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102/248

102、迎撃

永禄四年(1561年) 十一月下旬 摂津(せっつ)(のくに) 三田(さんだ)(じょう) 伊勢(いせ)(とら)(ふく)(まる)


「兵は一万二千か。うむむ」


「恐らくは池田(いけだ)筑後(ちくご)(のかみ)(かつ)(まさ)を助けるためでしょう」


 播磨(はりま)()木城(きじょう)に動きがあった。孤立(こりつ)している池田城を助けるために別所(べっしょ)練兵(れんぺい)(はげ)んでいる。池田(いけだ)筑後(ちくご)(のかみ)は当主を追放し、謀反(むほん)を起こした。有馬と共に細川(ほそかわ)晴元(はるもと)の誘いに応じたのだ。


 姫路城の六角軍ももぞもぞとしている。早く動きたいのだろう。


 毛利の動きが早かった。小早川隆景(こばやかわたかかげ)を大将として八千の軍勢が備後(びんご)神辺(かんなべ)(じょう)に入り、三村や石川の尻を叩いた。浦上(うらがみ)遠江守(とおとうみのかみ)居城(きょじょう)天神(てんじん)山城(やまじょう)に戻り、攻撃に備えている。


 つまり、別所が動きやすくなったのだ。摂津は三好への不満分子に(あふ)れている。有馬の牢人たちも(さか)んに摂津の武士たちを(あお)っていた。三好を討つべし、と。


 やはり摂津は火種になる。与次郎が険しい表情になる。三郎(さぶろう)()衛門(もん)も苦い表情をしていた。真冬の戦になる。戦いは厳しいものとなるだろう。


「若は京にお逃げ下さい。ここは我らが守りまする」


「うむ。ただ別所にも使いを送る。六角にもだ。伊勢を攻めるということは将軍家を敵に回すことだとな」


二人とも息を呑んだ。伊勢は足利の家臣だ。それを攻めるということは足利を敵に回すということ。敵中で孤立するが、やむを得ない。伊勢だけは中立を(たも)つ。ただうまくいくとは限らない。三田(さんだ)(じょう)に兵力を集めておく。攻めてくるのであれば、ゲリラ戦で抵抗するだけだ。


 指揮は三郎(さぶろう)()衛門(もん)と与次郎に任せる。与次郎が戦上手だ。うまいことやってくれるだろう。とにかく俺は京に戻る。義輝に会って、別所たちを止めてもらおう。義輝の命ならば、別所も考えを改めるはずだ。








永禄四年(1561年) 十一月下旬 山城(やましろ)(のくに) 御所 伊勢虎福丸


「そうですか。摂津がそのようなことに……」


「はい。公方様に口添(くちぞ)えを頼みましたが、別所は止まらぬと思います」


 細川(ほそかわ)()一郎(いちろう)(ふじ)(たか)(けわ)しい表情を浮かべた。また伊勢が領地を失う。すなわち、幕府の権威が(おとろ)えるのだ。別所が暴走すれば、有馬郡(ありまぐん)は別所の手に渡るだろう。


「では、また逃げるのですか?」


「いえ、こたびは別所を追い払いまする」


「し、しかしそれは無理というもの……」


 与一郎が困惑(こんわく)したように言う。別所は一万以上の兵を動員できる。その上、赤松や宇野が援軍に来れば、兵力は三万を(ゆう)に越える。


「三好の援軍も来ます。無理というわけではありますまい」


 与一郎が眉間に(しわ)を寄せる。難しいという顔だ。


「間に合えば良いですが……。私も援軍に向かいたい。されど公方様はお許しにならないでしょう」


 そうだ。今回の別所の動きの背後には義輝がいる。幕臣たちの動きは封じられた。伊勢と三好で戦うしかない。


 与一郎が湯飲みに手を伸ばした。落ち着いているが、内心は穏やかではないだろう。俺は落ち着いている。三郎右衛門と与次郎を信用しているからな。うまくやってくれるはずだ。


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