102、迎撃
永禄四年(1561年) 十一月下旬 摂津国 三田城 伊勢虎福丸
「兵は一万二千か。うむむ」
「恐らくは池田筑後守勝正を助けるためでしょう」
播磨の三木城に動きがあった。孤立している池田城を助けるために別所が練兵に励んでいる。池田筑後守は当主を追放し、謀反を起こした。有馬と共に細川晴元の誘いに応じたのだ。
姫路城の六角軍ももぞもぞとしている。早く動きたいのだろう。
毛利の動きが早かった。小早川隆景を大将として八千の軍勢が備後神辺城に入り、三村や石川の尻を叩いた。浦上遠江守は居城の天神山城に戻り、攻撃に備えている。
つまり、別所が動きやすくなったのだ。摂津は三好への不満分子に溢れている。有馬の牢人たちも盛んに摂津の武士たちを煽っていた。三好を討つべし、と。
やはり摂津は火種になる。与次郎が険しい表情になる。三郎右衛門も苦い表情をしていた。真冬の戦になる。戦いは厳しいものとなるだろう。
「若は京にお逃げ下さい。ここは我らが守りまする」
「うむ。ただ別所にも使いを送る。六角にもだ。伊勢を攻めるということは将軍家を敵に回すことだとな」
二人とも息を呑んだ。伊勢は足利の家臣だ。それを攻めるということは足利を敵に回すということ。敵中で孤立するが、やむを得ない。伊勢だけは中立を保つ。ただうまくいくとは限らない。三田城に兵力を集めておく。攻めてくるのであれば、ゲリラ戦で抵抗するだけだ。
指揮は三郎右衛門と与次郎に任せる。与次郎が戦上手だ。うまいことやってくれるだろう。とにかく俺は京に戻る。義輝に会って、別所たちを止めてもらおう。義輝の命ならば、別所も考えを改めるはずだ。
永禄四年(1561年) 十一月下旬 山城国 御所 伊勢虎福丸
「そうですか。摂津がそのようなことに……」
「はい。公方様に口添えを頼みましたが、別所は止まらぬと思います」
細川与一郎藤孝が険しい表情を浮かべた。また伊勢が領地を失う。すなわち、幕府の権威が衰えるのだ。別所が暴走すれば、有馬郡は別所の手に渡るだろう。
「では、また逃げるのですか?」
「いえ、こたびは別所を追い払いまする」
「し、しかしそれは無理というもの……」
与一郎が困惑したように言う。別所は一万以上の兵を動員できる。その上、赤松や宇野が援軍に来れば、兵力は三万を優に越える。
「三好の援軍も来ます。無理というわけではありますまい」
与一郎が眉間に皺を寄せる。難しいという顔だ。
「間に合えば良いですが……。私も援軍に向かいたい。されど公方様はお許しにならないでしょう」
そうだ。今回の別所の動きの背後には義輝がいる。幕臣たちの動きは封じられた。伊勢と三好で戦うしかない。
与一郎が湯飲みに手を伸ばした。落ち着いているが、内心は穏やかではないだろう。俺は落ち着いている。三郎右衛門と与次郎を信用しているからな。うまくやってくれるはずだ。




