断罪
断罪の間にはすでに記録者の姿があった。
他の処刑人の手によって戒められたのだろう。
処刑台の上に縛り付けられた記録者はそれでも、普段と同じ落ち着いた様子でそこにいた。
処刑人の手には大鎌がある。罪人を殺すためのものだ。
一度目の鐘が鳴る。それと同時に断頭台へと足を進める。
ほぼ条件反射ともいえる自身の行動に、処刑人は戸惑いを隠せなかった。
二度目の鐘が鳴る。処刑人は深く深呼吸をして大鎌を両手で支える。
そうしなければ落としてしまいそうなほど、手に馴染んだ大鎌は重く感じられた。
三度目の鐘が鳴る。それに合わせて刃を軽く記録者の首に添える。
これからここを切り落とすぞという合図だ。
次は四度目の鐘が鳴るだろう。
その次は五度目の鐘……心を許した相手を殺すのだと思うと、処刑人の目には勝手に涙が浮かび、無意識に呼吸が荒くなった。
失いたくないと誰かがどこかで叫んでいるような気がした。
四度目の鐘が鳴る。罪人が今生に別れを告げるための時間。
記録者のその口から何が紡がれるのか、処刑人は気が気ではなかった。
後悔の念が溢れるのか、それとも助けてくれと罪人のように命乞いするのか。あるいは感情のない神格者であるから、遺す言葉もないのだろうか。
いや、この記録者ならば何か言う筈だ。
自分の共鳴者は、普通の神格者ではないのだから。
記録者の口が開く。
頼むから別れを告げないでくれ。そう願う処刑人は最早神格者ではなかった。
そこには初めて、大切な存在を失う恐れを抱いた一人の人間がいた。
「エクゼクトル…そこにいますよね」
鈴を転がしたような声が聞こえた。振り上げた大鎌を振り下ろす準備はいつでも出来ている。
けれどそれを振り下ろすまでの時間は永遠に感じられた。
五度目の鐘が鳴る前に、大鎌を振り下ろさなければならない。
記録者の白く細い首目掛けて、振り下ろさなければ。
けれどもし振り下ろしたら自分は、今度こそ。
「エクゼクトル、僕と一緒に」
その言葉の続きを聞いた瞬間、エクゼクトルは刃を振り下ろした。
五度目の鐘が鳴る。大きな音を最後に、辺りは静寂で満たされた。