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10 棚からぼた餅どころのレベルじゃない

 アルティン達がダナセント家のアイゼール別邸へと着くと、既にそこには大勢の人が並んでいた。

 どうやら既に、ダナセント姉妹の帰還が伝令されていたようである。

 彼等はダナセント姉妹の姿を確認すると、一斉に跪く。


「お帰りなさいませ。ファセット様、フーカ様。此度の件、ヒポタリク殿より聞き及んでおります」


 横並びの列の中央に居た人物がそこまで述べ、顔を上げた。

 その顔は深い古傷だらけで、スキンヘッドである。年齢は50代に差し掛かる頃だろうか。

 中肉中背の様だが、その顔の迫力のおかげで、跪いていてもやけにその存在を大きく見せいていた。

 その男はアルティンの姿をその目に留めると、再度口を開く。


「貴方がアルティン様ですね?この度は、我らが宝であるファセット様、フーカ様。そして、兵達の命を救って頂いたと聞き及んでおります。誠にありがとうございました!私、ディーゼント・ダナセント様より、このアイゼール・ダナセントの代官の任を授けられております、マール・ラッセントと申します」


 男、このアイゼールの代官であるマール・ラッセントは、そう言って再度、深々と頭を下げる。そこには取り繕うでなく、芯からの礼が感じられた。

 彼の目端から零れ落ちた涙が、石畳を僅かに濡らすのが見て取れる。

 どこぞの組織の鉄砲玉と紹介された方がしっくり来るその外見に反して、いや、だからこそなのか、情熱的にダナセント姉妹の帰還を祝い、アルティンに全力で感謝を示すマールのその姿勢に、アルティンは若干たじろぐが、すぐに先入観を取り払うと、言葉を返した。


「礼は当人達にこれでもかってほど言って貰えたから満腹だ。それよりこちらこそ、こんな怪しい人間を迎え入れて貰えて、深く感謝している。できれば、あまり畏まらないでいただきたい」


 マールはその言葉に頷くと、静かに立ち上がる。それに続き、他の跪く者達も立ち上がった。

 実はマール達は皆、ヒポタリクからアルティンを最上位者として迎える様に忠告されていた。単純な役職だけで見れば、執事として動いているヒポタリクよりも、代官であり家名まで持つマールの方が立場は上なのだが、マールはヒポタリクに対し莫大な恩義を感じており、その言に何の疑問もなく応じた。

 

 マールは若かりし頃、家出に近い形で長男として生まれたラッセント家を飛び出し、ダナセント家の兵士となる事を望んでこの地に訪れたのだが、その採用を渋った当時のダナセント家当主を口説いたのがヒポタリクだったのだ。

 以来10年以上、ヒポタリクの直下に付き働く事で、マールは様々な才能を開花させてもらい、果てにはアイゼールの代官の命を任ぜられるまでになった。

 それにより、自らの若さ故の大暴走によってラッセント家で起こったお家騒動までもが終息する事となり、マールにとってダナセント家は勿論、ヒポタリクには頭が上がらないのである。


 そんなマールでも、軽鎧姿で出立したはずのヒポタリクらが大森林の攻略には全く似つかわしくない、上等なローブ等を纏って戻ってきた際には大層驚いたものだが、話しを聞けばにわかに信じられなくとも、納得するほかなかった。


「ではアルティン様、本日は此処を自宅だと思ってお寛ぎください」

 

 マールはヒポタリクが感じたのと同様に、アルティンが格式張った歓迎を望まないタイプの人間であると判断して手短に迎えの言葉を述べると、横に控える使用人に目配せした。

 その使用人は一歩前へと出ると、アルティンに対し口を開く。


「私が邸内を案内させていただきます、イースと申します。アルティン様、どうぞこちらへ」


 それは年若い、獣人の女性だった。イルモと同様に三角の耳が、彼女の頭上でぴこぴこと可愛らしく動く。

 背は低く、フーカより少しだけ高い程度ではあるが、紺色のエプロンドレスといった形の衣装を盛り上げるその胸部は迫力満点である。

 どうやらヒポタリクはアルティンの視線まで観察していたらしく、マールに対しアルティンをもてなすのは獣人女性が望ましいと助言していた様だった。

 アルティンはその策にまんまと釣られ、イースなる少女の後をホイホイと付いて行く。

 

 そんなアルティンを慌てて追いかけようとするファセットだが、その前にマールが立ち塞がると、口を開いた。


「ファセット様、フーカ様、重ね重ねとはなりますが、ご無事で何よりです。ですが、伝令より聞き及んだのですが・・・」


 その言葉に、ダナセント姉妹は揃ってビクッと反応してしまい、それを確認したマールは、どうやら間違いないと確信しながら言葉を続ける。


「・・・どうやら、ダナセント家の証を失くされたのは事実の様ですね?」


 ただでさえ古傷で凶悪な顔をしているマールが、更に凶悪さを増した雰囲気を帯び始めると、ダナセント姉妹はその身を互いに抱き合いながら、声もなくガクガクと震え上がった。

 彼女達を待つのは、マールの小言と、侍女たちによる折檻である。


 皇帝より授かった家の証となるネックレスを失うという事は、時にはそれ自体が罪として罰せられる不祥事であった。

 とはいえ、状況が状況なだけに、ダナセント姉妹を本気で責め立てる者は、皇帝を含め誰も居ないであろうと思われる。

 ファセットが指揮者として討伐に赴いたのがこれが初めてであるという事は全く言い訳にならないが、そこに不手際があった為に混乱を招いたとは言い難い。というのが、ヒポタリクの報告から読み取れる。当のヒポタリクも、まさか姉妹揃ってネックレスを失っているとは思いもしないだろうが。

 面倒くさい事に、こういった場合でも誰かが叱るなりせねば示しが付かないのが家名を持つという事。

 故に、自らが厳しく罰したと上に報告し、せめて家族の再会には、その無事を祝うだけに留める様進言することが、マールなりの愛情であった。




 邸宅の庭園にて、ファセットとフーカの悲鳴が響き渡っている頃、アルティンはイースの案内で本日の寝室となる部屋を紹介されていた。

 道中極めて質素な石造りの屋内を導かれていたアルティンは、その様すらも彼の目には新鮮に映り、十二分に異世界文化を堪能できていたのだが、その寝室の扉を開けた光景に絶句する。

 赤い絨毯に、色艶だけでもそれが高価である事が分かる木製の家具類。そして天幕を張られた、大きすぎるベッド。

 異世界感というよりも、彼が思う地球での「貴族の寝室」感にぴったりと当てはまるその光景は、端的に言って、かなり彼の好みからはかけ離れていた。

 安宿どころか、友人宅に泊まる時にすら、ほとんどの調度品に触れる事ができず、そして寝具類を乱す事にすら怯え、結果的に寝不足状態に陥る事が多い彼である。嫌な汗が背を伝うその感覚は、彼がこの世界に来て初めてドラゴンと対峙した時と同等か、それ以上の緊張感に依るものであった。

 彼は自分がこの身体となってどれ程の体重になっているかも知らなかったが、その身に纏う鎧と大剣は、まず間違いなく絨毯に深く沈むであろう事を思うと、部屋に入る事すらできない。


「いかがなさいましたか?アルティン様」


 一足先に入室していたイースが、扉を開けたまま立ち尽くすアルティンに首を傾げる。

 彼女としては、一応尋ねてはみたものの、これまでの道程の質素な風景を物珍しそうにキョロキョロと見て回る様や、こんな部屋で優雅に過ごす事がこの世で最も似合いそうな美丈夫が、明らかに緊張し過ぎて入室を躊躇っているのであろうその様がなんだかおかしく、そして可愛らしく見えた。

 極力表情には表さない様に努めているが、破顔しそうになるのを堪えると、どうしても無表情になってしまう。失礼になってはいないかと、彼女は内心不安である。


「あ、いやすまない。こんな立派な部屋に、こんな格好で入るわけには行かないと思って・・・ちょっとこの場で脱いでしまっていいかな?」


 当のアルティンは、イースの無表情を全く意に介して居ない。それどころでないというのもあるが、獣耳無表情系美少女というジャンルに目覚めつつあるのが一番の要因であった。


 アルティンがインベントリを操作すべく魔力端末を取り出すと、その意味を知らないイースは傾げた首を更に傾げる。


「鎧を脱ぐのはかまいませんが、お手伝いを――」


「――大丈夫、その必要はない」


 アルティンは手伝いを申し出るイースを遮ると、魔力端末を操作して武装を解いた。

 途端、その身を包んでいた物々しい鎧や大剣が消え、代わりに彼の素肌が顕になる。ゲーム内の初期装備ですらない、キャラクタークリエイト中の、上半身裸でズボンだけ履いている姿である。

 彼のその姿に、イースは息を呑んだ。

 極限まで鍛え上げられた筋肉の凹凸によってメリハリのついた体型は、大変に男らしく、逞しい。

 だが、その鍛錬の片鱗すら見せない、女性であるイースから見ても白く美しく、透き通った肌により、逞しさ以上に神々しさすら放っていた。

 その厚い胸板に今すぐ飛びつき、むしゃぶりつきたいという変態じみた発想を抑えるのに、イースはかなり苦労した。彼女の性が目覚めた瞬間である。


「よし、これで大丈夫・・・でもないか」


 アルティンは満足げに敷居を跨ぎ、扉を閉めるが、赤面しつつ何か堪えるかの様な表情のイースを認めると、再び魔力端末を操作し、今度は前開きの黒を基調としたローブへと着替える。

 彼は見知らぬ異性の前で着替えるという経験をした事がなく、男は下半身さえ隠していれば良いという漠然とした考えで手っ取り早い着替えを選択してしまったのだが、イースの表情からそれが無礼な行為であったと判断した。

 確かに、衣料品店で上だけ試着したいからと、人前で脱ぐ人間など見たことが無かった事を思い出し、恥じた。


「見苦しい物を見せて済まなかった。イースさん」


 深々と頭を下げる。


「とんでもございません。私的には、もっと見せて頂いても構わなかったのですが・・・」


「ははは。じゃあ、今夜にでも見に来るか?俺もイースさんの可愛い姿を隅々まで堪能したい!」


 イースは思わず本音を零してしまい慌てたが、続くアルティンの言葉に思考が停止した。


 対するアルティンは、自らの無礼をイースが逆セクハラ発言で緩和してくれたものと思い、軽いセクハラ発言は許されるだろうと、それこそ軽い調子で返したのだが、イースの硬直を見る限り、それが失敗であったと悟る。

 

 アルティンにとって、気まずい沈黙がしばらく場を支配した。


「・・・それは、本気のお誘いと受け取ってよろしいのですか?」


「お、おう・・・」


 相変わらず赤面はしつつも無表情だが、何故か有無を言わさぬ迫力を込めたイースの物言いに、アルティンはぎこちなく返答する。


 アルティンが初の逮捕歴が異世界でのセクハラ発言になる事を覚悟し始めた時、イースが口を開いた。


「では今夜、こちらにお邪魔させていただきます」


 そう言ってアルティンを通り過ぎるイースは、その間際「初めてなので、優しくしてくださいね」と付け加え、部屋を出ていった。

 その際の彼女の、初めて見せた笑みは可愛らしくも妖艶で、アルティンの脳を激しく揺さぶった。


「よっっっしゃぁ!!」


 極力小声ではあるが、叫ぶ様にしてガッツポーズを取る。

 彼はまたしても、無自覚に周囲に桃色の魔力を爆散させた。

 女性軽視として問題視されても上手く反論できないくらい、主人公を前にすると色んな女性が呆気なく恋に落ちちゃうってチープな流れの娯楽作品が世に出回りまくってますが、僕もやってしまいました。

 性別問わず楽しめる様な物語を構築できればそれがベストなんですが、僕はまだ人に楽しんでもらえる文章ですら手探り状態なので、どうしても男性目線で、非現実的な欲望を叶える様な安直な流れを作ってしまいます。

 言い換えれば男の潜在的欲望って、気に入った女の子皆とエッチな事をしたいっていう、最低な願望やんけ!と思われるかもしれませんが、少なくとも僕はその通りです。(真顔)

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