表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

243/248

243、幕府新体制

永禄七年(1564年) 二月上旬 山城(やましろの)(くに) 京 御所 伊勢虎福丸


 部屋に入ると足利(あしかが)()馬頭(まのかみ)義益(よします)が入ってきた。幕臣の川勝(かわかつ)(もん)(どの)(とも)(うじ)も一緒だ。


「虎福丸、幕府の(ため)骨折(ほねお)(あい)()まぬな。(みん)の商人と話したと聞いたが?」


「はっ、明の商人には牧場から馬を連れてくるように頼んであります。それと朝鮮では茶器を買おうと思っております」


「むむむ……虎福丸、いつの間に明の商人を取り込んだのだ」


 義益(よします)が目を見開いた。どうだ、驚いたか。騎馬は機動部隊だ。中国の大柄な馬を連れてきている。これで敵軍を圧倒する。伊勢軍の秘密兵器だな。敦賀の商人とは昵懇(じっこん)間柄(あいだがら)だ。豊後(ぶんご)豊前(ぶぜん)の商人たちとも(よしみ)(つう)じている。


「三年前からです。足利の臣である伊勢家を(ねた)む者は多うございます。かつて足利を共に支えた仲間たちにそう思われるのは心苦しい。伊勢家がもっと強くならねば、と(みん)(よしみ)(つう)じました」


「ふむふむ。虎福丸よ、そなたは傑物(けつぶつ)よ。幕府は摂関家(せっかんけ)の上に立つ。この天下、いかにして治めようと思っておる。これからも頼りにしよう」


()(がた)き幸せ。この虎福丸、粉骨砕身(ふんこつさいしん)幕府(ばくふ)に尽くしまする」


 俺が言うと、義益が笑みを浮かべる。幕府の運営は安定している。今までの将軍が問題児過ぎたのだろう。物足りなく感じてしまう。


「三好では駄目だ。虎福丸、そのほうを頼む。この通りじゃ。足利を支えてくれ」


 義益が頭を下げた。幕府は八奉行の制度を立ち上げ、運営も軌道(きどう)に乗っている。六角・畠山も幕府には遠慮(えんりょ)がある。


 かつての幕府とは違うのだ。


「大樹、大船に乗ったつもりでいて下され」


 俺は義益(よします)(なぐさ)めるように声をかける。畿内は安定した。伊勢家は()み、その(とみ)を足利に分け与えつつある。


 今のところは俺の思い通りに事が運んでいる。何の問題もない。







永禄七年(1564年) 二月上旬 山城(やましろの)(くに) 京 伊勢貞孝の屋敷 伊勢虎福丸


 御所から屋敷に帰ると物凄(ものすご)い美人がそこにいた。


「おお、虎福丸や。(ばあ)は首を長くして待っておりましたぞ」


 美人が微笑む。若狭(わかさ)御前(ごぜん)若狭(わかさ)殿(どの)とも呼ばれるお婆様だ。と言っても三十をいくつか過ぎたばかり。祖母と言うには若すぎる。若狭武田氏の娘で現当主の従兄弟(いとこ)に当たる。祖父には妾が何人もいるがやはりお婆様は別格の扱いだ。お婆様が視線で誘導(ゆうどう)する。来いということだろう。俺は窪庄九郎(くぼしょうくろう)を連れて、お婆様の屋敷の方に行く。


 お婆様は女中たちに囲まれて生活している。若狭武田の娘らしく、この屋敷を仕切っているのはお婆様だ。


「大樹はご壮健でありましたか」


「はっ、ご壮健にて、剣の修行に(はげ)まれておりまする。武においては比類(ひるい)なき御方(おかた)かと」


 俺が答えると(ばあ)(さま)は嬉しそうに(うなず)く。


「畿内は虎福丸殿の兵で戦の気運(きうん)なし。これで伊勢家の女が大樹に嫁げば御家(おいえ)にとってこれ程の(さいわ)いはありません」


 婆様が言うと俺たちは(うなず)く。縁組の話は進んでいる。叔母の一人を嫁がせると言うのだ。若狭武田氏の血を引いているので血統、家格において劣ることはない。


 義益も乗り気だ。もう義益には子供が何人かいるが、足利家と伊勢家が結ばれることで畿内はもっと安定するだろう。


大樹(たいじゅ)も伊勢家を求めています。縁談はまとまりましょう。応仁の大乱から八十年……これで天下も」


「まとまりましょうね。虎福丸、あなたのような孫を持てて(ばあ)は嬉しいですよ」


 婆様がニッコリと笑う。そうだ。天下大乱は収束しつつある。あとは播磨(はりま)の赤松が上洛すれば良い。それで西の守りは固まるのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ