120、美女の誘惑
明けましておめでとうございます。今年も本作品をよろしくお願いします。
永禄五年(1561年) 十二月下旬 京 三好義長の屋敷 伊勢虎福丸
「甥御殿、久しいの」
花嫁の部屋から戻ったら信長がいてびっくりした。信長は笑みを浮かべると、湯飲みの焙じ茶に口を付ける。
「虎福丸殿が驚いておられますぞ。はっはっは」
美男子が笑い声をあげる。誰だ? と思ったら見覚えがある。
「朝倉左衛門督様……」
信長と朝倉義景が仲良く茶を飲んでいる。史実からは有り得ん光景だな。
「甥御殿は鶴姫様のお気に入りよの。羨ましいわ」
信長が笑うと、座も盛り上がる。織田家臣も朝倉家臣も皆笑顔だ。
「この婚儀も甥御殿が仕組んだのであろう?」
信長の目は笑っている。冗談で言ったんだろう。
「伯父上、違います。童に婚儀がまとめられましょうか」
「はっはっは。そうよな。甥御殿にはさすがに無理というもの。いや、しかし、めでたい」
信長は上機嫌だった。朝倉義景も頷いている。和やかな雰囲気だ。この二人なら史実と違って争うことがないように感じる。
「残るは中国の毛利ですな。それと大友です。大樹の願う世の安寧も毛利と大友が大人しくなれば……」
朝倉義景が口を開く。信長に負けじとこちらも美男子だ。女たちが放っておかないだろう。
毛利と大友は因縁が深い。大友は大内家当主に弟を据えた。大内義長のことだ。大内義長は毛利家によって自害に追い込まれた。兄である大友義鎮の怒りは激しかった。
「毛利と大友だけではない。一色もいる。美濃の一色は討たねばならぬ」
美濃。俺の母上の実家があるところだ。一色喜太郎は母上の甥に当たる。俺とは従兄弟になる。
斎藤義龍は父・道三を殺し、一色の姓を名乗っている。その子・喜太郎も一色だ。自分たちが一色の子孫と思いたいようだ。信長は今川義元を討った。そして北上し、美濃を切り取ろうと考えている。野心家だな。ただ一色家は義輝とのパイプもしっかりと持っている。
義輝はこの世の安寧に向けて動き出している。織田と一色の争いは好ましくないだろう。
「おっと祝いの席で口が滑った。今のは忘れて下され」
信長は笑いながら言った。婚儀には一色の者たちも来ている。揉めなければいいが……。
永禄五年(1561年) 十二月下旬 京 三好義長の屋敷 伊勢虎福丸
北は南部から南は島津まで大名家の使いが並ぶ。普段は顔を見せない今川家の使いもいた。珍しい。
三好家、近衛家の者たちがずらりと居並ぶ。壮観だな。
「御婚儀、おめどうございます。諸大名もこの婚儀、寿いでおりまする」
挨拶したのは畠山尾張守高政だった。口の端には勝ち誇ったような笑みがある。三好は弱体化し、畠山はその武威を天下に示した。鼻が高いだろう。
畠山高政の後、大名たちの挨拶が続く。飽きてきた。退屈だな。
「あら、虎福丸殿とはあなたのことですね?」
嬉しそうな声。俺が振り向くと着物姿の物凄い美人がいた。
「末と申します。鶴の姉でございます」
聞いたことがある。朝倉義景を呪詛したとして、離縁された近衛家の姫だ。滅茶苦茶美人だと聞いていた。確かに息を呑む美しさだ。
「さ、遠慮なさずに膝へ」
俺はされるがままに末姫の膝に乗る。うー、頭がくらくらする。この匂いは甘い。そしていい匂いだ。明の香料だろうか? しかもこの姫、細身の割に胸が大きい。近衛家の姫ってみんな爆乳だな。
婚儀は滞りなく、進んでいく。あー役得だ。幼児になって良かったわ。眠くなる……。