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203/248

203、義の武将

永禄六年 (1563年) 一月上旬 丹波(たんば)(のくに) ()上城(がみじょう) 城下町 波多野秀治の屋敷 波多野(はたの)(ひで)(はる)


「大村城が落ちましてございまする」


 大膳(だいぜん)が言うと皆がどよめいた。福住四郎(ふくずみしろう)()衛門(えもん)(よし)(つぐ)伏屋(ふせや)()衛門(えもん)(うじ)(あき)広瀬(ひろせ)豊後師(ぶんごもろ)(くに)安木(やすぎ)(へい)()衛門家(えもんいえ)(よし)太宰善之助義矩(だざいぜんのすけよしのり)西朱雀(にししゅじゃく)治郎(じろう)()衛門(えもん)鷲尾(わしお)(へい)太郎(たろう)、いずれも一騎当千の(つわもの)だが、顔には(おび)えの色すらある。


田中(たなか)河内(かわち)(のかみ)如何相(いかがあい)なった?」


「一族郎党降伏し、そのまま大村城主に任じられた(よし)


 皆から()め息が()れる。まただ。城が落ちた。これでは園部は虎福丸の物になる。


「虎福丸は死んだという雑説(ぞうせつ)が流れておりまする」


 (なぐさ)めるように大膳(たいぜん)が言う。そうだ。そういう雑説(ぞうせつ)を民が口にしている。虎福丸の所に京の名医である曲直瀬道三が呼ばれたというのだ。流行(はや)り病だという。もし虎福丸が頓死(とんし)すれば僥倖(ぎょうこう)だ。


(もみ)()荻野(おぎの)も赤井も虎福丸に(なび)きつつある。これではまずい。六角は動かんのか」


 六角とは秘かに盟約を結んだ。虎福丸を討つ。そのために波多野と六角で手を組むと。六角は観音寺城に兵を集めて、動きがない。遅い。文句も言いたくなる。


「そろそろ動いてくれないと困りまする」


 豊後(ぶんご)(のかみ)が文句を言う。当てにならんな。


「まあ良い。虎福丸の(やまい)(おも)ければ、この右衛門が大村城まで攻めるということもできよう。ただな、(つつみ)三郎(さぶろう)兵衛(びょうえ)(にな)(がわ)丹後(たんご)(のかみ)も戦上手。そうそう勝てるとは思えぬ。ここは一つ策がある」


 皆が俺を見る。気になるようだ。


「父上の首を差し出す。それで皆助かる。俺も皆も伊勢家で立身出世する。どうだ、悪くない話であろう」


「何と!」

「若、お(たわむ)れを!」


 皆が俺を責める。うるさいな。伊勢家に、虎福丸殿に利があるとなぜ分からぬ?


「戯れではないわ。民百姓から憎まれ、町人に家に押し入っては女房娘に乱暴する。寺の尼には乱暴する。これが父上の兵のやったことだ。俺にも(かば)いきれん暗君(あんくん)よ。フン。死にかけの虎福丸の方が仕え甲斐(がい)があるというものだ。そなたらも犬死には嫌だろうが」


 皆が黙る。先代の方が良かった。口には出さないが皆そう思っているのだ。ま、先代に毒を盛るように父上を(あお)ったのは俺だが。


 ククク。早く来てくれ。虎福丸殿。(やまい)(ごと)きで死ぬそなたではあるまい。俺はそなたに仕えたい。足利も朝廷もどうでもいい。一族郎党の首を手土産にそなたを天下人に押し上げさせてくれ。









永禄六年 (1563年) 一月中旬 丹波(たんば)(のくに) 園部の屋敷 蜷川(にながわ)(さだ)(ちか)


田中(たなか)河内(かわち)(のかみ)随分(ずいぶん)と富を(たくわ)えておるな」


「御意にございまする」


 横になった若が笑みを浮かべる。道三の薬のおかげで良くなった。ただ若は重病だと思われたいようだ。昨日は京から清原の姫がやってきた。若は姫たちに好かれている。若が元気だと知ると皆ほっとして帰っていく。


河内(かわち)(のかみ)には太刀と馬を与えよ。(せがれ)もおっただろう。小姓に取り立てる。降伏した者でも冷たくはせぬ。それが俺のやり方だ」


 返事をすると若が嬉しそうにする。


「波多野では波多野(はたの)()衛門(えもん)が中心になって伊勢家討つべしと意気盛んのようでございます」


 話を変えると若の顔も真剣になる。


「右衛門……知らんがどのような人物なのだ?」


「まだ十七でございまするが、馬を使いこなし、槍も弓も相当な腕前とか。童の時には高僧にすら論を挑んで負けなかったほどの神童でございまする」


「ほう」


 若が邪悪な顔をする。こういう時の若は天魔としか思えん。天狗でもとり()いているのではないかと。


「殺すには()しい。何としても手に入れたい。うむ。欲しい」


 また始まったか。これは病のようなものだな。


「無理でしょう。義に厚い男のようですから」


「丹後よ、果たしてそうかな。波多野右衛門とてこの戦国の世に生まれたのだ。義よりも自らの野心に思うがままに生きたい思う心も有ろう。芽はあるのだ。ふむ。分かった。右衛門か。フフフ」


 若がますます悪い顔になる。病になって性根(しょうね)がますます(ゆが)んでしまったようだ。いや元からか。


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