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会社の二階堂さん  作者: 尾仲庵次
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思い出せない記憶を思い出そうとするのは良いことなのか否か

 うちの会社の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をしだすと何かをコツコツと叩く癖だ。

 本人も無意識でやっているらしく、よく上司に注意されている。


 彼女が所属している部署は『相談室』

 社員のメンタルヘルスの状態を良いものに維持して作業効率を上げようと考えて会社が少し前に設置した部署で、案外、多くの社員がこの相談室を利用している。

 メンタルクリニックに行っても精神科医は話を聞いてくれないので、精神的な病気を抱えながら仕事をしている人がここに来ることも少なくない。


 あたしの名前は浦野夕凪(うらのゆうな)


 実は子供の頃、二階堂さんの自宅の隣に住んでいたことがある。

 あれから20年以上経って、あたしが家具メーカーのこの会社に就職して、最初に通された場所がこの相談室で……そこに彼女がいたときは本当にビックリした。

 隣に住んでいた『お姉ちゃん』が今度は会社の先輩として目の前にいる。

 だけど……彼女は今のところあたしを思い出せないでいる。


 思い出せない……

 忘れている……

 そんなところもなんだかあたしの記憶の中の二階堂さんらしい。


 なんか面白いのであたしも気づかないふりをしてそのままにしている。

 はたして、いつ気づくかな?



 ――――――――――



 相談室が設置されてからもう随分経つ。

 時間の経過は早いもので、相談室に異動になった頃は20代だったのに、気が付けばあたしの年齢も40前半で、すでに曲がり角はすぎて人生も後半戦が始まったばかりというところだ。


 相談室はあたしと上司の那珂心音(なかここね)さんとでやってきたのだけど、さすがにそろそろ人員を補充する必要があったのでこの度の春に新人が配属されることとなったのである。


 それが浦野夕凪(うらのゆうな)さん。


 彼女……。

 どこかで会ったような気がする。

 それにどこかで聞いたような名前。


 ただここのところ記憶力が悪くなっていてどうしても思い出せない。

 思い出せないことは、思い出せるようにしばらく考えるのだけど、考え事に夢中になると何かを叩き出すあの悪癖が出てしまうのも嫌なので、ある程度考えて思い出せない場合はそれ以上は考えないことにしている。


 まあ、あたしは若い頃からあまりいろいろ考えないできたから、これでいいのだ。


『今の若い子は嫌かもしれないけど、今日、ささやかな歓迎会でもしようと思うんだけどどう?』


 飲み会は強制参加ではないのだけど、あたしは会社の飲み会が好き。

 あたしは浦野さんに声をかけた。


 もしかしたら彼女は来ないかもしれない。

 最近の若い子は会社の飲み会よりもプライベートを大事にする子が多い。

 それは大いに結構なことだ。

 もし来たくないのであればランチでもおごってあげようかと思う。

 いや、ちょっと待てよ。ランチも嫌かもしれないな。


 もしそうだったらどうしようか……。


 ま。

 そうなったらその時だ。


 それにしても……


 この丸顔でパッチリした二重の瞳。

 色白でどこからどうみても美人な彼女。

 やっぱりどこかで会ったことがある。

 どこでかは思い出せないけど。


『大丈夫です! 楽しみにしています』

 浦野さんは笑顔で答えてくれた。

 鈴のようなかわいい声。

 ああ……若いっていいなあ。

 ま、あたしは若いころから若干不愛想で、こんなにかわいくはなかったけど。


 それにこの声。

 やっぱりどこかで聞いてるんだよなあ……。

 まあ、思い出せないことは無理に考えるのはよそう。なんだか身体に悪いような気がする。

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