208、上木崎城(かみきさきじょう)攻略
永禄六年 (1563年) 一月下旬 園部 伊勢虎福丸
本陣がゆっくりと出陣する。上木崎城攻めが決まった。波多野に動きはない。
先陣は窪庄九郎助忠の六千、二陣が寺本半助頼長の五千、三陣が河村権之助七千、四陣は蜷川掃部助の一万、俺はその次で一万五千を率いる。徴兵で兵数は増えている。兵数は四万に到達しそうだ。最後尾は並河掃部入道が五千の兵で担当する。
「御注進! 上木崎城から早馬が参りました!」
本陣に使番が駆け込んでくる。他愛もない。もう降伏らしい。本陣の空気が緩む。波多野右衛門が動くのではないかとの観測が強い。だが波多野右衛門らは動かない。
「上木崎城に入る。また兵を集めよ」
次は黒田城だ。どうもこっちが本命だな。籠城しているのは森越前守高之という武将で徹底抗戦を主張している頑固者だ。
本陣を山の麓に置こうとすると慌ただしく、数人の騎馬武者が俺の所にやってきた。
「城の中から弓矢が」
「何! 降伏したのではなかったのか」
俺は家臣たちをジッと見る。家臣たちが顔を見合わせた。ふむ。森越前守め、あくまで戦う気か。いいだろう。受けて立つぞ。
永禄六年 (1563年) 一月下旬 園部 伊勢虎福丸
上木崎城が落ちた。窪庄九郎が一番乗りを果たした。残った兵は抜け道から黒田城の方に逃げたようだ。
「どうも右衛門辺りから城に籠るように言われたようですな」
弥七郎がやってきて言った。そうだろうな。そうでなければ、これ程の大軍を前に戦おうとは思わない。援軍もないようだし。
「黒田城なのですが、曲輪も多くて攻め辛いです。どうも改築されているようでして、我らを待ち構えていたようです」
今度は作兵衛が困ったように言う。そうだ。相手は城を改築し、迷路のようになっている。このまま攻めれば犠牲が増えるだけだ。
「下手に攻めれば、一年は平気でかかるな……。千早城のように攻め続ければ我らの負けよ。波多野右衛門め、やるではないか」
さすがは明智光秀を苦戦させた名将・波多野秀治だ。大軍を黒田城に引きつける戦略なのだろう。
その手には乗らん。
「また園部の屋敷に帰ろう。黒田城は放っておく」
「しかし黒田城を放っておけば、篠山街道を塞ぐことはできません」
作兵衛が焦ったように言う。そうだ。波多野を滅ぼすための生命線が篠山街道だ。ここを塞げば物資の搬入ができなくなる。
そのため波多野も本気になって黒田城の防衛に来たのだろう。
「良いのだ。ここは無理をするな。じっと待つ。弥七郎よ。八上城に森越前守の人質がいるはずだ」
「はい。二十人程おりまする」
多いな。森越前が必死に抵抗するわけだ。
「助けることはできるか」
「難しいですが、若の仰せとあらば」
「やれ」
「はっ」
森越前は情のある男なのだろう。そこが狙いだ。正攻法では駄目だ。城を落とすには人質を取り返すくらいのことはしないとな。こういう男は銭では動かない。人質を取り返してやれば。心も動くだろう。そこが付け入る隙になる。




