182、北古世(きたこせ)制圧
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 今岡城 伊勢虎福丸
「まずは柏原を攻めるべきと存ずる。その後、古世城を攻めましょうぞ」
福井弥太郎が鼻息荒く言う。因幡守の次男坊だ。薙刀の使い手で武芸に秀で、軍学に明るい。まだ十三だが、初対面で打ち解けた。
「山本城の宇野豊後守の倅は我らと幼馴染にございますれば、奴を通じ、この辺りの兵を抑えた方が肝要と思いまする」
並河掃部入道の孫で並河八郎が言う。十五歳だが、大人びた顔立ちだ。勘だけど、こいつ史実の並河掃部易家じゃないだろうか。明智光秀の軍の一翼を担った武将だ。伊勢家も人材が集まりつつある。
「柏原か。ふむ。良かろう。それと山本城なのだが、そうだな……弥太郎よ。そなた、使いを頼めるか」
「御意」
山本城の宇野豊後守を味方に付ければ、一気に形勢は逆転する。古世城の関一族も窮地に陥るだろう。
「まずは北古世を攻める。それから柏原を手に入れるぞ」
「良きお考えかと」
弥太郎が言うと、八郎が頷く。北古世に進軍し、関一族を降伏に導く。戦がなければ、ないに越したことはないからな。
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 北古世 伊勢虎福丸
北古世を制圧できた。北古世の地侍も次々と降伏している。古世城の関一族は城に籠っている。楠木正成の子孫らしく、軍学に長けているのだそうだ。こんなところに楠木正成の子孫がいるとはな。できれば味方としたい。
「若、宇野豊後守の方はどうでしょうか」
河村権之助が本陣に姿を見せた。権之助の後ろには福井因幡守、大沢内記がいる。
「まだ返事はない。弥太郎の帰りを待って柏原を攻めよう。関一族の様子はどうだ?」
「未だこちらに靡いてはきませぬな。六角が兵を挙げると言われておりますし。我らが近江に向かうのを待っているのでしょう」
「六角か。伊勢家の利を狙うか」
「右衛門督も銭に目のない男でございますからな。敦賀との利を得たいのでございましょう」
六角と関一族が連携すれば、窮地に陥るのはこちらだ。波多野孫四郎が古世城の援軍に来るといくら俺でも困る。六角には大人しくして欲しいが。
それと毛利だが、大友との和議が成立したらしい。義輝や細川藤孝が直接大友のところに行って説得したようだ。西国の情勢も激変する。
毛利は尼子家には吉川元春、熊谷信直の兵を配置し、上洛の動きを見せていた。
越後の上杉家は北条との戦いで離れられない。義輝が頼るとしたら、毛利と大友だろう。
「六角も欲が強い。まあいい。まずは北古世の地を固める。それと柏原に物見を放つ」
三人が返事をする。亀山方面を伊勢軍で固める。波多野孫四郎が出てくる前に勝負をつける。亀山一帯の攻略は順調だ。このまま攻略を続けよう。




