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109/248

109、伊勢の勝ち戦

永禄四年(1561年) 十二月上旬  近江国 入部(いりべ)(たに)(じょう)付近 三上(みかみ)(ひで)(なが)


高島(たかしま)越中(えっちゅう)め、引っ込んだようじゃ」


 老人が笑いながら話しかけてきた。朽木(くつき)信濃(しなの)(かみ)殿(どの)。竹若丸殿の大叔父(おおおじ)よ。朽木(くつき)の長老だな。


「戦わずに勝ったということでござるか」


伊勢勢(いせぜい)の多さに腰を抜かしたのでござろう。虎福丸殿のおかげよ。朽木(くつき)()われずに済んだ」


 総兵力一千だからな。腕の立つ者ばかりだ。昔、百姓をやっていた者。行商人もいる。とにかく雇って(きた)えた。今ではすぐに動ける兵となった。すべては若の、虎福丸様の命よ。あの御方(おかた)はやはり只者(ただもの)ではない。


高島(たかしま)越中(えっちゅう)も愚か者ではござらぬ。ここでぶつかれば一族も滅ぶと思ったのでござろう」


 越中(えっちゅうの)(かみ)は兵を退いたが、六角は大軍を率いて、比叡山(ひえいざん)(ふもと)を通っている。京にいる三好(みよし)筑前(ちくぜん)(のかみ)芥川山(あくたがわやま)に兵を退()いた。河内では畠山が挙兵し、三万の大軍に膨れ上がったという。三好は苦しい戦いになる。猛将(もうしょう)十河(そごう)讃岐(さぬき)(のかみ)はもういない。若い筑前(ちくぜん)(のかみ)がどこまで戦えるか……。


「それにしても虎福丸殿は畠山に(とら)えられたと聞く。大丈夫でござるか」


「心配は無用にござる。悪運の強い御方(おかた)でござる(ゆえ)


 そう言うと信濃(しなのの)(かみ)殿(どの)は驚いた顔をしていた。


「これは主筋(しゅすじ)遠慮(えんりょ)のない物言いにござる」


「はっはっは。あの御方(おかた)が死ぬのであればそこまででござる。()(ばら)などしませぬ。また奥方様が子をお作りになれましょう。厳しいようですが、それがしは若にはそれくらいの腹芸(はらげい)ができると思っておりまする。あの御方(おかた)こそ、この世を救われる大権現であると!」


「虎福丸殿を大権現(だいごんげん)(おお)せられるか」


 信濃(しなの)(のかみ)殿(どの)がまじまじと私を見る。


神仏(しんぶつ)に匹敵する御方(おかた)でござる。新しき世にはああいう方が出てくるのだ」


 信濃(しなのの)(かみ)殿(どの)が息を呑んだ。若は他の者とは抜きん出た異才よ。この乱れた世を鎮めるにはああいう御方(おかた)の力がいる。そろそろ畠山も挙兵するであろう。世は大乱(たいらん)となること間違いなしよ。







永禄四年(1561年) 十二月上旬  (かわ)内国(ちのくに) 高屋(たかや)(じょう) 伊勢虎福丸


 物凄(ものすご)い数の軍勢(ぐんぜい)だ。十万を越えていないか。畠山(はたけやま)高政(たかまさ)の力は恐ろしいな。


「六角が上洛を果たした。我らは和泉(いずみ)に攻め込む。岸和田(きしわだ)(じょう)を攻めるのだ」


 尾張(おわり)(のかみ)が集まった武将たちに演説している。


「三好筑前守は将軍家を(ないがし)ろにしておる! 細川(ほそかわ)管領家(かんれいけ)をも操り、天下を(わたくし)せんと動いておる! 三好は不忠(ふちゅう)の臣なり! ()棟梁(とうりょう)は足利である! 三好に(あら)ず!」


 武将たちからはそうだ! 三好は許せぬ! との声が飛んだ。


「うおおおおおおおおおっ、尾張(おわりの)(かみ)殿(どの)は忠義の臣よ! (おとこ)じゃ! 足利の忠臣よ!」


 安見(やすみ)美作(みまさか)(のかみ)が剣を抜き放って、叫ぶ。大夫(だいぶ)、興奮しているな。大丈夫か?


「今こそ義の戦により、公方様を救出せん! 皆の者、出陣じゃ!」



 オオオオオーーーーーっ。兵たちから声が上がる。何か反董卓連合の(はた)()げっぽいな。反董卓連合の末路(まつろ)は……。ま、言わぬが花って奴か。


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