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114/248

114、推しの武将

永禄四年(1561年) 十二月中旬  堺 伊勢虎福丸


 筋肉質な男が船から出てきた。おまけに美男子だ。戦国きっての猛将・島津義弘であるとすぐに分かった。


(げん)()どん、この方が虎福丸どんでごわっそ?」

御意(ぎょい)。伊勢守殿が言っていた御方でごわす」


 男が(やわ)らかい笑みを浮かべた。人なつっこいな。人から好かれそうな男だ。


島津又四郎(しまづまたしろう)(ただ)(ひら)でごわす。虎福丸どん会いたかったでごわす」


 忠平が頭を下げてきた。俺も頭を下げる。のちの島津義弘だ。くぅー、落ち着け俺。(なま)義弘(よしひろ)とか最高かよ。


「しかし、諸国の大名も仰天しているでごわっそ、足利千寿公が大軍率いたことあれど、これだけの兵を動かすとは……」


 忠平が感嘆(かんたん)の声を()らす。


「寄せ集めにござる。それに皆、足利を支えたいという熱き思いもあります。これはすべて公方様の人徳(じんとく)のなせる(わざ)と思いまする」


「なるほど、民の義侠(ぎきょう)(しん)にごわすな?」


 忠平がうんうんと(うなず)いている。そうだな。戦をやめさせたい。京を平和にしたい。今回集まった者たちの志気は高い。


「薩摩では伊勢(いせ)(のかみ)(さま)と一緒に釣りを楽しみ申した。虎福丸どん、薩摩では神算(しんさん)鬼謀(きぼう)童子(どうじ)と皆が虎福丸どんのことを噂しております」


 薩摩でも俺が……。そんなに有名人になったのか。


「それだけではなか。明でも虎福丸どんのこと噂になっているようでごわす。凄い童子がいると」


 明まで……。まあ、俺も三歳なのにド派手にやったからな。


「虎福丸殿。密書にあった話ですが……」


 伊集院源(いじゅういんげん)()が声を(ひそ)めた。そう、密書だ。島津又四郎(しまづまたしろう)(ただ)(ひら)伊集院源(いじゅういんげん)()(ただ)(かね)は琉球を通して交易ルートを持っている。その利権に俺も加わりたい。東南アジアの国々も豊かだからな。

今は大内義隆の持っていた利権の取り合いになっている。細川晴元、義輝たちは出遅れている。俺は奴らを出し抜いて、島津に接触した。


 義輝は御台所(みだいところ)との仲が悪い。御台所(みだいどころ)は近衛の姫で近衛と島津は関係が深い。御台所から義輝に話が伝わる可能性は低い。


「その話は屋敷でしよう」


 堺には伊勢の屋敷がある。俺は二人をそこに案内することにした。









「立派なお屋敷にごわす。さすがは足利家に代わってこの国の政をしてきた伊勢家の屋敷。女中も忍びでごわすな」


 忠平が言う。そうだ。さすが島津義弘だな。若い女ばかりだが、手練(てだ)れのくノ一を配置してある。俺も暗殺を恐れている。義輝は俺を殺さないという保障はない。義輝も元々は三好(みよし)長慶(ちょうけい)を殺そうとした男だ。警戒(けいかい)するに越したことはない。


 客間に二人を招いた。二人が腰を降ろす。(きた)え上げられた肉体。普段筋トレに励んでいるのが分かる。ムキムキだ。


「これが三好(みよし)修理(しゅり)大夫(だゆう)の密書、これは細川(ほそかわ)右京(うきょう)大夫(たゆう)晴元(はるもと)(さま)から送られてきた密書にごわす」


 忠平が俺に密書を渡す。


 三好も細川も島津家と誼を通じたい。大友家は信用できんと書いている。


「我ら島津に琉球王国や高山(こうざん)王国(おうこく)の仲立ちに入って欲しいとのことにござった。殿。又四郎様のお父上のことなのですが……」


 伊集院源太が言いにくそうに俺の顔を見る。又四郎の父親は島津貴久のことだろう。


「三好と細川の仲立ちはできぬ、と?」


「はい。お二人とも島津をうまく使おうと考えていると。畿内の争いに巻き込まれたくないとも仰せでした」


 三好長慶も細川晴元も策謀家だ。島津貴久が政争に巻き込まれたくないというは分かる。


「父上は虎福丸どんなら仲立ちしても良いと考えているでごわす。上杉家を上洛させたのは虎福丸どんの力。父上は虎福丸どんを高く買っており申す」


 忠平が口を(はさ)む。そうか。島津貴久がねえ。これはいい。琉球に顔が()く島津貴久を使えば、明、台湾とも交易できるだろう。ヨーロッパ、インドとも交易できる。島津忠平が味方についてくれたことは大きいな。また伊勢の家が栄える。

三好と細川をうまく出し抜けたな。お爺様と父上が薩摩で人脈を作ってくれたおかげだ。貿易で(もう)ける。そして三好を京に戻す。畠山と六角は足利と縁を結びたがっている。縁談話が進むだろう。


 忠平が湯飲みに手を伸ばした。しかし、(あこが)れの島津義弘に会えたんだ。胸が熱くなる。英雄っていうのはこういう男のことを言うんだろう。


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