お盆
お盆の3日間だけは山の中腹にある小さな集落も賑わいを取り戻す。
帰省してきた者たちが集落の中で一際大きな家、本家の屋敷に集まる。
家族と逸れて泣きながら集落の中を彷徨う幼い童を、屋敷の玄関前に水を撒いていた老婆が手招いた。
座敷と座敷を隔ててる襖は全て外されており、開放された座敷の中に幾つもの座卓テーブルが置かれ十数枚の座布団がテーブルを囲む。
中央のテーブルの上に置かれたラジヲから流れる高校野球の実況放送や音楽に耳を傾け、互いの近況を報告し合う。
皆和気あいあいとテーブルの上に所狭しと並べられている料理に舌鼓を打ちながらビールやジュースを飲み、裏の畑で採れ井戸水で冷やされていたトマトやスイカにかぶりつく。
お盆の最終日、集落に集まっていた者たちが三々五々帰って行く。
お盆が終わった翌日、山の麓のお寺の住職に頼まれた町の便利屋が集落を訪れ、屋敷の座敷と座敷を隔てる襖を元通りにはめ直し座卓テーブルや座布団を1か所に集める。
テーブルの上の料理はゴミ袋に放り込まれて、ビールやジュースの空瓶と共に便利屋の軽トラックの荷台に積まれた。
まだ瑞々しいままのスイカやトマトは持ち帰る為にビニール袋に入れられる。
便利屋は屋敷の中をサッと掃除したあと、屋敷の玄関の戸に鍵を掛けてから屋敷に向けて手を合わせお経を唱えラジヲとビニール袋を軽トラックの助手席に置いて、十数年前に廃集落となり誰も訪れる者がいない集落を後にするのだった。