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184/248

184、矢田城降伏

永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波(たんば)(のくに) 北古世(きたこせ)  伊勢虎福丸


 男たちが平伏している。釈迦牟(みくる)尼仏()摂津(せっつ)(のかみ)を始めとする釈迦牟(みくる)尼仏()一族(いちぞく)だ。南の矢田城の一族で降伏したら五百の手勢を率いて降伏してきた。素直で(よろ)しい。


摂津(せっつ)よ、よくぞ参陣した」


「ははっ、並河掃部(なみかわかもん)入道(にゅうどう)殿(どの)より誘われまして、もはや波多野も長くないと思いました。三好も頼りなし。虎福丸様に寄騎(よりき)お願いしたく」


「許そう。人質も差し出すに及ばぬ。そうだな。河村権之助のいる陣に加わるのだ」


「ははっ」


 これで酒井三河守の(ほう)()山城(やまじょう)釈迦牟(みくる)尼仏()摂津(せっつ)矢田(やだ)(じょう)勢力圏(せいりょくけん)に入った。もう古世(こせ)(じょう)は孤立したも同然だ。


古世(こせ)(じょう)を攻める。まずは三の丸よ」


「いよいよ攻めるのですな」


 岡部(おかべ)左門(さもん)が聞いてくる。そうだ。波多野が息を吹き返しても困る。三の丸を落として(せき)正山(しょうざん)入道(にゅうどう)を追い詰める。それで(せき)一族(いちぞく)の志気を(くじ)く。


 喚声(かんせい)が上がった。楽な戦になるだろう。三の丸を落とした後は降伏勧告に入る。また密書(みっしょ)捏造(ねつぞう)して(せき)正山(しょうざん)入道(にゅうどう)の心を()さぶるとしよう。









永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波(たんば)(のくに) 古世(こせ)(じょう) (せき)正重(まさしげ)


 合戦から帰ると妹が出迎えた。綺麗になったな。どこに嫁に出しても恥ずかしくない自慢の妹だ。


「兄上、伊勢軍は。虎福丸はどこに」


「首は取れなかった。無念よ。ただ伊勢軍には我ここにありと見せてやった。ハハハ。まあ良い。虎福丸はな。捕えて、そなたの婿にしてやろうか」


「殺すには()しいでしょう。あれ程の才、三好・波多野にもおりますまい」


 妹の目が細くなる。怖いな。(はら)の中で何を考えているのか、読めん。虎福丸のことを買っている。妹は虎福丸の話になるとはしゃぐのだ。


「フン、お前のお気に入りだ。殺すことはせぬ。この城は落とせぬ。我ら関一門、知略の限り、戦うぞ。それでこそ武士に生まれた甲斐があったというものよ」


 妹がニコニコと笑っている。ただ目は笑っていない。この女は虎福丸だけを見ているのだ。全く虎福丸と言うのも女に好かれる。軍学に(ひい)でた妹を()れさせるのだからな。四歳の童とは思えん。神の生まれ変わりか、何かではあるまいか。


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