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210/248

210、黒田城降伏

永禄六年 (1563年) 一月下旬 丹波(たんば)(のくに) 園部 伊勢虎福丸


「ふむ。良きことなり」


 (もみ)井家(いけ)からの貢物(みつぎもの)が届いた。銭もある。(もみ)()越中(えっちゅうの)(かみ)八田彦(はったひこ)十郎光員(じゅうろうみつかず)西尾(にしお)小藤(ことう)()弓削式部丞(ゆげしきぶのじょう)らは俺に心を寄せているようだ。(もみ)()と言えば丹波の青鬼という猛将だ。


 黒田城の森越前らは(こも)っているが時間の問題だ。(もみ)()が裏切れば、波多野は窮地(きゅうち)(おちい)る。横山城の者たちも降るかもしれない。


 船阪(ふねさか)(じょう)の者たちはこちらに寝返った。もう終わりだ。これで篠山街道は(ふさ)いだ。篠山(ささやま)盆地(ぼんち)(もみ)()も裏切りつつある。


「若、三好より使いが」


 寺本半(てらもとはん)(すけ)がやってきた。またか。まあいい。会ってやろう。


「虎福丸殿、久しいの」


 三好(みよし)日向(ひゅうが)(のかみ)長逸(ながゆき)、三好家の大物だ。そうだな。二人で会うのは久しぶりだ。


「波多野右衛門が騒いでおるのだ。公家衆も迷惑がっている。もう勝負は決した。虎福丸殿、積み荷を波多野領に入れてやって欲しい。これはな、松永弾正も岩成(いわなり)主税(ちからの)(すけ)も三好家中は皆申しておる」


「ではそれがしからも波多野に言いたいことがありまする。波多野は国人衆の人質を取って城下町に住まわせておりまする。人質を国人衆に返してください」


「む」


 日向守が渋い顔になった。この要求は呑んでもらうぞ。国人衆は丸ごと伊勢家に従ってもらう。


「……分かり申した。右衛門にはそのように伝えましょう。ところで虎福丸殿」


 日向守が声を(ひそ)める。


「義輝様は京に帰りたがっている。このこと、虎福丸殿ならよくよくご承知のことと思うが」


 ああ、よく知っているさ。義輝は俺に味方するように迫ってきた。俺は波多野と三好に挟まれ、身動きが取れないと返事しておいた。毛利・大友・尼子の間で和議(わぎ)が成立する可能性が強まった。


 浦上宗景(うらがみむねかげ)や赤松もこれに加わるという。三好の旗色が悪い。また京から逃げ出すかもしれない。


 その時は足利につくか、三好につくか。どうするかな。









永禄六年 (1563年) 一月下旬 丹波(たんば)(のくに) 園部 伊勢虎福丸


 白髪頭(しらがあたま)の男が頭を下げた。(もり)越前(えちぜん)(のかみ)、黒田城主がついに軍門に降った。


「人質を取り返してもらい、ありがとうございまする」


 (もり)越前(えちぜん)(のかみ)が晴れやかな顔をしている。重荷から解放されたようだ。


「真に虎福丸様は仁政(じんせい)を行っている。この(もり)越前(えちぜん)(のかみ)、早く寄騎(よりき)したいと思っておりました。倅も娘たちも虎福丸様には命を助けてもらい、何とお礼を言ってよいかと言っておりまする」


「そうか。礼をするに及ばずと伝えよ。伊勢家中として仲良くやっていけば良い」


 (もり)越前(えちぜん)(のかみ)が平伏する。目には涙を浮かべている。俺も黒田城を攻め滅ぼしたくはなかった。降伏してくれて良かったわ。これで街道の確保は完璧(かんぺき)だ。物流は伊勢家がコントロールする。波多野の思う通りにはさせんよ。


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