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1 森の中、寂しすぎて

 大樹が立ち並ぶ深い森の中を、2メートル近い巨躯を誇る男が、一人気怠そうに歩いている。

 顔立ちは凛々しく、20代中ほどの年頃だろうか。しかし、無造作に生えた髭の不衛生さと、鋭く、力の籠った眼光が影響し、それ以上の年齢の雰囲気を纏っている様に見える。

 筋肉質ではあるが太すぎず、引き締まったその巨躯は、今は頭以外を赤黒い鎧に包まれ、その背には彼の身長にも匹敵しそうな長さの大剣を背負っていた。大凡、深い森を歩く様な出で立ちではないが、その気怠そうな雰囲気は、単純な肉体的疲れというよりも、主に精神的な面から出ている様であった。


「こっちへ来て、そろそろ3週間くらいか・・・」


 彼はポツリと呟き、適当な大木の根に腰を下ろした。

 深い森。地球であれば世界遺産も狙えるのではないかという大樹が無数に立ち並び、その葉が空を覆っているが、さほど暗くはない。

 それは時刻的に木漏れ日がふんだんに降り注いでいる影響もあるが、彼の足元で淡く自ら発光する、無数の花々の影響もあった。

 やはり、地球とはかけ離れている。

 そんな事を考えながら、彼は大きめに嘆息した。


 彼の名はアルティン。

 元は日本人で、30代前半の会社員であったのだが、とある神の悪ふざけにより、彼が熱中していたゲーム内で、彼自身が作成したキャラクターの名前、外見、能力、装備の多くを引き継ぐ事と引き換えに、地球どころか、そのゲームとすらほとんど接点の無い世界に飛ばされたのだ。


 彼はこの世界に来て3週間ほどと口にしたが、実は既に4週間目に突入しそうになっている。

 ここまで時間的な狂いが生じているのは、彼自身が体感以外に何一つとして記録を取っていないことが一番の理由ではあるが、とある神が彼を飛ばしたこの大森林の、昼夜問わず淡く光る草花に依るものも大きい。


 神はアルティンに、この世界に関する知識をほとんど与えないまま、この不可思議な大森林に放置した。

 その目的はアルティンの観察であると明言されており、多少交わした会話の中から、本当にそれ以外の目的は無いであろうことが、アルティンには何となく伝わっていた。

 神にとって、彼の存在などモルモットと大差ないのであろう。

 とある群れのモルモットの一匹に大きな力を与え、別の群れに住まわせ、その行動を観察する。人間的に言えば、そんな程度の行為なのだと伺えた。

 とはいえ、アルティンにとってその悪ふざけは悲観する様な物ではなく、むしろ歓迎していたのだ。

 彼自身が想いを込め作り、育てたゲーム内のキャラクターに成り、ファンタジーな世界で新たな人生を歩む。

 恵まれた環境に生まれた事を自覚しつつも、年を経る毎に鬱屈とした感情が大きくなっていく事を感じていた彼は、一も二もなく神の誘いを受けた。


 受けてしまった。

 彼はこの大森林の中でひと月近く生活し、早速、自らの決定をおもいっきり後悔し始めていた。

 神が与えてくれた、数少ないこの世界に関する知識の中で、剣と魔法の世界であり、確実に人や、それに準じた種族が存在する事は確認していたし、加護によりこの世界の全ての言語を理解し、操る事も可能となった。

 だが――


「人に、会えない・・・」


 そう、このひと月近くの間、彼はまるで人間に会っていない。

 最初の内は、それでも問題はなかった。

 元より人と関わるのは嫌いではないが下手であったし、彼自身が地球で培ってきた狩猟や採取に関する知識と、ゲームから引き継いた能力をフル活用すれば、食料に困る事は無かった。

 アイテムを無尽蔵に収納できるインベントリにはキャンプ道具どころか、簡易的なログハウスなども多々有り、寝るにも困らない。

 アルティンが地球で夢見ていた、職に縛られない本来の生物らしい生き方を、科学を凌駕した便利機能の数々により、安心安全な状態で送る事が可能になったのだ。

 実際、彼はつい先日まで、たまに出くわす生物を狩り、その生命を糧とする事に、大きな感動を得ていた。


 それは現在でも、ありがたく命を頂く様に心がけているが、流石にここまで孤独が続くというのは、アルティンにとっても辛いものとなりつつあった。


 

「人に、会いたい・・・」


 いざ口に出してしまうと、その事実はより一層精神に食い込む。

 彼の表情は最早、気怠げを通り越して亡者の様相となっていた。


 一切他者と接触せずに生きるというのは、いくら人付き合いが下手であっても自分には不可能である事は重々承知していた彼であったが、まさかこんなに早くに限界を迎えるというとは思いもしなかったらしい。

 地球での生活でも誰とも喋らない日はあったが、自分以外の人間の実在を疑う様な孤独経験はしたことがない。

 しかし彼は、そんな自分の寂しがり屋な所を素直に受け入れる。


「よし。本気でこの森を抜け出して、人を探そう・・・」


 消え入りそうな声であるが、その中には確固たる決意が伺えた。

 アルティンは今、とにかく誰でも良いから会って話そう。そして恥も外聞もなく、寂しいので構ってくれと宣おうという、目標を定めたのである。


 ゲーム中では完備されていたオートマッピング機能や、最寄りの街へと転移できる魔法やアイテムは、観察に差し支えるという神なりの理由で除外されてしまったが、幸い彼には地球で培ってきたサバイバル能力がある。

 それは地球で言っても素人に毛の生えたレベルのものであるが、少なくとも近場を延々と巡る様な技能ではないと、彼は自負している。

 問題は全くのノーヒントでこの大森林から、人工物に当たるのは直感に頼るしかないことではあるが、精神的な面を除けば、体力的にも、装備的にも余裕はある。つまりはタイムリミットが無いに等しいという事だ。

 気は急くが、いつかは誰かに会える。


 極力ポジティブに先を捉えると、アルティンは軽く勢いをつけて根から立ち上がり、森の中へと消えていった。

人に読んでもらう前提の文章を書くのは、おそらく小学校以来だと思います。

いい歳こいて妄想癖だけは健在なので、それがありがちな物でも何でも、世に出してみようという気持ちからコレを書き始めました。

日記以上、作品未満でも、ある程度人に伝えられる文章力を鍛えていきたいのですが、読む方によってはそれ以下の物になるかもしれません。

ごめんなさいと、予め謝っておきます。

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