表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/248

168、八木城を巡る政争

永禄五年(1562年) 四月上旬 摂津(せっつの)(くに) 芥川(あくたがわ)山城(やまじょう) 三好(みよし)長逸(ながゆき)


「虎福丸殿が勝ったとな」


 筑前(ちくぜん)(三好(みよし)筑前(ちくぜん)(のかみ)(よし)(なが)のこと)が目を見開いている。唇もわなわなと震えていた。やはり、若い。孫次郎(三好長慶の若い頃の名)とは違うのだ。孫次郎は幼い頃から抜きん出ていた。儂ですら、言い負かされた。あれは麒麟よ。筑前も愚かではない。だが、虎福丸は強い。強すぎるのだ。寒気すらする。正月に会った時にも尋常ではない気を放っていた。


「御意。鉄砲隊と弓隊によって波多野勢の先手は痛手を(こうむ)った(よし)。八木城に籠城はしておりまするが、長くないと思われます」


 内藤(ないとう)備前(びぜん)(のかみ)がゆっくりと話す。筑前が嫌そうな顔をした。ここで虎福丸を討てれば良かったものを、そういう顔だ。


 三好にとってもう虎福丸は邪魔でしかない。三河国も手に入れた。銭をたくさん持っている。三好に比べれば、それ程でもない。それなのに六角も畠山も虎福丸を当てにする。面白くない。筑前(ちくぜん)はよくそう言っていた。


 朝廷や商人たちですら、虎福丸を求める。南蛮の者たちですら、そうなのだという。危ない。生かしておいては三好の天下が危ぶまれる。


「四歳だ。刀とて持てぬ。輿(こし)に乗っているのだそうだ。童だ。童に波多野が負けた」


 筑前が(うわ)(ごと)のように(つぶや)いている。相手が悪かったとしか思えん。虎福丸を()めていた。こんなところで力を出すとは。


 朝廷は和睦(わぼく)を仲介するように使者を寄越した。朝廷ですら虎福丸を守ろうとしている。


 何なのだ、これは。虎福丸とは何者なのだ。いや、四歳だ。四歳の童に過ぎん。焦るな。己に言い聞かせる。天下の主は三好だ。足利ではない。足利などもう力はない。そうだ。虎福丸などいつでも殺せる。波多野をもう一度焚きつけるのだ。


「ここまで来ると虎福丸殿は内山城を落とすでしょう。いずれ、鶴首山(つるくびやま)八木(やぎ)も落とす」


 内藤(ないとう)備前(びぜん)(のかみ)が言う。誰も返事はしない。波多野に忍びを(つか)わす。負けてなるものか。何とかして勝ちを拾わねば。









永禄五年(1562年) 五月上旬 丹波(たんばの)(くに) 内山城(うちやまじょう)付近(ふきん) (こう)西元(ざいもと)(ちか)


「勝ち戦じゃ。波多野も口ほどにもない」


 目の前の童子がにこりと笑みを浮かべた。愛嬌(あいきょう)がある。可愛らしい童子だ。内山城からしつこく攻めてきた。奇襲だったが、うまいこと返り討ちにした。もう五度目だ。大将首もいくつも取った。酒がうまい。女も手に入れることができた。


「内山城ももう落とそうではないか。はっはっは」


「いやまだ早い。朝廷の使者がついてからで良いでしょう」


「和睦か。我慢ならんぞ。このまま八木城を攻め(つぶ)してしまえば良い」


「なに、朝廷とて本気ではない。波多野が暴れたら京が火の海になる。そうすれば困るのは朝廷です。和睦などふりだけですよ。ただ朝廷の顔を立てるのも悪くはない」


 声を上げて笑った。そうか。波多野は朝廷にも見捨てられたか。


源蔵(げんぞう)殿(どの)、内山城を任せましたぞ。勇ましい源蔵殿なら内山城の波多野勢を抑え込めるはずだ」


「アハハ。大船に乗ったつもりでいるのだ。この戦は我らの勝ちだ。貴殿(きでん)には戦の才がある。はっはっは。気に入ったぞ。貴殿こそは諸葛孔(しょかつこう)(めい)に匹敵しよう。はっはっは」


 虎福丸が立ち上がる。笑みを浮かべていた。ふむ。良い気持ちだ。勝ち戦が続いている。波多野め、我らに手も足も出まい。うわっはっはっは。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ