わたしと弟
1
私の名前はあけみ。
小学5年生。
友達もたくさんいて毎日楽しい。
学校のお友達はみんな私に優しくしてくれて、恵まれていると思うの。
2
でも、1つだけ私にも悩みがあるの。
それは私の弟、さとるのこと。
別にさとるが嫌いなんじゃない。
さとるは生まれつき、障がい者なの。
知的障がいっていう。
今年で8歳なんだけど、知能としては3歳ぐらいかな?
支援学級に通っている。
3
だからお母さんに言われて、いつもさとるの面倒は私がよく見ている。
小学校に連れていくのもわたし。
別にいいんだけど、さとるの行動は長年一緒に育った私でも予想がつかないの。
急に大声で「うんち!」とか「おしりだ!」とか叫んだりする。
だから、小学校でもクスクス笑われたりする。
お姉ちゃんの私はいつも変な目で見られる。
4
なんでさとるは他の弟と変わっているんだろう。
いつもそう思う。
神様がいるなら、さとるを私と同じように普通の子供に治してほしい。
そしたらもっと私と笑える気がするの。
ゲームだって、マンガだって一緒に楽しめる気がする。
5
ある日、学校の帰り道。
さとるがいつものように、
「あっ、おしり!」
と知らない女の人を見て指差して叫んでいた。
さとるのことを知らない女の人は嫌そうな顔して、私とさとるを睨んでいた。
苦しかった……。
知らないから仕方ないとは思うけど、なんで私まで睨むの?
6
帰ってからお母さんに怒った。
「なんでさとるが弟なの!?」
お母さんは顔を真っ赤にして怒った。
「あけみ! なんてこというの?」
「だって、さとるのせいで知らない人に睨まれたもん!」
気がついたら私は泣いていた。
「それぐらい、いいじゃない! さとるのこと知らないんでしょ?」
「だけど……」
「あけみはお姉ちゃんなんだからさとるを守ってあげて」
お母さんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。
安心したけど、辛かった。
7
晩御飯のとき、さとるがご飯中なのにうんちを漏らした。
お母さんがうんちを片付ける。
毎日見る光景だけど、もう私は頭がカンカンだった。
「もうこんな家イヤ!」
私は泣きながら家を飛び出た。
8
家を出て、泣きながら走り続けた。
もう空は暗くなっていて、道路に人は少ない。
いつも遊んでいる公園についた。
『ひこうきこうえん』
ブランコに乗って、遊んでいると小さい頃を思い出していた。
「よく小さなさとるをブランコで押してたっけなぁ」
さとるのせいで家から逃げたのに、こんなときもさとるのことを考えているんだろ?
9
「ねーね!」
さとるの声だ。
公園に一人で来たみたい。
ニコニコ笑っている。
人の気もしらないで、この子は。
「さとる、おいで!」
「うん、ねーね」
私は大きくなったさとるをブランコにのせてあげて、おしてあげた。
10
それからしばらく遊んだあと、私とさとるは公園から出ようとした。
「ねーね、うんち」
さとるは犬のうんちを見つけて、喜んでいた。
嬉しそう、こんなのが何が楽しいのかしら。
でも笑っているさとるは可愛い。
その時だった。
キーッ! と大きな音が聞こえた。
11
トラックがさとるを轢こうとしていた。
私は咄嗟に身体が動いて、さとるを突き飛ばした。
そのあとは覚えてない。
12
目が覚めると病院の中。
何かがおかしかった。
私の脚に感覚がなくなっていたの。
お医者さんが私に言った。
「もうあけみちゃんは歩けないんだ」
私はその日から車いすの生活になった。
13
それからは学校にはお母さんが連れて行ってくれるようになった。
車いすになれない私を押してくれるためだよ。
さとるはいつものようにニコニコ笑いながら、一緒に歩いている。
なにもわかってないんだろうな、さとるは……。
14
学校につくとお友達たちがみんな私に、
「かわいそう、あけみちゃん」
と言って集まってきた。
最初は嬉しかった。
心配してくれてたから。
15
でも、帰り道に小さいな子供に、
「ねぇ、ママ。あのおねーちゃん車に乗ってるよ。僕も欲しい」
とねだっていたの。
人の気も知らないで。
なによ。
私だって好きで障がい者になったんじゃないのに!
16
「ねーね、こうえん」
さとるが私に声をかけた。
何も知らない顔をしてニコニコ笑っている。
怒っていた自分がバカみたい。
「あのね、ねーねはもうさとるを押せないの」
私がそう言うとさとるは車いすを押してくれた。
「ねーね、こうえん!」
そう言うと全速力で『ひこうきこうえん』に連れていかれたの。
すっごいスピードでびっくりしたわ。
17
公園につくと、見たことないブランコがあった。
ブランコの前には『だれでもあそべるよ』と書いてあった。
なんだろう? あのブランコ。
変わったかたちしているわ。
「ねーね、ブランコ!」
さとるは私をブランコに車いすを近づける。
「ちょ、ちょっとさとる!」
18
ブランコは車いすを収納できるボックスみたいな形をしていた。
このまま乗れるみたい。
私は不思議に思いながら車いすをブランコに乗った。
「ねーね、ブランコ」
「じゃあさとる、おして」
「あん!」
さとるはニコニコ笑って私を押してくれた。
私も自然と笑っていた。
なんか楽しい。
19
「ねーね、ブランコ!」
「うん、ブランコ楽しいね」
「ブランコ! ブランコ!」
小さなときは私がさとるをおしてたのに、今では私のほうがおされている。
そっか……気がつかなかっただけで、さとるも大きくなっていたんだね。
「ごめんね、お姉ちゃんが車いすになったから、もうおせないね」
気がつくと私は涙を流していた。
「ねーね、泣かん」
そう言って、さとるは自分のハンカチを手渡してくれた。
「ありがとう、あんたもこんな気遣いできるようになったんだね」
「ねーね、すき」
さとるはニコニコ笑っていた。
「お姉ちゃんもさとるが大好きだよ」
20
私はさとると同じ障がい者になった。
ただ違うのは、私は身体。さとるは頭。
どこかが人よりちょっと違うだけ。
さとるの方が障がい者の先輩。
私の方が後輩なんだよね。
変な目で見られようと、私は負けない。
だってさとるがついているもの!