179、今岡城三の丸攻略
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 今岡城付近 伊勢虎福丸
赤松軍を追い払うと静けさが戻ってきた。再び本軍は北に布陣する。河村権之助は南に布陣する。
囲まれた今岡城は勇壮な城だ。本丸、二の丸、三の丸、東曲輪と城の造りは堅固だ。六百と言うが、落とすには難しい城だろう。
三の丸の城門を攻める。城から弓矢が放たれる。先鋒の堤軍が勇ましく攻めかかる。井楼から鉄砲足軽が狙い撃つ。城内には鉄砲は少ない。というよりも伊勢軍が多すぎるのだ。
鉄砲をふんだんに使う堤軍が有利に進む。三の丸の城門が破られる。堤軍と大沢軍がどっと中に入った。
三の丸は落ちた。いい具合だ。俺は岡部左門を呼ぶ。
「左門、そなた城内に降伏を呼びかけて参れ」
左門が青い顔になる。
「案じるな。福井兄弟は義を重んじる頑固者よ。斬られる真似はすまい」
「しかし」
「福井因幡守、できれば家臣としたい。左門よ、頼むぞ」
左門が渋々(しぶしぶ)といった感じで頷く。さて、一時的に城攻めをやめよう。福井因幡守がどう出るか。
永禄五年 (1562年) 六月上旬 丹波国 今岡城付近 伊勢虎福丸
「足利一門故降れぬ、だと。それに俺を足利への不忠を咎めるか」
「ははっ、八木城を奪ったのは不忠の証と」
左門が神妙な顔をしている。福井因幡守は頑固に突っぱねた。予想はしていたが、プライドの高い男だ。足利ってどうしてこうも面倒くさい人たちばかりなのかねえ。
「ふぅむ」
難しいな。このまま腹を切らせるには惜しい武将だ。俺も丹波統治に並河一門とともに使いたい。それに足利一族なら味方に付いたらこちらの正当性も保障できる。
「そうだな。あれを持って参れ。公方様の文じゃ。俺がどんなに足利から大事にされている忠臣なのか、福井因幡守に見せ付けてやろうぞ」
「御意」
義輝は俺のことを大事にしている。福井因幡守に見せてやろう。俺がどんなに足利の忠臣であるかとな。
左門が去った後、大沢内記がやってきた。重そうな甲冑を身に付けている。
「若、福井因幡守は討ち果たすべきでしょう。肚の中が読めませぬ」
「ならん。ああいう者を下らせてこそ、伊勢虎福丸の名が天下に鳴り響くというもの。内記よ。丹波の民は戦のない世を望んでおる。京の民もよ。それには福井は味方にしておいたほうが良い。徳において国人衆をひれ伏させるのだ」
「……若。変わりましたな。立派になった。この内記、もう何も申しませぬ。御下知に従いまする」
内記が頭を下げる。うんうん、理解してくれたか。主君として嬉しいよ。さて、福井因幡守よ。どうしても降ってもらうぞ。俺の銭儲けにそなたは必要不可欠だからな。フンッ。




