の状況についてお話を伺えますか?」


 この人はこの事故現場の責任者として地元警察から来た、名前はヤード警部と言っていた。

 私は発生直後の爆発に似た衝突音、その衝撃、それから最後尾の貴賓室を出て我々が救助を開始したこと、治療には治療魔法師の女性が尽力していることを伝えた。


 「ここから一番近い街はフォボスなのですがホテルの数が足りず、バスやタクシーが総動員で周辺の街まで運んでいます」

 「それはヤード警部の指示で?」

 「いえ、警察ではそこまではできません。州知事の手配です」

 「早いですね」

 「殿下の護衛の方がフォボスまで走り警察に救援を呼んだ際に、こちらの方から伝書鳩で知事にも知らせを送りました」

 「なるほど。それにしても正面衝突とは……。何が原因なのでしょうか」

 「現時点ではなんとも……。運転士は死亡しているため話は聞けませんし。それと、もうすぐレイルウェイズ社の責任者がここに到着します」

 「そうですか。レイルウェイズ社が今回の事故原因はどこにあると考えているのかが気になります」

 「はい。しっかりと事情聴取を行います」


 会話がひと段落ついたところで乗客が警察官に大声で詰め寄っているのが聞こえ、ヤード警部はそちらへ走って行った。


 (私も救助の方を手伝おう)


 私は3両目車内に入った。




 そうして救助を手伝い、情報を聞きつけてやってきた新聞社の対応をしている間に怪我人は全員が病院に搬送されていて治療魔法師の女性もいなくなっていた。

 私はフォボスか近くの街に滞在しているだろうと思い探したが、どこへ行ってしまったのかついぞ見つけられなかった。

 新聞社が多くの怪我人を救った英雄だと報じたにも関わらず。

 ここまで騒ぎになっているのだから国内にいれば見つかるはずなのに。褒章の授与も決まったのに、なぜ名乗り出ないのだろう。ジルタニア人に見えたが他国に住んでいて知らないのか……?

 皇宮病院の治療魔法科部長にそのような女性医師に心当たりはないかと聞いても、治療魔法の2人同時行使は今までに前例はなく、ぜひその女性を見つけ、その奇跡の技を見せて欲しいと言われてしまった。

 どこに行ってしまったのか。

 汗を流しながら治療する彼女の姿が私の脳裏に焼きついて離れない。

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