188、馬堀城攻略
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 馬堀城 伊勢虎福丸
「虎福丸様、山田一門は伊勢家に加わりまする」
老人が頭を下げる。山田次郎三郎という馬堀城主だ。馬堀城は古世城の東に位置する。もっと東に行けば山城国。すなわち三好の領域に入る。
「孫娘を人質に差し出したく思いまする」
「良い。伊勢家は人質は取らぬ。そのまま仕えよ」
「ありがとうございます。やはり虎福丸様は慈愛に満ちた御方じゃ」
次郎三郎は目に涙を浮かべている。一族郎党皆殺しにされると思っていたのだろう。それくらい波多野の支配は苛酷だった。
「掃部助、そなたを古世城の城代を任じる。馬堀城も任す」
「有り難き幸せ」
掃部助が笑顔で頭を下げた。これは褒美だ。合わせて七万石にはなるだろう。重要なところだ。掃部助なら桐野河内のように豊かにしてくれるだろう。
「古世城、馬堀城を落としたことで領土は広がった。摂津の浪人衆も家臣となった。これから新しい伊勢家になる。大樹は安芸国に行ったまま、帰っては来ない。世は乱れるだろう。幕府は伊勢家が支える。皆、譜代外様に関わらず力を合わせるのだ」
家臣たちから力強い声が上がる。皆、目を輝かせている。版図は広がった。もはや敵などいない。波多野孫四郎など何する物ぞ。
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 馬堀城
伊勢虎福丸
「丹後よ、川勝はどうだ?」
「左京亮は動きませぬ。よもや波多野の手が伸びているのかも」
桐野河内の北に大名がいる。名は川勝左京亮光照。島城を本拠とする大名で足利に仕えている。
「困ったことよ。これでは北と西に敵を抱えてしまう」
「それがしが川勝左京亮を説き伏せましょうか。同じ足利です。話の分からぬ仲でもありますまい」
「丹後よ、甘いぞ。その方、斬り捨てられるとも限らぬ」
「な、何と!」
「今までの川勝ではない。義輝様も宮中で捕えられた。何が起こるか分らぬ。そうだな。左門に兵五千を与えよう。それで桐野河内を守らせる。関正山入道、山田次郎三郎を寄騎としてつける。俺と丹後は古世城で睨みを利かせる。どうだ、良いだろう」
「はっ、良き御思案かと思いまする」
丹後が頷く。丹波は群雄が割拠している。主である義輝は権威を失った。これから揉める。その隙を突く。まずは川勝を香西のように取り込んでしまおう。さて、いかにして味方につけるか。




