奪われた光
「神格者……」
赤子を取り上げた女が言った。
男の特徴も女の特徴も持たない赤子を見て、恐れ多いものに触れてしまったとばかりに体を震わせる。
赤子は何もわからないまま、甲高い泣き声をあげて無事にこの世に生まれたことを証明する。
赤子を生んだ女性は額に脂汗を滲ませながら、女の声をぼんやりと聞いていた。神格者、人と人の間に稀に生まれる人ならざる神の道具。
お腹が膨らみ始めた頃にはどんな名前をつけようか、どんな愛情を与えようか、幸福に包まれながら考えていたのに。
女性の瞳から涙が溢れた。愛する我が子が自分の手で育てられないどころか、明日にはこの手から奪われて二度と会えない運命だなんて、信じたくはなかった。
それは女性の夫も同じ気持ちで、自分たちの愛情を受けて健やかに育つと思っていた我が子が神の道具なんて信じられなかった。
けれど生まれてきたのは愛する我が子であっても、人間ではない。重い宿命を背負った、神の代弁者。
コンコン、と部屋の扉が叩かれた。
「夜分遅くに失礼します」
一度に押し寄せてきた心労に、ものの数秒で憔悴してしまった夫が応対したのは、背中に白い翼をもった男たちだった。どの男も似たような顔立ちで、つややかな金髪と青い瞳を持っている。髪型が違わなければ見分けがつかないほどだった。
恐ろしいと思うほど整った顔立ちは人形のようだ。その顔に浮かぶ微笑みも、絵画のようにどこか人間離れしていて気味が悪い。そう思うのは、これからたった一人の我が子を奪われると知っていたからだろうか。
「ま、待ってください。妻はまだ、我が子の顔すら見てないんです」
せめて、別れの時間を。1年に満たない時間でも、たっぷりの愛情を注いでいた。これから精いっぱい愛そうと決めていた。
それなのに。
「お気持ちはお察ししますが、規則ですから」
翼のはえた男たちが家の中に入っていく。夫がそれを止める術はなく、男たちは目当ての赤子を女から受け取ると大切に布にくるんで踵を返した。
赤子の泣き声が響き渡る。自分を産み落とし、守るはずの母親から離される恐怖を感じているのか、悲痛な泣き声が家中に響いた。
赤子を産み落とした女性は、引きつった呼吸の合間に叫んだ。
「――ッ!!」
もう二度と会えない。最愛の我が子の姿を見ることさえ叶わず、女性は去り行く男たちの白い翼を見て泣き叫んだ。
別れの言葉の代わりに口にしたのは、愛する我が子に与えるはずの“光”を意味する名前だった。