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デザート(デセール)

「お待たせしました!」


 北方の小さな街に大層評判な料理店があった。その味も去ることながら、そこで働く店主の奥さんが見たことの無い程の美人なのだとか。


「お!テレシアちゃん!今日も美味しそうだな!」


 常連の酔っぱらい客が笑顔で白く美しい女性に話し掛ける。


「そうでしょう!うちの主人の作る料理は世界一美味しいんだから!」


 笑顔でそう言うと忙しそうに厨房へ戻っていった。


「いやーしかし、どえらく綺麗なことで。あそこまでの美人は国中探しても居ないんじゃないか?」


「何でも噂じゃ何処かの姫様なんじゃ無いかって話だぜ?」


 他にも白く美しい女性を見ながらあーでもないこーでもないと議論が旺盛だ。


 しかし、料理を食べ始めるとさっきまでのデレッとした顔がまた違うだらしなさに変わる。


「何時食ってもここの料理は最高だな。値段も高くねーし俺達にとってはここが天国だ」


 そう言いながら客達は黙々と料理を食べる。


 その頃厨房では──


「あ!ペルおじさん!」


 野菜を持って中年の男性が裏口から入ってくる。一見無愛想に見えるが娘でも見るような顔で女性を見ていた。


「あぁ、これが明日の分だよ」


 少し嗄れた声だが優しさに満ちている。


「ありがとう!今日もとっても美味しそう!サランは今日も学校?」


「あぁ、子供達に教えるのが好きだからねサランは」


「ペルおじさんだってそうじゃない!隣の家のラクス君がペルおじさんに美味しい野菜の作り方を教わったんだー!って自慢してたよ?似た者夫婦何だから!」


 まるで家族のように和やかな会話だった。お互いがお互いを思い遣り慈しんでいた。


「テレシア、そろそろ出来上がるよ」


 厨房からは、これまたあまり愛想の良くない主人が現れて料理が出来たと告げてくる。


「はーい!カナル、今日もペルおじさんの野菜は美味しそうよ!」


「あ、ペルおじさん来てたんだ。後で俺が取りに行くのに、ありがとね」


 お互いに笑い合い幸せがこの場を包む。


「そう言うなカナル、お嬢様……じゃなかった。テレシアの顔が見たかったんだ」


 ペルおじさんはそう言うとテレシアの頭を撫でる。


「今日も元気そうで私は嬉しいよ。サランだってそうさ」


 何処か昔を思い出すような目でテレシアを見詰める。


「もう!私だって子供じゃないんだよ?」


 少し頬を膨らましながら、それでも何処か嬉しそうに撫でられている。


「ほら、料理が冷めるよお客さんに持っていって貰える?テレシア」


「いっけない!急いで持っていくね!」


 バタバタと慌ただしく店内に戻っていくテレシアの後ろ姿を二人は笑顔で見詰めているのだった。



「お疲れ様、テレシア」


「貴方もお疲れ様、カナル」


 二人で人の居なくなった店内で静かにお酒を楽しむ。


「んふふ」


「何?」


 テレシアがこちらを見詰めながら笑いかけて来たので何かと尋ねた。


「んー…何だか夢みたいで、カナルやペルおじさん、サランも居て二人でお店を開いて、この街でも評判のお店になっちゃって」


 にへらと笑うテレシアに過去を思うカナル。屋敷に居た頃はこんな風に気の抜けた笑い方は絶対しなかった。


 この街に来て色々あったけれど、この笑顔で全てが報われた気がする。


「夢じゃないよ、ほらここにいる」


 そっとテレシアの手を取って自分の頬に当てる。すべすべしていて綺麗な手が頬を撫でる。


「本当だね。夢じゃないんだよね」


 街に来て最初はぎこちなく、張り詰めていたが、ある日フォルタ家の領主が国王暗殺未遂の罪で裁かれ、フォルタの街に新しい領主が住み始めたと風の噂で流れてきてから、本当に時が動き出した様だった。


 あんな家族でもテレシアは哀しんだが、カナルやサランの励ましもあり、徐々に元気を取り戻していった。


「さて、今日は何が食べたい?」


 すっと立ち上がって厨房に向かおうとするカナルにテレシアは


「そうね……トマト、トマトのスープが食べたいわ」


 トマトのスープは二人の思い出の味。とても綺麗で残酷な思い出も今では忘れられそうな程幸せで一杯だった。


「よし、じゃあ君のために作るよ」



「君の為の晩餐を」

 

短めでしたが読んでいただき有り難う御座いました!へっぽこ先生の次回作にご期待ください(未定)

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