処刑せよ
3日間はあっという間に過ぎていった。
その間処刑人は泣いては記録者に胸の内を吐露し、言葉をかけてもらうことを繰り返していた。
それは人間でいうカウンセリングに似たものだったが、それを知るものはディユハルディンの中にはいない。
3日間の間で処刑人が自覚した心はある程度落ち着いていた。
今もまだ断罪に対する抵抗はあるが、それが使命だと言い聞かせて割り切るようにしている。しばらくはもつだろうが、すぐに限界がくるだろう。
使えなくなった神格者の処遇は決まっている。
罪人と同じように断罪される、使命を放棄したものとして。
それは非人道的なものだったが、当然の処分と言えた。
神格者は神の道具なのだから、人道的なことをする必要はない。
『エクゼクトル、貴方の気持ちは秘密にしておきましょう。これからは僕が支えますが、僕らは神格者の中では異質とみられます。処分の対象になる可能性が高いです。だから、解決策が見つかるまで……辛いでしょうが、耐えてください』
昨夜記録者に言われたことを思い出しながら、処刑人はディユハルディンの中を歩いてた。
自分は神格者としては異質らしい。それは最近になってようやく自覚したことである。
自壊した神格者を見て、自分は羨ましいと思っていた。
それは心が限界に近づいた証拠だと、記録者は言っていた。限界を迎えると、自壊してしまうのが普通だと言う。
自壊衝動を抑えつつ、使命を果たし、解決策を見つける。これが当分の目標となる。
解決策というのが具体的になんなのか、処刑人には分からなかったが、これからは一人で悩む必要はない。
自分には共鳴者がいる。
理解してくれる記録者がいる。
銀髪と閉じた瞳を思い出して、処刑人は微かにほほ笑んだ。
その数日後のことである。
昨日から共鳴者の姿が見えないことを不審に思っていた処刑人の前に、いつもの神託者が姿を現した。
「エクゼクトル、お時間よろしいですか」
「何か御用でしょうか、オラクリア」
いつものように罪人のリストが渡されるのだろうと予想しながら、処刑人は神託者の言葉を待った。
今週もまた毎日人を殺すのか、と気が重くなりそうなのを堪える。
神託者は抱えていた書類の一枚を手に取ると、それを処刑人に差し出した。
今週は一人か。しかし表紙が見当たらない。
そう思った処刑人の葡萄色の瞳に、共鳴者の似顔絵が映し出される。
「貴方の共鳴者が処分対象となりました。明朝処刑してください」
何を言われているのか、凍り付いた思考回路ではなにも受け止められなかった。
共鳴者、処刑。
辛うじてそれだけ理解すると、足元が崩れたような気がした。両足に力を込めて倒れるのを我慢する。
聞きたいことがあるのに喉が凍てついてかすれた呼吸しか出てこない。
「エクゼクトル」
神託者に呼ばれて顔を上げる。
この時どんな酷い顔をしていたかなんて、処刑人には分からなかった。
ただ神託者はうっすらと微笑み、その顔を見ていた。
「貴方は神格者です。相応の対応をお願いします」
その言葉の意味は単純明快だ。エクゼクトルは処刑人として、罪人である共鳴者の首を落とせ。
ただ、それだけの事だ。