189、古世(こせ)の新体制
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 古世城 伊勢虎福丸
「これより評定を始める。皆、揃ったようだな」
関勢二万五千を加え、伊勢軍総兵力は四万五千になっている。波多野はこの兵力に黙って見ているだけだ。横山城の者たちが八上城に頻繁に出入りしているという。
横山城と八上城の連携で反伊勢包囲網というわけか。そうはさせんぞ。
「高山城の内藤安芸守は兵を集めており、いつ桐野河内に攻め込んでもおかしくありませぬ」
堤三郎兵衛がドスの利いた声で話す。そうだな。高山の内藤か。厄介な男だ。
「まあ放っておけ。どうせ振りだけだ。丹後、奉行の名を皆に教えてやれ」
「ははっ、一人目はそれがし蜷川丹後守にござる。二人目には堤六郎重政殿、三人目は並河右近大夫家直殿……」
奉行の名が発表される。二十人だ。譜代外様問わず民政の得意な者を選んだ。その下に役人がサポートに入る。これには百人程を抜擢する。古世城の内政を軌道に乗せる。京や近江から職人を呼び寄せる。古世を中心に栄えさせる。波多野の連中が羨ましがる程にな。
「次は堤だ。大雨になって城下町が水に沈むことがあるやもしれぬ。」
「はっ、堤のことは奉行衆で談合の上、若に申し上げまする」
「うむ。任せたぞ。丹後よ」
丹後がにっこりと笑う。頼もしいな。内政に関しては丹後に任せよう。
「川勝家からは誼を通じたいと使者が参った。朽木からもな。伊勢家とは戦うことはしたくないと」
家臣たちからどよめきが上がる。
「フフフ。古世城、馬堀城が落ちたことに連中は慌てたのだ。その内、内藤安芸守からも早馬が来よう、の」
「もはや虎福丸様の御世でございましょう。皆、虎福丸様の力に恐れをなし、ひれ伏すかと」
関五郎正重が笑みを浮かべながら追従を言う。関の暴れん坊がすっかり俺に恐れをなしている。気分が良いな。
「うむ。これで義輝様が帰って来ると良いのだがな」
ぶっちゃけ、トラブルメーカーの義輝はずっと毛利で預かっていて欲しいな。あいつが戻ると皆が揉める。いない方が平和だ。まあそんなことは口には出さんが。
評定は順調に進む。いい具合だ。
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 古世城 伊勢虎福丸
「その方が山本作兵衛であるか」
庭に片膝を着いた若者が顔を上げた。
「ははっ、村井作兵衛、二十歳にございまする。京で浪人者をしておりましたが関正山入道様の誘いに乗って軍師としてお仕えしておりました」
眼光の鋭い男だ。この男が関勢の作戦立案のトップだろう。
「軍学は足利学校にて学び、後は自力で組み上げました。虎福丸様、俺はお役に立てますよ。どうですか、雇って下さい」
「さては作兵衛、そのほう、俺に売り込むために正山のところに行ったのだな」
「ハハハ! さすがは虎福丸様。噂に違わぬ神童よ。そうじゃ、虎様の天下取りを助けたい! それでこそ俺の名が後世に残るというものよ」
「良かろう。仕官せよ。ただな、変な気を起こすな。俺が死んだ後も伊勢を支え、天下を泰平にせよ。変な気を起こせば斬り捨てる」
「案じられるな。虎福丸様を裏切ればそれがし天下の大悪人となろう。それは望むところではない。まあいい。これからそれがしの働きを見て下され」
作兵衛が笑い声を上げる。信用ならんが使ってみよう。しかし、戦国時代にこんな人物いたっけ?いたとしても信長の影に隠れちゃったんだろうな。まあ逸材に違いない。これからの戦略も立てやすくなるだろう。




