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105、世渡り上手の童子

永禄四年(1561年) 十一月下旬 京 (かわ)内国(ちのくに) 高屋(たかや)(じょう) 調練(ちょうれん)の間 畠山(はたけやま)高政(たかまさ)


 弓を引き絞って的に矢を放つ。岸和田城がきな臭くなってきた。家臣たちが岸和田城を攻めろと口やかましい。そうだ。岸和田城も欲しい。足利から文が届いた。文には頼りになるのはそなただけだと書いてあった。


 赤松は三好と本気ではぶつからない。大和の筒井は共に三好を攻めようと言ってくる。


「ふむぅ」


 悩む。これは好機だ。慎重な朝倉義景(あさくらよしかげ)は動かない。六角の若当主は重臣たちと()めている。やはり年が若いのだ。


「伯父上……」


 伯父の顔が浮かんだ。三十七歳で死んだ伯父は畿内に覇を唱えた。あれから十六年が経つ。父の後を継ぎ、畠山の家は大きくなった。五、六万の兵は容易に集められる。


 すべては俺の力よ。皆、俺を見ている。俺がどう動くかを……。三好、六角、筒井、朝倉、尼子に波多野……。天下の行方はこの俺が握っているのだ。


 野心がないと言えば嘘になる。義輝を、あの世間知らずの若造の隣に立つ。俺なら上杉弾(うえすぎだん)正少弼(じょうしょうひつ)(ぎょ)せる。三好も(おさ)えることができる……。


「父上……」


 娘の律が話しかけてきた。母親に似て美しくなった。俺に似ず、争いごとは好まない。


「律、俺はな天下を治めんと欲している。この欲を止められぬ」


「天下を……」


「うむ。できるのだ。俺にはな。三好など潰せるほどの力がある。畠山は足利の家人である」


 律が目を丸くしている。フフ、驚いたか?


「南蛮人共とも話した。世界は広いのだ。明と交易する。それで国は豊かになろう。戦のない泰平の世を目指す。(よし)(みつ)(こう)の時代の戻るのだ。そのためには三好は邪魔だ」


 律は何も答えない。三好を追い払ったらどうするか? 伊勢の童子に(りつ)を嫁がせる。虎福丸か。奴のおかげで三好を潰せる。手懐(てなず)けて、俺の婿にしよう。ああ、血が(うず)くわ……。早く暴れたいものよ……。








永禄四年(1561年) 十二月上旬 京 伊勢(いせ)(さだ)(たか)の屋敷 伊勢虎福丸


「うーむ、困ったな」


 俺は寝転んで松平元康の書状を読んでいた。家中に不穏な動きがあるという。水野宗(みずのそう)兵衛(べえ)を急いで返した。今川氏真が蠢動(しゅんどう)している。元康に疑念を抱いた氏真は元康の家臣たちに接触。元康を討てと(そそのか)しているという。元康は身の危険を感じているようだ。


「このまま元康が討たれるのも、な」


 独りで口に出す。元康とは仲が良いし、伊勢は元々松平家の主人だ。


 史実よりも今川(いまがわ)(うじ)(ざね)の力が増している。元康が討たれるかもしれない。


「美濃攻めもなかなか進まんしな」


 織田も身動きが取れない。斎藤も戦上手だ。斎藤(さいとう)(よし)(たつ)の下、家臣団も一枚岩になっている。


「それに畠山(はたけやま)尾張(おわり)(のかみ)が……」


 厄介なのが畠山(はたけやま)尾張(おわり)(のかみ)だ。こいつ、率いる兵力は七万とも言える。六角を越える大大名だ。キリスト教の宣教師も誘致し、鉄砲隊も作っているという。


畠山(はたけやま)高政(たかまさ)がこんなに有能だなんて聞いてないぞォ~」


 畠山(はたけやま)高政(たかまさ)は天才とも呼ばれる。軍人としても政治家としても優れている。史実でも三好(みよし)(よし)(かた)を討ち取っているしな。奴に動かれるとな。三好もかなわんだろう。


「このまま畠山が兵を上げれば……三好もまた京を追われるか……ふむ」


 まあ伊勢は勝った方につけば良い。問題は上杉だが、武田との交渉で和議を結んだようだ。ただ北条と蘆名(あしな)がもぞもぞと動いている。上杉(うえすぎ)(まさ)(とら)はまた上洛するのは難しいと書状を送ってきた。


「畠山に貢物(みつぎもの)を送っておくか」


 畠山の機嫌を取る。もし畠山の世になっても伊勢は生き残る。


 俺は立ち上がった。せつのところに行く。芝居小屋に誘われている。気分転換だ。今日は遊ぶことにするか。


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