第十一章 『あとがき』
ここまでが日記帳に記録された内容である。
ここまでの小説――小説と呼んでいいのかは分からないが――の内容はその現場に落ちていた日記帳に書かれていた内容だ。
〝事件〟を整理しよう。
僕、森田は配信の強制終了の翌日に屋敷のあった場所へ行った。
しかし実際に屋敷はそこにはなく、代わりに女鐘さんが倒れていた。
女鐘さんは現在も都内の某病院で意識不明のまま入院中である。
症状は軽い脱水と熱中症だったが、命に別状はなかった。
そして日記帳は倒れている女鐘さんの横に落ちていた。
無論、配信に映っていた研究員や、当日一緒に配信していたはずのChoo Tuber転生来花氏の姿は無かった。
あの時僕たちは確かに配信上で、屋敷に入った女鐘さんたちを見ていた。
彼女が異世界に行き、様々な怪異に遭遇するのを見た。
しかしこの時代、リアルタイムで魔法を見せる技術などありふれている。
正直僕も配信をしていた時はその状況を、女鐘さんが僕たちや出版社に内緒で準備した演出だと思っていた。
でも本当にそうだったのだろうか?
現に女鐘さんは意識がない状態。 そして出版元であるミステラは休刊してしまった。
先日女鐘さんの上司である元編集長とも会って来たが、このようなヤラセ企画の話は知らなかったらしい。
何か大きな思惑が動いている気がしてならない。
そして当時あれほど軌道に乗っていた転生来花氏がその配信業を投げ捨ててまで姿を消してしまったことにも違和感を覚えている。
何か大きな陰謀が関わっていると思えてしまうのは、僕の杞憂なのだろうか?
まとめよう。 事実はこうだ。
僕もその目で見た、存在していたはずの屋敷が消え、代わりにその屋敷の取材に行った女鐘さんはその場所で意識不明で倒れており現在も入院中。 おまけに同行した転生来花氏も消息不明。 そして女鐘さんの隣にはあの日記帳。
これは何か大きな事件に巻き込まれたとするのが正常な思考ではないか?
しかし、その思考を皆に強要することは難しい。
実際の女鐘さんを皆は知らないし、彼女が存在するという証明もこの小説上でしかできない。
プライバシー問題にも関わってくるため、これ以上の情報を僕の方で出すことはできない。
でもこれは事実なのだ。
今回、この本を出版しようとした理由は、この不可解な謎の事件を多くの人にも知ってもらいたいという願いからだ。
それは彼女、女鐘先輩の願いでもある。
この事件が皆の記憶の底に消えてしまうことは、恐らく彼女自身にも辛い事だろう。
もしも彼女の意識が戻ったら、誰よりも先に聞きたい。
あの屋敷で何が起きたのかと。
そして、起きた事を小説のように記録する日記帳の存在も不可解だ。
AI搭載の日記帳という事だが、世に出回っている商品にそのような機能をもった日記帳は存在しない。
日記帳の登場人物が言っていたように、本当に秘密裏に開発されていた日記帳なのだろうか?
そしてAI搭載ということは、やはり何か都合の悪い情報は改変された描写になっていたり削除されているということなのか?
もしそうなら、ライブ配信の映像や日記帳の内容も段々疑わしくなってきて、何が真実なのかもわからなくなってしってまっているともいえる。
この日記帳は〝偽りの真実〟を記した日記帳。
しかし事件の鍵を握るのも紛れもなくこの日記帳だ。
何か情報がアップデートされ次第、僕は何らかの形で進展を発表したいと思う。
それまではどうか、事件に巻き込まれた人々の無事を祈ってほしい。