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106/248

106、天下人を狙う男

永禄四年(1561年) 十二月上旬  河内(かわちの)(くに) 高屋(たかや)(じょう) 伊勢虎福丸


「はっはっは。虎福丸殿は頼朝が好きか?」


「はい。義経は後白河(ごしらかわ)法皇(ほうおう)(だま)されたのです。頼朝を、鎌倉殿を支えるべきでした」


 畠山高政が大笑いをする。


「さすが虎福丸殿よ。三歳にして(まつりごと)()す器量を示しておる。公方を支える虎福丸殿にとって、三好は第二の義経となりますまいか?」


 高政の目が(するど)くなった。答えにくい質問だな。


三好(みよし)筑前(ちくぜん)(のかみ)殿(どの)は温厚にして、人望があり。義経のような荒々しさは持ち合わせず。それよりも松永彦六(まつながひころく)(よし)(ひさ)殿(どの)のほうが義経でしょう。(ひこ)(ろく)殿(どの)の戦上手に京の女たちは()(いき)()らしております」


「はっはっは。松永彦(まつながひこ)(ろく)ですか。(だん)正少弼(じょうしょうひつ)殿(どの)も野心家の御嫡男(ごちゃくなん)を持たれたものよ」


 野心家か、義経に裏表(うらおもて)があるように見えないが、彦六(ひころく)(よし)(ひさ)には薄暗(うすぐら)いところもある。あの男なら、史実通り、義輝を殺すだろう。それくらい油断ならない人物だと思う。


「世は下剋上(げこくじょう)でございます。三好家も何が起こってもおかしくはないでしょう」


「そうですなあ。三好の時代もいつまでも続くわけではない。毛利に赤松、六角に筒井。三好は敵が多い」


 高政が穏やかな目になった。この男、油断ならんな。危険度で言えば、六角義治よりも危険だろう。荒ぶる自分を抑えて野心を表に出すことがない。


「虎福丸殿、ゆっくりされると良い。この高屋は良いところだ。見目(みめ)(うるわ)しい女子(おなご)もたくさんいるしな」


 俺は笑みを浮かべた。しばらく観光を楽しもう。戦も起きそうではないからな。






永禄四年(1561年) 十二月上旬  山城(やましろの)(くに) 京 御所 細川(ほそかわ)(ふじ)(たか)


三好(みよし)日向(ひゅうが)(のかみ)が慌てておるか」


「はい。虎福丸殿が寝返ったと」


 摂津(せっつ)中務(なかつかさ)大輔(たいふ)殿(どの)が渋い顔になった。


「寝返ったかは分からぬであろう。ただ畠山(はたけやま)尾張(おわり)(のかみ)に誘われて遊びに行っただけかもしれぬし」


「三好はそうは思っておりせん。越後の上杉を呼び寄せたのが虎福丸殿。次に阿波の三好を呼び寄せたのも虎福丸殿。三好と畠山。畠山が強いと見て裏切ったのではないかと三好家中では(うわさ)されております」


 中務(なかつかさ)大輔(たいふ)殿(どの)が小さく笑う。笑い事ではない。御台所(みだいどころ)(さま)も毒を盛られているし、虎福丸殿も(わず)かな供回りとともに河内高屋城にいる。


 一体どうしたものか……。このままでは京が危ない。


「それがし、政所(まんどころ)に向かおうと思っております」


 中務(なかつかさ)大輔(たいふ)殿(どの)は笑みを浮かべる。


「好きにしなされ。幕臣たちも与一郎殿とは戦うと思うまい」


 中務大輔殿は伊勢びいきだ。私も虎福丸殿につく。虎福丸殿が三好を捨てるとしても、だ。虎福丸殿しか、この世は変えられぬ。


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