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第十二章 『オリーブの首飾り』



 というわけで、今回は企画会議! やっていきたいとぉ……思います!

「やけにテンション高いですねメガネ先輩」

 森田くぅん……そりゃそうでしょ! 記念すべき転生の時なんだからぁ!

「メガネちゃん、それで……なんなんだい? そのグレートな企画ってのは? それで本当にこの休刊の危機を脱することができるのかい?」

 編集長! 改めて、今日は会議に参加ありがとうございます! ええ! 大丈夫ですよぉ!

 そのための企画です! ですが、先に申し上げておきますが、三ヶ月後に迫ったミステラ休刊は予定通り行います!

「は? 何を言ってるんだい? ミステラ休刊を逃れるのが今回の企画会議の趣旨だろ?」

 ちっちっち! まあ話を聞いてください編集長! そこがこの会議の最大のミソなんです。

「その前に……こちらの美人さんは?」

 森田くぅん! さっすが美人には目が無いね! 昔から変わらないね!

「なんか妙なキャラにするのやめてもらっていいですか」

 さあ紹介しよう! こちらは何を隠そう、今巷を賑わせている転生来花さんです!

「どうも……転生来花ですぅ」

「ああ、どうもどうも。 私は月刊ミステラの編集長の茶臼桃一(ちゃうすとういち)です」

 編集長! べたべたしない!

「私はべたべたなんて! 失敬な!」

「で、メガネさん。 彼女は……一体?」

 彼女は、動画配信サイトChoo Tubeでスピリチュアル配信をして生計を立ててるChoo Tuberです!

「スピリチュアル配信?」

 そう! スピリチュアル配信! まあ要は霊能者みたいなものね。

「一応登録者七十万人ですぅ」

「登録者? ああ、チャンネルのね。 僕もチャンネル持ってますよ。 精々五万人くらいですけど」

 てかさ、あの転生さんだよ!? 知らないの二人とも!?

「は、恥ずかしながら……」

 編集長もぉ!?

「ん……名前は、聞いたことが、あるぞ?」

 マジでどうかしてるよ二人とも! もうちょっとアンテナ張った方がいいよぉ?

「むむむ……!」

 実はこの転生来花さん、私の友達なの。 小学生時代のね?

「え……てことは、あの街の?」

 ううん。 私は小学生までは関西に住んでたの。 その時の友達。

「それは初耳でした」

 そうでしょう? なんせ私も彼女のことを最近まで忘れてた。

「ひっどいアイちゃん! 私あなたが引っ越していってからずっと覚えてたのにぃ!」

 ごめんごめん! でも〝リンちゃん〟の配信を見た時、私一目でわかったよ。 それにその貝殻のブレスレット、私があげたものだよね。

「リンちゃんていうのは?」

 田中凛音(たなかりんね)、彼女の本名!

「だぁああ! なんで本名言うねん!」

 いいじゃん! 私は好きだよ!

「田中……凛音……輪廻――だから転生?」

 ご名答! 私はリンちゃんと先日コンタクトをとり、そして無事感動の再会を果たしたわけ。

「びっくりしたよぉまさか本当にアイちゃんが私の正体に気づいてくれたんだからぁ」

 今回は、彼女の協力なくして成功はあり得ない! みんな刮目せよ!

「で……その企画というのは?」


 ふふん。 これを見よ!


「なんだいメガネちゃん……それ、本かな?」

 編集長! これはただの本ではない! 私たちの救世主である、魔法の日記帳なのだ!

「魔法の日記帳?」

 そう! 魔法の日記帳! この日記帳に書かれた内容は、現実のものになる!

 私たちはこの日記帳で魔法を作り出すのよ!

「どういうことか説明してくださいメガネさん」


 いい? よぉく聞いて?

 古来より人は、伝説を語り伝えてきた。 そう、伝承。

 伝承とは人が伝え、そして記憶し、そしてまたそれを語り伝える。

 伝承は変遷し、新たな知識となり、時代と共に肉付けされ、命をもった!

「アイちゃん、回りくどいで」

 ああごめんごめん。 つい悪い癖が。

 まあ要は、様々な歴史の伝説や言い伝えって、実際には似たような事が起きたけど現代では新解釈とか虚実によって捻じ曲げられてきたものでしょ?

 例えばそう。 宮本武蔵と佐々木小次郎の例が分かりやすいかな?

 宮本武蔵という人物は実際に居たけど、佐々木小次郎は架空の存在なんじゃないかって。

 他にもチンギスハーン義経説、上杉謙信女説、洪水伝説、日本神話、心霊写真にUMA、某国の陰謀論、失われた大陸等々……この世界にはありとあらゆる、本当はあったかもしれないけど現代では〝眉唾ものの真実〟ってやつがごまんとあるわ。

 それはまるで川の石……。 本来は大きな岩が語り部の人間という川によって削られていき、小さな石ころに変わっていく。

 大昔に揺らぎの無い大きな真実だったものは、現代という小さな真実となり、その形を変えて新たな真実となる。

 佐々木小次郎だって本当は実在したかもしれないけど、現代という生き物によりその存在を消された。 その昔に確かに人々の中に存在した何かは、居ないものとしてそれを真実に変えられていく。 最初から存在したと言うつもりはないわ。

 でも原点がどうであったにせよ、途中からその真実は確かに人々の意識に〝寄生〟し、芽生えた。

 そして新たな真実により、消えることもあれば、増えることもある。

 これって面白いと思わない?

「ふむ……なんだかスケールがデカい話だね」

「細胞分裂的な感じですね」

 そう森田くん、うまいこと言うね。

 動物にはチロシンキナーゼという物質があって、これは別の細胞からの信号を受信する役割があるものなの。

最初に生まれたいくつかの単細胞にこのチロシンキナーゼがあり、外的要因によって多細胞へと生まれ変わり、そして細胞分裂を繰り返しやがて一つの生物へと進化していく。

 これは伝承によって変わる真実にも当てはまると思わない?

 最初は一つの真実だったものが、分裂を繰り返してやがて別の真実へと進化する。

 これが伝説の正体。

進化した真実は最初の真実と変わってるけど、でもそれは紛れもなく真実なの。

人々が信じる限り、真実は真実という概念として生き続ける。

そしてその完璧な真実へと進化する過程を、人は〝オカルト〟と呼ぶ。


 今回の企画は、その真実を私たちの手で〝造る〟のよ!


「バーン! ていう感じで言ってるけど、つまりどういうことなんだね?」

 ミステラ四十周年記念企画で、この日記帳を題材にした企画をします!


 ――とある若者が謎の廃屋敷で手に入れた日記帳――そこには不可解な文章が記述されていた……!

 そしてその謎を解明するため、ある編集者が屋敷へ取材を敢行する!

 しかしその中ではありとあらゆる奇怪な現象が待ち受けていて――。

「要するにヤラセってことっすか?」

 シャラーップ! 森田くんシャラップ!

「ヤラセにしか聞こえないんだけどぉ」

 いやいや、だからたった今説明したでしょ!? あらゆる真実は進化の過程で新たな真実となって――。

「簡単に言うとヤラセだね?」

 編集長! あなたまでそんな事を言うんですね!?

 もういいこれを見てください! ぽちっと。


「アイちゃん。 この映像は?」

「これは……会議室の……僕たち? もしかしてここに隠しカメラが仕掛けられてるんですか?」

 違うね森田くん。 この映像、一見してただの隠し撮りの映像に見えるけど、すべてリアルタイムでAi生成されたCG映像なの。

「え?」

 さて、私がこの日記帳に今からまじないをかけまぁす……アステリぃ……アステリぃ……。

「私のお祓いの言葉パクらないでくれるぅ?」

 んで、ぱっとやるとぉ!

「おわ!? 映像の中に……幽霊が!?」

「こ、こわ!」

 まあ、これよくある投稿系ヤラセ心霊ビデオではよく使われる手法なんだけどね。 編集長はもちろん、りんちゃんもこの手の技術は知ってるよね?

「うん」

 りんちゃんの配信見てたけど、あまりこういう技術は使ってなかったよね?

「見えちゃうと一気にヤラセ感が出ちゃうから、ほとんど使ってないよぉ」

 そう! 私はそこに着目したの!

「どういうことです?」

 現代ではあらゆるものがAi生成によって、現実なのか虚構なのかが曖昧になってます。

 これって、言ってしまえばオカルトを信じる人も居なくなっちゃったわけなんだよね。

 りんちゃんのチャンネル登録者も大多数がオカルト目的じゃなくて、美人スピリチュアリストという肩書で釣られて登録する人たちばかり。

馬鹿正直に心霊映像を見て楽しむ時代はとうに終わってるの。

となると、私たちのようなオカルト雑誌がいくらこれは本物っぽい~って謳っても、まともに信じる人は居ない。 ミステラ休刊を真っ向から立ち向かって防ぐことはできないわけ。

ならば、その現代の特性を逆手に取るしかないじゃない?

「逆手に?」

 信じないのなら、とことん信じられないとんでも設定を盛り込めばいいってこと。

 ――例えばセールスの勧誘って、強く押すほど人は不信感を抱くものでしょ? これはビジネスの鉄則だけど、早口で説明する事によって迷いの時間を与えず決断させるという手法は時に有効だけど、それが大事な商談や価格の高い品物の売買時にはそれはさらなる警戒心を生んでしまう。

 ではどうしたら良いかというと、寄り添って寄り添って、そうだねそうだね高いよねぇってとことん相手の心情へと共感して信頼を獲得し、最後にストーリーを伝えてインパクトを植え付ければ人は買わざるを得なくなる。

 もちろんこれは確率が上がるだけで、確実なものは何一つない。

 でもこれがもし、無料だったら? 元々のその商品の価格がゼロだったら、懸念材料がなくなったその人は即決するはず。

 これは今や日常に流通している広告を表示するだけで見る事が出来る無料動画視聴サイト、基本無料の課金ゲーム等、〝時間〟をかけて消費される商品たちと酷似してると思わない?

 少しの手間で手軽に欲しいものを得られるこの時代に、有償で挑むのがそもそも間違ってるのよ。 そう、今はそういう時代。

 最初に消費者に、優しいですよぉ~大変ですよね~わかるわかるぅ~って近づいて一気にドボン! これが今の時代なのよ!

「はあ。 で……それがどういうことなんです?」

 今回の企画の趣旨は、まさにそれ!

 今巷で流行ってる異世界モノを取り入れます! 異世界って創作界隈じゃ盛んでしょ?

 そんでもって現実では絶対に起こりえないことだし、見てる人も安心してこれはフィクションなんだと思って見るわけなのよ。

 そこが落とし穴!

 実際にはフィクションではなく現実のものとして襲い掛かってきたら、見てる人は度肝を抜かれるって寸法。

 要するに、最初の方はあり得ない映像の数々をAi生成技術も交えたライブ中継をして、あれ? これもしかしてマジモンのヤバヤバなんじゃね? と思わせるわけ。

 取材を敢行してだいぶひと段落してきたら私が意識不明の状態になってりんちゃんが消えて、しかもミステラも休刊になって話題性を出す。

 頃合いを見て関係者である森田くんが自費で出版した体の事件本を出すの。

 事件本が売れたあとはまた数ヶ月後に種明かしと題した本を出して、実はプロモでしたぁってオチにしてメガネ復活! りんちゃんの知名度も上がり、月間ミステラは復活!

 どうよ! メディアミックス展開も考えてるよ!

 ドキュメンタリー……映画やアニメ、様々な題材でこの事件……そして思惑は商業的に売り出されていく! そしてそのプロジェクトの参加者は、あなた達というわけ!

「それ普通に炎上するんじゃ……」

 ばか森田くん! 今の時代炎上してなんぼよ! やらせは炎上する! しかし、やらせをテーマとした作品は炎上しない! 意味わかる!?

「意味って……」

 手品を思い出してごらんよ! 手品師ってみんな「種も仕掛けもありません」って言って手品をするでしょ? でも実際に手品って種も仕掛けもあるじゃん? んでみんなそれを承知の上じゃん? 逆に種も仕掛けも分かってしまった状態で見る手品ほど興ざめはないよねぇ?

 それと同じ! 最初は普通に信じてなかったものが実は現実でした! でもこれはしっかり計画されたものなんだよってなったら、逆に賞賛をもらうでしょ? 同じことだよ!

 いい? ヤラセってのは最初から人を騙そうとするスタンスだからバレると批判される。

 でも最初から種明かしを考えたヤラセは、一つの芸術として評価されるの。 そして偽りだった情報は人々が認める真実へと昇華する。

 これは一種の社会実験なの。 今までのやり方が通用しないなら、アップデートしていってまだ誰もやったことのない新しい事をやっていかなくちゃ!

「確かに……発想は良いかもしれませんが、そう上手くいくでしょうか?」

 どうせ休刊になるんだよ! これぐらいは最後にやってみてもいいんじゃない?

 ね? 編集長! 編集長だって今の地位から落ちるのは嫌でしょ? ここはひとつ、ドカンと大きな賭けに出てみませんかぁ!?

「う、うむ……」

 というわけで、編集長にはアニメ系アンドロイドの役をやってもらうんでそのつもりで。

「は?」





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