表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/248

169、八木城攻略

永禄五年(1562年) 五月上旬 丹波(たんば)(のくに) 八木城付近 伊勢虎福丸本陣 伊勢虎福丸


「帝は忠義なる波多野家との和睦(わぼく)をお望みでおじゃりますぞ」


 ()修寺権(じゅうじじごん)中納言(ちゅうなごん)が言い聞かせるように言う。気に入らんな。朝廷が俺を脅すのか。


「お言葉なれど波多野の暴虐(ぼうぎゃく)は帝の忠義なる臣と言えましょうか。伊勢の領地を奪ったのです。権中納言様、今の波多野は腐りきっております」


「……虎福丸殿。麿(まろ)は母は伊勢家の出じゃ。身内としてそなたの身を案じておる。帝は波多野を買っておる。京を守ったのでおじゃるからな」


 そうだ。勧修寺は公家だが、伊勢家の血が入っている。身内と言ってもいい。だからこそ、朝廷も()修寺権(じゅうじごん)中納言(ちゅうなごん)を寄越したのだろう。


「守った? 京を守るのは足利、そして伊勢家の務めにございます。波多野は世を乱すのみ。京の女たちを攫って逃げたのは波多野でございまするぞ」


「……まさか。そんな話は聞いておらぬ」


 権中納言が目を丸くする。


「それだけではない。町民の家に押し入った者もいると聞きまする。おお、野蛮で汚らわしい田舎者でございますよ」


「とにかく勅命じゃ。従わねば大変なことになる」


 権中納言が慌てたように言う。全く公家共も肝心(かんじん)な時に邪魔をする。


「では民を見捨てろと。波多野を抑えねば、朝廷に(るい)が及びまする。もう公方様もおりませぬ。京がどうなるか。分かりませぬぞ」


「まさか。波多野はそこまでやらぬじゃろう」


 権中納言が笑みを浮かべる。引きつった笑いだ。余裕がなくなったな。


「宗助、書をこれへ」


 宗助が書を持ってくる。どさりと権中納言の前に置いた。


「人妻を盗むなど不埒(ふらち)千万(せんばん)の数々。波多野の悪行が記されております。これを朝廷に持ち帰って読んで下され。これでも忠義の臣と言えましょうか。これは賊だ。賊は討たねばならん」


「これは……勅命を伝えるわけにはいかぬ。分かった。勅命は京に持ち帰る。和睦の話はなしじゃ」


 権中納言が血相を変えている。公家共も事態の深刻さに気付くだろう。波多野の者たちは好き勝手やっている。それは忍びに調べさせてかなりの量になっていた。いざという時に使えると思っていたが、役に立ったな。


 香西のガキは内山城の抑えに置いている。張り切っているようだ。


 せいぜい調子に乗らせておこう。こちらは八木城、鶴首山城を落とす。邪魔になってきたら香西のガキは殺せばいい。邪魔をしないのなら生かしておこう。


 勧修寺権中納言が去った後、三郎(さぶろう)()衛門(もん)たちがほっと息を吐いた。


和睦(わぼく)はない。八木城を攻めるぞ」


 家臣たちが気合いを入れて返事をする。八木城の波多野衆には寝返りを打診してきた者もいる。もう一息だ。堅城(けんじょう)だが、緒戦(しょせん)で叩き潰したのが効いている。籠城衆の心は弱っていた。


 陣屋の外に出た。


「いざ、出陣!」


 采配を振る。騎馬が()けていく。兵たちが動き出した。









永禄五年(1562年) 五月上旬 丹波(たんば)(のくに) 八木城 伊勢虎福丸


 城は呆気(あっけ)なく落ちた。波多野勢は殲滅(せんめつ)せず、逃がした。甘いが、殺し尽くすと世評(せひょう)が悪くなる。国人衆の何人かが裏切った。波多野を見限ったのだろう。


「若、やりましたぞ」


「うむ、爺、やったぞ。権中納言様を追い返したことで波多野の志気は落ちた。逃げ道を開けたことも良かったな。ほとんど(ろう)せずに手に入れることができた」


 三郎右衛門が喜んでいる。俺も嬉しいよ。八木城を落とせば、京と桐野河内はつながる。物流も便利になる。山陰(さんいん)を通りための重要拠点だ。


 八木城を拠点に新田開発、特産品製造……うん、夢が広がるな。


「ふう」


 畳に大の字になる。一ヶ月の戦だった。まだ続くのだ。ちょっとここで休もう。ふあ、まだ昼だけど眠くなってきたな……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ