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やっぱり、僕は 第1部  作者: 冬木 車
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再開、回顧

やぁ!久しぶり。君に会うのは実に何年振りだろう。今日は来てくれるとは思わなかったよ。ただ無性に君の顔が見たくなって食事に誘っただけなんだけど。

僕は先にビールを頂いているけど、君はどうする?まぁ、そう固い事は言わずに学生時みたいに楽しくお酒を飲みながら昔話に花を咲かせようよ。

君はビールが好きだったよね?じゃあビールを頼もうか。さあさあ立ってないで座って、座って。

いやー、本当久しぶりだね。最後にあったのは10年前だろうか?君は全然変わってないね。え?僕が変わったって?それは10年もあれば変わるさ。君が昔のままの方が希少な事だよ。


今日は君の話も聞きたいけど僕の話をさせてくれないか?そんなに時間は取れない?まぁ、そう言わないで。少しだけ昔話に付き合ってくれよ。


君も知っての通り僕は昔からから肝心なところで勇気がなくてね。特に恋愛においてはそれが顕著だったんだ。今もそうだけどさ。そんな僕がなんとかしてこの人と付き合いたい、告白したいと思った人がいたんだ。なんか顔色が冴えないね。


その人と出会ったのは小学生の時だった。その子は吹奏楽部で、物静かで優しい雰囲気を纏った子だったんだけど、当時は特に意識はしていなかったんだ。


中学生にあがった頃だったか、その子が教室に1人でいた時があったんだ。下校時間もとっくに過ぎている時間に1人でね。僕は忘れ物を取りに教室に戻ったんだけど、その時のその子の表情がなんというか凄く魅力的でね。何をするでもなくただ黒板を眺めていたんだ。僕は不覚にも心を奪われてしまったんだ。


それからは彼女の事が気になってしょうがなかった。2年生に進級する時のクラス替えで彼女とは別々のクラスになってしまったんだけどそれでも僕は彼女に夢中だった。なにかと理由つけて彼女のクラスに行ったものさ。そんな僕の気も知らずに彼女は僕の存在を気にも留めないんだ。当時の僕は本当に歯がゆかったよ。近づきたいけど勇気が出ない。でも不思議と片思いをしてる期間って幸せな気持ちになるんだ。結果ぎ分からないから自分の脳内で理想の結末を想像する事が出来るからね。


そんな僕にチャンスが巡ってきた。当時僕は野球部のキャプテンをしてたんだけど、月に一度各部のキャプテンが集まるキャプテン会議が開かれるようになったんだ。部の交流や情報交換っていうお題目だったかな?そこにその女の子も現れたんだ。吹奏楽部の部長としてね。僕は心の中で飛び上るほど喜んだよ。彼女と仲を深める良い機会だからね。


でも僕はこれと言って特別な事は出来なかったんだ。キャプテン集会をやるようになってから廊下ですれ違いざまに挨拶を交わす様にはなったよ。でも依然としてそれは違うクラスの知り合いに声をかける程度のものだった。強いて僕が行った事と言えば本をたくさん読んだ事だ。何言ってるのかわからないかもしれないけど、これは僕にとっては大きな意味があったんだ。僕が好きだった彼女は読書が趣味だったんだ。キャプテン会議の些細な会話で得た情報に、僕は浮き足立った。僕も足繁く学校の図書室に通えば彼女と仲良くなれるんじゃないかってね。自分でも馬鹿だと思うけどさ。僕の目論見は半分成功した。


本を読みに行く為に図書室に通うようになってから彼女に会う回数は格段に増えたし、以前よりもより親密になった。でも、それだけだった。僕が心から望んでいた事、そう彼女とお付き合いすることは叶わなかったんだ。僕なりにも色々試したんだよ、彼女が好きそうな本を先に読んで本の貸し出し履歴に僕の名前を残した。中学校の本の貸し出しは大学のようにデジタル化されてなかったから本の最期のページに図書カードが挟んであって、それに借りた人の名前と時期を記録し、管理していたんだ。今じゃあまり考えられないけどね。そういえば、今の中学校では図書館なんてものは無くて、全部電子端末で閲覧ができるらしいよ。当時みたいに先に借りている人がいたら本を借りることが出来ないなんてことはなくなったけど、この話を聞いて僕はとても寂しい気持ちになったんだ。とてもね。まぁ、便利には違いない。


まぁ、そんなこんなで色々試したんだけど、何も起きずに季節は巡ってったんだ。体育祭も終わって、高校入試も無事終えて浮き足立っていた僕らはあっという間に卒業式を迎えたんだ。これは内緒だけど一時は彼女と同じ高校に行こうと思ってたんだ。流石にそれは気持ち悪いと思って思い留まったけどね。


小、中、高、大学校最終学年の2学期から卒業式までの期間、あれは妙に早く感じるよね。とても楽しくて、濃密な時間だからこそそう感じるのだろうか。


僕は卒業式の日、当時の僕にとっては最も勇気のある行動をとったんだ。君はなんだと思う?

僕は第二ボタンを彼女に渡したんだ。式典が終わって人知れず外した第二ボタンを僕は彼女に渡すその時までずっと握りしめていたんだ。彼女が1人なった時に渡そうと思ったんだけど、彼女は人気者でね、なかなか1人になってくれないんだ。ようやく彼女が1人になった時、確か帰り道だったかな?僕はただ一言。『また会おう』そう言って、ずっと握りしめていたボタンを渡したんだ。それは僕の中でのケジメだった。3年間何も出来なかった僕に対してのね。これを機に彼女のことは忘れようと。

その時の彼女はただ一言『わかった』と言った。それだけならまだ諦めとか、僕の中での何かが終わったという感情が芽生えたのかも知れないけど、彼女はその時僕が今まで見たこともない笑顔でそう言ったんだ。僕はこの時本当の意味で彼女に心を奪われてしまったんだ。悔しいけどしてやられたよ。

そうして彼女去っていったよ。そして僕等は別々の高校に進んでったんだ。連絡先も交換してない、家も知らない。僕等の道はもう交わることは無いとその時は思ってたんだ。。。


『やっぱり』もう聞きたくないって顔してるね。待ってくれ、お酒が空じゃないか。カイピリーニャでも飲むかい?君には馴染み深い飲み物だろ。僕も好きだよ。飲みやすくて、手っ取り早く酔えるからね。こうして恥ずかしい身の上話をする時には大いに役立つさ。なんでこんなにも僕の物語を話して聞かせるかは

最後にわかるさ。君はもう分かってるってかおをしてるけど。


つづく

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