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ぐちゃぐちゃの先に

作者: ハネイサユ

小学6年生の時に、初めて友達と電車に乗って、渋谷に行ったことがある。


その時にえらく恐ろしい場所に来てしまったのだと僕は思った。ただでさえ身体のでかい人間が、肩で風を切り、横に並んで偉そうに歩いている。きっとこの人達に肩がぶつかったら殺される、と本気で思って、ブルブルと震えながら友達の腕にしがみついていた記憶がある。


そんな僕は今、新宿で終電を逃し、渋谷を目指して、ひたすら歩いている。居酒屋で何人かの友人と飲んでいたのだが、その後二次会のカラオケに行く気がどうしても起きず、

酔っていたもんだから、ふらっと一人で抜けて、なんとなく行き場をなくしたのだった。


これから一人で飲む気にもなれないから、ただ酔った頭を冷ますように、ひたすら歩いていた。代々木駅近くの明治神宮が見えた時に、まだそこまでしか辿り着いていないのかと落胆し、後悔をしたけれど、なんだか意地もあったので、渋谷までは歩いて、そこからどうするか考えようと思った。


一人で歩くと前の方で男に声をかけられていた女を見かけた。

「おねぇさん、一人?」

女は無視をして早歩きをする。

「おねぇさん、歩くの早いね」


こういうのを見ると、だせぇと思う反面、いいなぁとも思う。


彼らは評価に値すると思う。身体をそれなりに鍛えて、髪を染め、整えて、ピアスをして、服装にも気を使って、ブリンブリンのネックレスをして、自信に満ち溢れていると思うし、その分努力してるんだろうなと分かる。


僕なんかは”彼らは評価に値すると思う”なんて気持ち悪い言い回ししかできないような人間で、臆病で、恥をかくのを嫌い、常に誰かに嫌われるのを人一倍恐れている。

でもその癖、自分の個性を主張する節もあり、例えばカラオケで自分しか知らないようなマイナーな曲を入れて、歌って、周りから興ざめされたり

ちょっと人が知らないようなことを、飲み会の席で得意げに話して、話している途中でブレーキが効かなくなり、相手の表情も見えなくなる。


自分はないけど、自分が好きなのだ。


だから他人を上から見て、どこかで彼らより勝っているところを探している。


いつからこんな人間になってしまったのだろうと思っても、思い返した記憶は嘘つきだなとも思う。


過ぎ去った過去は、全て綺麗にデコレーションされて脳裏に刻まれていて、自分の良きようにに解釈されていて

思い出したところで、自分の都合の悪い記憶は全て他の誰かのせいにしている。


少し疲れたから、自販機でコーヒーを買い、ベンチに座ってみた。

「寒い…」横を見ると、もう一つベンチがあり、そこに座っている女性が「寒い…」と呟きながら空を見上げていた。


僕も特に理由はないけど真似して「寒い」と呟いて空を見上げた。

東京なのに、星がちらほら見えるのがなんだか不思議だなと思った。

そしてまん丸の満月が一際目立っていた。

「きれい…」

女性は呟く。

僕も「きれい…」と呟いてみたけど心なんか動かないし、あの月にも誰かが決めた値段があるのだと思うと、きれいなものでもないなぁ…とか思う。


言葉なんて、薄っぺらいなと感じるけど

「言葉を教えずにご飯だけあげると人間って子供のうちに死んじゃうらしいよ」と何かの本で読んだ。


それはきっと単純なことだ。辛いことがあるのに愚痴を吐く場所がないと、ストレスが溜まり、病気になる。


言葉がないと、そもそも感情が伝えられずに、病気になって死ぬ。


ゴミ箱を用意されてもゴミがなければダメで、ゴミを出さないことも許されない。需要と供給が合わないと、排除される。必要なくなるんだ。


生きるということはそういうことなんだと思う。言葉はゴミでしかない、故に薄っぺらいと感じるのだ。でも無いと困るのだ。


堂々巡りだ。

矛盾矛盾矛盾矛盾。


僕は無償に気持ち悪くなり、月を見ている女性に背を向けるように、さっき食べた軟骨の唐揚げとレモンサワーを地面へ吐き出し、そのまま眠ってしまった。


おやすみなさい。

おはようございます。


おやすみ。

おはよう。


繰り返し


さようなら。


繰り返し


そんな感じだと、僕は僕に教えてみた。


(終わり)

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